第402話 √3-54 気になる彼女はお姫様で未来人で。
「で、なんで本当に隣町なのかと」
俺はそう不満をこめて呟いた。
「なんとなくです」
と笑顔で言うオルリス。いやまあ姉貴にこれで嘘はついていないことにはなったけども。
今乗る列車は朝の時間帯だから混雑真っ最中。朝ラッシュよろしくで、オルリスとの距離は十数センチもないだろう。
「とりあえずは、隣町に行ってみましょ?」
「……乗ったからにはな」
緊張しまくれとは言わないが、もうちょっと……これから生涯の相手を見つけるってのに、傍から見れば楽しそうってのはなあ。
そんなときに、
「!?」
ズシンと一瞬だけども頭に何か圧しかかるような感覚。
窓の外を見ればトンネルの中なのか、真っ暗でトンネルの証明だけが僅かに見えていた。
「あのユー……今何か感じませんでした?」
「ああ、なんかずしっと」
しかしそれを感じ取ったのは俺とオルリスだけのようで、混雑する電車内の乗客には何か変わった様子はなかった。
「……?」
そうしてしばらくして、隣町へと着いた。
「で、どうするんだ?」
「さあ?」
「オ~ル~リ~ス」
「い、いえそうですね! とりあえず回ってみましょう?」
「それよりも、なんで藍浜じゃなくてコッチなんだ? そもそもこの時期に来たのだってあの藍浜で選ぼうかと思ってたからじゃないのか?」
「……あ、絞る手もありましたね」
うわあ、マジかよ。
「オルリスさ、本当に婚約者探す気あるの?」
「あ、ありますわ」
「昨日は話して終わったし、今日も……なんか嫌な予感しかしないし」
「……はぁ」
ええ……なんか呆れたように溜息つかれた。
「溜息つきたいのはこっちだってのに……」
「(少しは気付いてほしいものですわ……隣町に連れ出しているのですから)」
なんだろうな、俺。なんかイライラしてんだな。
オルリスといるのは嫌じゃないけども、探す理由が俺にとって喜ばしいこと……じゃないからかもな。
「スマン、なんか当たって」
「いえ、私も見つけにやってきたのですから――ユーのお手も借りていることですし、探しましょうか?」
別に手を借りるのは構わない……そう言おうとして止めた。
とりあえず、探しにいくとしよう。
「オルリスはどんなヤツが好みなんだ?」
それは調査対象的にも必要な情報で有ったけども、俺も気になることではあった。
「それではユーの好みはどんな方ですか?」
「いやいや、聞いてるの俺だから。そして俺聞いてどうすんの」
「名前を名乗るのは自分から、と同じようにですわ」
手伝ってる立ち場なんですけども。
「……言えば言うのな?」
「はい」
てかなんでそれでオルリスはそわそわするのかと、本格的に意味が分からなくなってくる。
「ほっとけない人……とかじゃダメか?」
「このように突然婚約者を六日間で見つけるなどと言いだすような方とかですか?」
……ピンポイントだし、自覚あるのかよ。
でも、まあ。
「……嫌ではない」
「そうですか、じゃあ私は構ってくれる人大好きです」
……俺は容姿とかの明確な好みを聞きたかったんだけどな。
「構えばいいのか?」
「そうすれば私、惚れちゃいますよ?」
「冗談がお上手で」
「いえ……(別に冗談のつもりはないのですが)」
「そういう風に言うと、男ってのは勘違いするもんだぞ?」
「……あなただけなら勘違いしてもらっても――」
その途端に携帯が鳴った。着信音はユキから、
「悪いオルリス……っと、もしもし」
『もしもしユウジ? どうしたのサボリだなんて、何かあったの』
特に焦る様子ではないけども、とりあえず聞きたいことがあるような声で聞いてきた。
「たまにはね、とりあえず何か大変なことに巻き込まれてるわけじゃないからさ」
『うん、そっか……明日は来る?』
「ああ……どうだろ、まあ未定ってことで」
『そうなんだ……うん、電話突然ごめんね』
「いや心配させてスマン、姫城さんとかにもタダサボっただけと伝えてくれると嬉しい」
『うん、わかった。じゃあねユウジ』
「じゃ」
プツリ電話を切る。
「(……やっぱりユーは色んな方に好かれていますのね)」
「で、オルリス。なんだっけ?」
「……なんでもありませんの、ごめんなさい。探すの手伝っていただきますね?」
「あ、ああ」
そう言うとすたすたと先を歩き始めた。
その時にふと見えたオルリスの表情は怒っているようで寂しいようで、なんとも言えない表情をしているようで。
その日は一日隣町の、藍浜とほぼ同じほどの栄えっぷりの地方の町内を巡ったものの。
オルリスのお目に適う人はいなかったようで、結果は気になる人さえもなし。
オルリスはといえば、憂いの表情っぽい時も純粋に楽しんでいるんじゃないかってな程に嬉しそうな表情など代わる代わる見せていた。
「(……ってか、見つかるのか?)」
そうして二日目が終わる。
そしてオルリスいわく明日は「学校はサボるけど、学校に行きましょう」とのこと。
オルリスの考えていることが、ますます分からなくなってきた。




