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@ クソゲヱリミックス! @ [√6連載中]  作者: キラワケ
第十三章 気になる彼女はお姫様で未来人で。
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第404話 √3-56 気になる彼女はお姫様で未来人で。

 俺は走っていた。

 ジャージ姿でポニーテールを激しく揺らしながら、前を走るオルリスを追いかけるように。

 わけもわからず、脳内で状況を整理しよう。そんな瞬間に彼女は走り出した。


 何かから逃げるように。

 そして俺もその事実を信じられなかったから、彼女を止めることなく走っているのかもしれない。


 それは「岡」と呼び「アイシア=フィール」とも呼んだ女子生徒とオルリスが対面した時からのこと――



* *



 その日は水曜日。通常の学校授業のある日。 

 一週間の休みを家庭の事情ということで申し付け、オルリスが学校を休んで二日目。


「…………有川君も石江さんも休み、それに――」


 一年四組の教室には多くの空席が目立っています。

 それも――おおよそクラスの半分が。

 まるで学級閉鎖になる直前のような、そんな四十人近くいる生徒の半数が欠席していたのです。


「クランナは休みの理由はわかるとしても、岡やほかのやつらはどうしたんだ……?」


 ホームルーム中の教室を見渡して、男子生徒の滝川は呟く。

 休むのは男女関係なくほぼ半数。滝川の周辺に限っては避けるように空席が並んでいます。


「……何があったんだ?」


 岡がいない。そう、なぜなら岡は――



* *



「タイムマシンは一つじゃないんですよ――そして、勝手に結婚相手を私から変えないでくださいね」


 クランナが岡と呼び、オルリスがアイシアと呼んだ四角い黒縁眼鏡をかけた黒髪の女子生徒はそう言った。

 結婚相手を私から変える……? それはまっすぐに捉えれば、岡。いやアイシアがオルリスの結婚相手だと言っているようなもの。

 でもそれは本来おかしいことなのだ。なぜなら彼女は女子生徒、オルリスも女子生徒であり――同性だ。本人からしたらギャグの一環かもしれないが、俺からしたら悪いジョークにも聞こえる。

 それにオルリスの「連れ戻しにきた」反応から見るに、未来から来たオルリスを連れ戻しにきた。オルリスと同じようにタイムマシンを使ったということが考えられる。


「おいオルリス……この人は」

「…………」


 聞いても返ってくるのは沈黙のみ。

 でもおそらく、もしかすると彼女は本当に結婚相手なのだろう。

 それとクランナの人格の際に岡と呼んだことから、オルリスがクランナに憑いたように岡にアイシアという別の人物が憑いた。

 憑く対象が自分でなければいけない、という制限がなければ男性相手ということも可能性の一つに入れられる。


 ……結婚相手か。

 そしてオルリスが過去に婿さがしに行くことを理解しての行動。


「…………」


 いざ、その事実を突きつけられると痛いなあ。そっか、この人と……か。

 俺はそうしてオルリスの表情を覗いた、


「…………」


 不機嫌そうな、納得のいかないような――そしてどこか悲しそうな表情をしていた。

 わざわざ過去に来てまで婿さがしをするほどに、この人と結婚させられるのが嫌……ということなのか?


「オルリス、帰りましょう。私という結婚相手がいながら――」

「私が認めた覚えはないのですっ!」


 そう吐き捨てるようにオルリスは言うと、アイシアの仁王立ちしている方向とは逆へと走り出す。


「お、おい! オルリスっ」


 俺はオルリスを追っていた。

 後ろを振り返れば、


「逃さないですよ。彼女を捕まえてください」

「「「「かしこまりました――」」」」


 いつの間にか存在し、身を寄せるようにアイシアの周りには人が集まり答える。 

 そして取り巻きというよりSPに近いその人たちは黒いスーツに身を包み、サングラスまでしているが……一人だけという話というわけではなく、身長的にはどうしても大人には見えないのだった。

 そう、どちらかといえば高校生ぐらい――



* *



 町中を走り回っていた。後ろには黒服の高校生ぐらいの容姿の男女が追いかけてきていた。

 生徒会やらで走り回ったことは確かで、思うほどには彼女と走れていた。

 俺は追いつくように彼女の隣に並ぶ。

 俺に対する態度がわからないけども、とりあえず一つ。


「ジャージでよかったな?」

「…………そうですわね」


 一応返してくれた。


「なんで逃げてんの?」

「そ、それはっ!」


 こちらを向きながら、少しの怒気を孕ませて。


「…………あとで話します」

「そっか」


 いよいよ、詰み。

 オルリスの言う結婚相手、彼女か彼だかはわからない。けれどもオルリスが反応し、こうして逃げている以上その事実に変わりはない。

 俺の今片思いの彼女は、すでに未来が決まっている。

 それを覆せる最後のチャンスが、このオルリスのやってきた一週間で。

 そのチャンスさえなくなりそうな事態に瀕している。

 今から十年後にタイムマシン……というのも現実味はない、でも今こうして起きている事柄からは少なからず信じるしかない。

 彼女とアイシアは未来からやってきて、無断で過去に婿さがしにきたオルリスをアイシアは連れ戻そうとしている。


 そういうことだった。


 オルリスという人格が連れ戻されるだけで、おそらくクランナは残るのだろう。

 だけども未来を変えるチャンスは失われてしまう。

 アイシアがオルリスが過去に行ったことを理解し追いかけてきた以上、今度も同じような手は使えないとも踏んで。

 オルリスの向かった時間軸での過去で婿の相手を見つける、それが必要条件だった。


 でも見つからなかった。

 

