第412話 √3-64 気になる彼女はお姫様で未来人で。
十一月八日
退院は日曜の昨日のことで。
治療はは桐のチート能力がほぼやってくれたらしく、担当医が治癒の速さに驚いていた。
そして日曜の夜は改めて姉貴からの説教と状況説明を要求された。
……まあ、勿論オルリスと行動していたのは不思議がられる訳で。なんとか誤魔化すことは出来たけども。
そして朝の七時ほど。携帯の着信が鳴った。
『おはようございます。ユウジ』
と一文だけ。何の絵文字もなく簡素な文が送られてきた――差出人はオルリス、律儀にもタイトルにも『オルリスです』と書かれていた。
俺はそのオルリスから送られたメールはどれも飾りっ気のない淡泊なものだと思い出して、何故か笑みが漏れた。
俺が絵文字で返したら戸惑ってあたふたとしそうな気がして、さらに可笑しくなる。まあ出来ないからしないけど。
『――おはようオルリス、今日会えるのが楽しみだよ』
うはぁっ、キザッ! でも送信っと。
で、着替えている間にまた着信。
『t楽しみnにしています』
「ぶはっ」
焦ったんだろうな……タイプミスしてる……ははははははははっ!
で、今メール送って自分の見返して青くなってたり……おおう、なんか可愛いな!
そして更に着信で。
『楽しみにしています』
「あははははははははっははははははは!」
可愛い! なんとか取り繕うとしてるのが彼女らしすぎてそのイメージするだけで……俺の彼女さんマジぱねえっす。
……でもエンドレスループになりそうだから、返信はやめておこう。
今日は先に学ランに身を包んで朝食を摂っていると、着信が鳴った。
「ごめん、俺」と言って携帯を開くと、オルリスより。
『ごめんなさい。もしかして嫌いになりましたか』
「ぶっ」
「ユウジさん!?」
危うく牛乳を吹き出すところだった、ギリギリでこらえたから口内で収まったけども。
……なんというか彼女はまじめ過ぎて、不安になっちゃうんだろうな。で、俺はある短い文で返信。
『大好きだよ』
この五文字が果たしてどれぐらいの威力を及ぼすのか、学校が楽しみで仕方ない。
「ユ、ユウジ……さん。おは、おはようございますぅっ」
彼女は校門で待ち構え、顔を真っ赤にして声を張り上げてそう挨拶してきた。
俺は笑いをこらえて、平然といつものように挨拶。
「おはよ、オルリス」
「は、はいっ」
かっわいいいなあ。
「おはよう、クランナさん! でも、どうしたの? 顔赤いよ?」
姉貴はもちろん、ユキやユイにマサヒロとも今まで通り登校してきたわけで。
ユキはそんなオルリスの顔を見て疑問を投げかけた。
オルリスはどうやら俺しか目に入ってなかったらしく、声をかけられてユキたちに気付いた風で。
「……な、なんでもないのです。お気になさらず」
そのユキが聞いた途端にオルリスの顔から赤みは引き、更にはユキにそう答える一方で俺へは睨みの視線を向けてくる。
この受ける視線はこうだ――『どうして他の女生徒とも登校しておりますの?』という意味が分かりやすく理解できた。
……はてさてどうしたものか、このまま付き合っていると告白すればどうにかなるかもしれないけども。
「オルリス、途中まで一緒に行こうぜ?」
「……はい」
不機嫌だなあ、それでも彼女は少しユキ達よりも先を歩く俺の隣に陣取るよう、に昇降口までの道のりは歩いていく。
そして二人の間に聞こえる程度に俺は彼女の顔に耳を近づけて、
「(オルリスどうした?)」
「(……やはりあなたは好かれているのですね)」
「(ユキとかと登校するのダメか?)」
「(駄目とは言いませんが……)」
「(じゃあカミングアウトする? 俺たち付き合ってますーって)」
「ダメですわっ」
せっかくヒソヒソしてたのに。
「ク、クランナさん?」
「クランナはん?」
ユキとユイも突然声をあげられれば反応するのは当たり前で。
「な、なんでもないんですの! 驚かせてしまってごめんなさい」
そう振り返って謝り二人も「そ、そう?」「ぬ」と一応の了承。
でも、さっきからこのヒソヒソが怪しまれているのは確かなことで。
「(で、なんでダメなんだ?)」
「(それは……は、恥ずかしいではないですか)」
「(俺が相手だから?)」
「(そんなことありませんわっ! あなたが役不足だなんて一度も思ったことはありませんっ……純粋に恥ずかしいのです)」
俺は少しだけ”俺だからダメ”なんだとも思っていたから、そのオルリスの言葉は嬉しかった。
まあ、それよりも――照れてるオルリスが可愛すぎるんだけどね! なんというか、人目を気にしなかったら抱きしめてあげたいぐらい可愛く……愛しく思えてくる。
俺の彼女さんマジ半端じゃねえぜ。
「(まあオルリスの心の準備が出来次第ってことで)」
「(……はい。わかりました、色々ありがとうございます)」
そうお礼を言ってくる隣の彼女の顔を覗くと――そこにはかつての不機嫌さなど微塵もなく、自然で柔らかな少女な笑みを浮かべているのだった。
そんな彼女のずっと見ていたいような笑みを絶やさぬように、一生賭けて守っていきたいと改めて俺は心に誓った。




