第395話 √3-47 気になる彼女は○○○で×××で。
一日更新三回目!
とある舞台。
明らかに日本のような和風建築とはかけ離れた、まるでおとぎ話のお城のような場所。
二人の男女が口論したあとのこと、一方の女性は自分の部屋に閉じこもることにしたようで天井は高く、豪華絢爛な装飾の施された室内は高貴さに満ちています。
そんな家具の一部には古風な日本家具が点在しており和洋折衷そのままな、どこか統一感のない空気を醸し出しています。
「あの時……素直になって、好きだと言っていれば変わっていたのでしょうね」
卓袱台の前にジャージ姿で正座をして、彼女は緑茶を啜りながら呟きます。
「少なくともあの頃の私は、あなたに惹かれていたのですから」
十年前の井口さんがあなたに告白したその時から、私は動揺してしまって。
その気持ちを抑えれば、これまでと同じように過ごせると分かってしまったから。
……思い出補正もあるのでしょうか、でもあの三年間は私にとっては忘れられない時間でした。
「もしも、あの時に戻れるのでしたら」
本当なら悔むことしか出来ないはずです、しかし私の手には――タイムマシンというものがあります。
日本で開発された”セカンドデイズ”という意識をデータに変換して液晶画面の向こうに投影出来る、そんなゲームであり機構が数年前に完成して、それを使った”意識だけを飛ばすタイムマシン”が今年出来上がったのです。
こっそり付き人に頼んで購入して、いつか使えることを夢見ていました。
そしてお父様と喧嘩をした今日。お父様は一週間の間、遠出することを知りました。
基本的にここにいるお父様が一年でも数少なく、留守にする期間。それをずっと狙っていたのです。
自分の力で生命維持装置は手に入れて……一週間。私は体をこの時に残したまま、意識を十年前の自分へと飛ばすのです。
「待っていてください、ユー」
蕩けるような視線で、ある写真が映し出されるフォトフレームを眺めながらそう彼女は決意を固めました。
* *
「…………」
下之ユウジはどう答えたのでしょうか、
あの後、直ぐに回り道をして職員室に向かってしまったので……告白してからが分からないのです。
用具をシートと照らし合わせる作業を倉庫でしているのですが、あまり集中できていません。
自ら生徒会役員を志望しておきながら……こんなんじゃダメですわ。
「気を引き締めて……今は下之ユウジのことは忘れるのですわ」
「え、俺忘却させられんの?」
「なっ!?」
え、え、はい? な、なぜ下之ユウジがここにいるのですか?
先程告白を受けてどうなったかは分かりませんが……ここに来る訳が。
「おー、驚かせて悪い。ついでに会長に取ってきてほしいものがあるって言われてさ」
「そ、そうなのですか……ついで?」
「ああ、物品多いし倉庫は微妙に広いからな、クランナ手伝おうと思って」
またこの男はこうして気付いてくれるのですか……今回ばかりは、
「余計なお世話です」
「いや、一人倉庫の湿気で倒れらたら」
「どれだけ病弱体質ですか! そ、そこまで気遣われると気持ちが悪いですわ」
「…………」
……え、この男はどこまでも私のことを気に掛けそうですから。って、これじゃ何故か私が自意識過剰みたいですわ!
体育祭や商店街案内はまだしも、弁当を作るなんて行きすぎなのですから!
ええ、それだけは断言できますわ。
でも……おかげで自炊するよう心がけましたし、あの男の料理が今では少し……恋しいですが。
いえいえいえいえ! 甘えていてはダメですわ。そうです、でももう一度頂いて研究をしてみたい気持ちはありますが――
それで、今もしかして下之ユウジはショックを受けているのでしょうか……少しきつく言い過ぎたかもしれません。
「いえ、あの……少し強く言いすぎでしたわ、でもあなたは――」
「自覚してるよ、ここまでやられちゃ気色悪い、気持ち悪いぐらいだろ」
「だから、その……」
この男は思いこみも激しいですから……以前、お弁当のことで決めつけてしまって。
そこで自分が損してしまうことも知らずに、残念な部分ですわね。
「それでも俺は……クランナのことが気になっちゃうんだよ」
「…………はい?」
下之ユウジは私のことが気になる? 確かにここまで気遣いしてくれるのは立場上限度のある付き人以上とも言えます。
でも、その言い方では、その……?
「クランナに弁当食べてほしかったし、クランナが倒れるのはみたくないし……クランナと回った夏祭りも楽しかった」
「っ」
な、なんですの?
私はどうすればいいんですの……確かに、嬉しいことではあるのです。そう言ってもらえて、嫌な気分には絶対にならないのです。
以前にされたことのある口説きで聞いたことがありますわ……でも私はどう、答えれば。
……こんな口説きのようなマネをしておきながら、あの女生徒はどうなりましたの? そう思うと……何故か怒りが。
「下之君は……あの方とはどうなったんですの」
「あの方?」
「申し訳ありません、覗く気持ちは無かったのですが……見てしまったのです、あなたが文化祭実行委員の女生徒に」
「あー……井口か」
井口……さんと言う方なのですか。
「……断ってきた」
な、な……なななななな!
「なんてことをするのです! 少なくとも私が見る限りでは……あなたにお似合いですのに」
「いやさ、なんというかダメ気がしたんだよ。俺の意識が向いている相手はちゃんといるのにさ、付き合うなんて」
「意識の向いている……相手?」
「まーな、そいつ方向オンチで真面目すぎて頑固者だ」
真面目と頑固者は分かりますが……方向オンチ?
少なくとも、その方向オンチであることを知れるほどに下之ユウジにとって親しい相手ということですか。
「そんな方がおりますのね、それほどに堅苦しい方にあなたの意識は向いているのですか?」
「ああ、気になってる。いつ無理してぶっ倒れないかなーと」
「危なっかしいですわね」
「遠く離れたところに来たってのに、溶け込もうとしている内に自分がニの次になってるし」
「まったく下之ユウジをそこまで心配させる相手などいるの……ん?」
方向オンチで真面目で頑固者で、自分のことを二の次……?
「さぁーて、ちゃっちゃと確認作業終わらせるぞ」
「え、え……もしかして? 私の知っている方ですか?」
「ああ、よく知ってるだろうなあ。お、俺はそっち見るから、クランナはそっちな」
「え、はい」
これでは本当に下之ユウジの気持ちは私に向いているんじゃないかと……思ってしまうではないですか。




