第097~103話R √1-2 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
五月十一日
いつものようにユキと登校して、昇降口を抜けるのだが……なんだか俺を見る目がいつも以上に厳しい。
これまでが嫌いなヤツを見る目だとしたら、まるで犯罪者を見るような目だ。
失礼な俺が犯罪なんて――ごめんなさい、本当にごめんなさい。
あー、これはもしかすると転校生ヒロインことオルリス=クランナとのことが知れ渡ったんだろうか。
田舎の情報ネットワークを舐めてはいけない……それ以前に目撃者多数で時間の問題だったか。
しかし俺に激しい視線をぶつける者が手に持つ謎の新聞らしきペーパーは一体……?
当たり前のこととしても、肩身の狭い思いをしながら教室に入っていくと――
「(ん?)」
おおおおぉ……なんだか寒気が!?
前触れなく俺の身体全体かと言わんばかりの規模で鳥肌ぶわあああああああと立ったのだ。
「――ユウジ様」
また寒気がぶわああああああ! そうした俺は聞こえた声に振り向けば――
「――おはようございます」
言い知れないオーラを放つ姫城さんの姿がそこにはあった。
「今日はいい天気ですね」
よっぽど話題が無ければ口にしないようなことを……!?
「ああ……良い天気だな」
しかし、おそらくこれはきっと――
「ところでユウジ様」
本題に入る際の取ってつけたような導入なのだと、ある程度は察していて――
「このことに身に覚えがありますか?」
「このこと……?」
すると姫城さんは持っていた物を広げる――新聞? アイパマ新聞? なんだこれは……!
ちょっと待って、ちょっとばかしシンキングタイムを頂きたいのだが……そんな猶予は無いか。
そして見出しのタイトルは”衝撃! 副会長弟のセクハラ現場激写!”というものだった。
いや……副会長弟って俺しかいないし、カラー写真だけに丸わかりな金髪の女子生徒と言えばクランナさんしかいないし。
「……非公式新聞か!」
非公式新聞。
人気生徒同士の関係性に迫ったり、教師間の熱愛やら、学校の七不思議、部活の不明瞭な部費の実態、来期テストの問題予想コーナーがなどが載ったゴシップ新聞のようなものだ。
基本的には記者が妄想で書いたような記事も多いのだが――時折マジな記事が混じっていると巷で噂の悪名高い新聞だった。
「この記事のことです……ユウジ様は、実際にこのようなことをしたのですか?」
「!」
そうか、そうだよな。
その質問は来るよな……言ってしまおうか、死を覚悟して言ってしまおうか、命を惜しんで嘘をついて白を切るか――
いや……プライド的にそんなヘタレ主人公みたいな後者を選択出来ない。
嘘はつかない、俺にとってのありのままを話す。
いくら不可抗力だったとしても、その事実には変わりは無いが――
「ああ……その記事の通りだ、姫城さん」
「っ!?」
正直に言ってやった……!
しかし、この震えはなんだ……? 体のあちこちが震えてやがるぜ……!
「……そうですか、お答え頂きありがとうございます」
「でもですね、ユウジ様」
来るか……!? ギャルゲーにおけるバッドエンド的なのを俺は覚悟しているのだ。
なにせユキと抱き合ったように見えただけで俺の殺人未遂・自殺未遂を起こす子だ……どうなるか分かったものじゃ――
「言ってくだされば、私は構いませんでしたのに……」
「……え!?」
そうして彼女はと言えば、俺の右手を掴んだかと思うと自分の胸元へ持って行き――ふに。
……え?
「ユウジ様……いいんですよ?」
「ええええええ!?」
「これであの子と私は対等な立場です。どうですか? 私の方が揉み心地はよくありませんか?」
やわらかいしボリューミィ、うーんこんなに大きいとは予想できなかったな。
まさか着やせしてあの大きさだったとは――
「ええええええええええ!?」
「なんだってえええええええええええ」
「うおおおおおおおおお、やりやがったなあああああああああ」
順にユキ、ユイ、マサヒロ……が驚愕していた。
全員絶叫クラスなだけに教室内というか、もろにクラスの注目の的になってしまう、
「いやいやいや姫城さん、これは――」
このポージングはまずいって! 早く手を姫城さんから離さない――って抜けねぇ! ああ、ガッチリ俺の手をホールドしてらっしゃる!
「……ん」
俺が手を動かしたばっかりに……もう、更に状況がおかしくなってる! どういうことなの……お陀仏を覚悟していたら逆セクハラされたでござる。
ああ、姫城さんの心の内がわからない!
「っ! 姫城さん……手を離してくれないか?」
「駄目です」
ああっ、速効で断られた!
そして力が強い、なにこれ今火事場の馬鹿力ってやつなのか!?
「こ、こんなことしてどんな意味があるんだ!?」
「……私が嬉しいんです」
……痴女かな?
ちくしょう! 思ったよりこの子アブノーマルだったわ!
ああ、唯一無二の最後の良心ことユキさんやこの惨状を見ないでおくれ。
俺が仕向けたことじゃないんだよ。 本当なんだよ。 あ、ユキさんがなにかおっしゃ――
「……あわわわわわわわ――」
見ないでください。
これ以上俺を見ないでくだしあ!
「……ユウジめ、羨ましい」
ユイがそう言ってるが、一応君女の子だよね……意外とそういうものなのかね。
「呪呪呪」
のろのろのろ……ちなみにマサヒロ。
……いや、なんというか普通の反応だな――ってオイ! さりげなく鉛筆投げてくんな! しかも鉛筆の7Hとか芯が出てたら硬過ぎて本当に刺さりかねないぞ!?