 もしクランナに、オルリスのいなくなったクランナに俺が告白しても未来は変わるのだろうか。

 おそらくは変わらない。オルリスがいて、もしかするとアイシアがいるこの時だけしかチャンスはないのだろう。 

 あと四日ほどはあるはずだった、未来に戻るまでの猶予が今日で終わってしまう。

 俺はクランナのことをわかって、しっかりと愛してくれて、クランナが好きだと思える人ならいいと思った。

 

 アイシアのことはよく分からないが、クランナの反応を見る限り彼女のことを分かっていない。それにクランナが好きなようには見えない。

  

「なあ、オルリス。なんで婿を見つけなかったんだ?」

「…………私に見合う方がいなかったのです」

「でも結婚相手とは拒むのな……一体どうしたいんだ?」

「わ、私にとっては大切なことですのっ! だから……悩んで決めたかったのです」


 その気持ちは分かった。

 でも彼女は時折婿を探していないんじゃないかと、思えるようなことをしていたことを俺は知っている。


「俺さ、結構真剣だったんだぜ? オルリスにとって本当に大切な選択だから、だから俺は――」


 何様だといわれても、安心したかった。どんな容姿でも性格でも、おれが任せてもいいという相手ならば。

 もちろん彼女が望む相手ならば、俺は何も言えないのだけども。


「――もっとやりようがあったように思うんだよ」

「……っ」


 彼女は言葉を詰まらせる。

 この数日間。実質二日間は動けたのだ。それでも彼女は一日目は話して、二日目は隣町で探すようにして町を楽しんでいた。

 お前はどんな身分なんだよ、お前はいったいクランナのなんなのかとも言われることぐらい分かってる。

 でも自称友人だ。少なくとも仕事仲間ではあるんだ。彼女のことが心配で、つい気になってしまう……俺にとっては好きな人なんだ。

 婿が見つからなければ、俺は告白するつもりだった。玉砕覚悟なのは理解してて、でもオルリスにクランナに知ってもらいたかったのは確かだった。


 でも、今日で終わりなのかもしれない。

 終わりは常に突然だ。


「…………」


 このただでさえ未来からアイシアが追いかけてきて、そんな状況で俺に告白なんかされたら。

 きっと混乱して、俺は彼女を困らせてしまうだろう。

 その一方で思うのは、彼女は基本的に真面目で答えを出すのが早い。

 

 だからキッチリ言葉をくれて、シッカリと振ってくれると思う。


 振ってくれるならそれでいい、本当に振ってくれないよりは――幾何もマシだ。

 女性は切り替えが早いというし、きっと大丈夫なはずだ。

 

「後悔するぐらいなら……だな」

「――なにか仰りましたか?」


 俺は決意を決めた。

 彼女の手を引いた。


「な、なんですの!?」

「や、ちょっと彼らを撒く方法を思いつてね。さあさ行こうか」

「ちょ、ちょっと――」


 俺は彼女が転ばないように、疲れすぎない程度に速度をあげて彼女の手を引いた。

 ……人が来ず、隠れ場所もあって。逃げ込む先を俺は思いついていた。


 目の前には山が見える。




 

「ここなら隠れ場所が多いですわね」

「だろ?」


 俺とオルリスは息を切らしながら”神石”の後ろに隠れるように座り込んでいた。

 かつて三月の末、ホニさんと出会った場所。

 ここは墓参りか、物好きにもほどがある肝試し参加者ぐらいしか訪れない場所。

 町をある程度を理解して、地図を持っていたのも幸いしてかく乱するように走り山へと入った。


「……ありがとうございます、ユー」

「お礼はいいとして、じゃあ逃げてる理由を聞いてみよう――」

「そ、それはですわね……」

「かと、思ったけど。俺からまずは――伝えたいことがあった」

「……なんですか?」


 彼女は仕事と私情を割り切るだろうから、きっと俺を振ったとしてもそれほど変わりないだろう。

 ぶっちゃけ俺が彼女に好かれる要素なんてどこにもない。

 出会いは最悪で、それからも好かれる行動なんて一度もとっていない。

 逆に節介すぎて嫌われるパターンなのだと思う。

 それで勝手に気になって、目が離せなくなって、彼女の婿となるかもしれない相手に嫉妬して、彼女の結婚相手に少なからず嫌悪のようなものを抱いて。

 どれだけ俺は身勝手なのだと思う。 

 そしてこの告白も彼女のことなんて考えてない、時間がないから。きっと最後のチャンスだから。

 焦って焦って――口に出すこと。

 これからの関係が壊れることも予想できるのに、でもこの衝動を。最後の機会を逃したくなかった。


「俺はさ、卑怯なんだよ。散々手伝っておいて、このザマだもんな」


 気持ちを隠して、彼女の幸せを願うからと。そう決意をしておいて。


「…………」

「でも、これだけは伝えたかったんだ」


 振られるだろう、振られること確実だ。

 でも、それでも言わないで後悔はしたくないから――


「オルリス。クランナも聞こえてるかもしれない、俺は。俺、下之ユウジは――」


 二人は聞いているだろう。そして答えをどちらかが、または二人が出すのだと思う。

 今の彼女と、未来の彼女に。もしかするともういなくなるであろう未来の彼女にも、これからもよき仕事仲間として過ごしていくであろう今の彼女にも。



「あなたのことが好きです」




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