「――――」
あのクラスの男子の方々、物を投げないでくれませんかね。
ケシゴム、ボールペン、定規、延長線上のホライズン胸、分度器・分度器・分度器……分度器をもっと大切にしてやってくれ。
「ちょっと姫城さん――」
「ふわ――ふふ」
じ、自分の世界にトリップしてらっしゃる……それでこのホールドは強すぎだろ!?
それからはというと。
姫城さんは俺の手を自分の胸へと使いどころが間違ってる火事場の馬鹿力と言わんばかりの勢いで押しやって行くので、容易に脱出出来ない。
動けないので、嫉妬に狂ったクラスメイトは鈍器投げ放題……いや、ちょっと背中に当たって来てるんですけど!
しかし、そんな俺に手を差し伸べてくれたものは――予鈴のチャイムだった。
チャイムに一瞬の隙を見せた姫城から俺は、使い方の合っている火事場の馬鹿力を発動。
幸運にも脱出、即―により自分の席へと辿りつく。
チャイム……またお前に助けられちまったな。ありがとよ、チャイム。
あぶなかった。 ああ、あぶなかった。
その十秒後にいつもは遅い担任がやってきたのだから冷や汗モノだ。
本当に大変な目に会ったぜ…………いや、まぁ正直良かったよ? 胸、柔らかかったし、温かかったし、なんとも懐かしかったし――
でもね、場所というモノをですね。
分別というのをですね……流石に教室の中心で女子の胸を揉む(揉ませられる)なんてさ。
そりゃ温厚なクラスメイトも血気盛んになる訳ですよ、俺がそんなもん見せつけられたら手榴弾投げつけてもおかしくないですしおすし。
だからクラスメイトは責められない……しかし、一気に敵が増えただろうけど……これからは夜道には気をつけなくては。
しかし、なによりの問題はだ。
「…………」
無表情のユキだ。
怖い……なんか怖い。
まだ怒っていたり、悲壮に満ちた表情の方が良かったのに。
一番困りますって……どうしたものか――
1時限目終了、ユキのことが気になって授業どころじゃねぇ……とりあえず、声をかけてみようか。
まずはユキへと近づいて、椅子に座る彼女の目線までしゃがみ、そして小さな声で――
「あ、あのユキ?」
「……」
「ユキさん?」
「……」
「ユキさーん」
「え」
え?
「あっ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「そ、そうか」
む、無視でなくてよかった。
「えっとね……胸」
「え?」
「いや胸を揉まれるとどう感じるのかな……って」
「!?」
分かりません。
絶対に俺には分かりませんとも。
というかそんなことを悩んでたのかよ!?
「あ、いや! ユウジに聞いても分からないと思うんだけど……姫城さん見てて思ったの」
「いや、あれは、だって、無理やり」
すこし混乱気味なんだぜ、どうすればいいんだぜ!
「……姫城さん気持ちよさそうだった」
ギャルゲというか十八禁ゲー的展開! これ以上いけない!
「ユキさん、あれはですね……違うんです」
「……大丈夫、気にしてないよ。男の子だもんね」
諦め入っちゃったよ……好感度の下降っぷりがヤバい。
「本当に俺からじゃないんだって……」
「でも……直ぐに離れなかったよね?」
少し怒ってらっしゃる! ど、どうにか誤解を解かなければ――
「姫城が押さえつけてきて」
「……責任逃れ?」
まああああそう聞こえるよなああああ!?
「それになんだっけ? 新聞の記事の見出し。転校生にセクハラだっけ?」
「あれもこれも俺の意思じゃないんだって!」
「……ふんだ」
あ、これ割とキツイ……ユキに嫌われると思うとすげえきつい。
それでも……ユキの言う通りなんだよな、結果的にセクハラに違いないよな。
オルリスの場合はあっち側から見たらそりゃあもう完全なセクハラだし。
姫城さんは……一応俺以外にはキチンと優等生だから、皆には俺にあんなことをされたとしか見えないだろうし――
「やっぱり……俺が悪いよな」
色々言い訳していまった。
いくら理不尽でも、不可抗力でも……自分のやってしまったことは認めなくてはならない。
いつまでも駄々をこねていては一向に前へと進めないだろう。
「ごめん……ユキ。俺が悪かった」
「なんで私に謝るの?」
自己満足……なのかもしれない、謝ることで罪の意識から少しだけ解き放たれるという無責任。
「言い訳した俺が悪かった……ユキの言った通りだ。 俺は結果的に二人にセクハラをしてしまった」
「じゃあ私より謝った方がいい人が居るんじゃないかな?」
「……!」
そういえば、クランナさんはこの新聞に載ったことを知っているのだろうか。
あの生徒会での顔合わせた直後、クランナさんは生徒会室を抜け出して帰っていってしまったのである……だから俺は謝れていないのだ。
そしてこの新聞のことを知っていても、知ってい無かったとしても――クランナさんに、ちゃんと謝ろう。
許されなくても、せめて反省の意をこめた行動をすれほかないのだ……。
「ごめん、わかった」
理解した、完全には許してくれないだろうけど。
俺はこれから――
「なんでまたユウジが私に謝るの……ふふっ」
ユキが笑ってくれたことにホッとする俺がいて。
「がんばって!」
「ああ」
エールを送られるようなことなんかじゃないのに、な。
それでも嬉しく思ってしまうし、ユキのその気持ちが有難く思えてしかたなくて――
今考えるべきことじゃなくても、こんな子が俺にとって本当の幼なじみだったら……と思えて仕方なかったのだった。