第096~098話R √1-1 ※独占禁止法は適応されませんでした。
R版差し替え済み
はて?
どうしてこんな状況になっているのだろうか。
「これであの子と私は対等な立場です。どうですか? 私の方が揉み心地はよくありませんか?」
俺の手の中には溢れんばかりのボリュームの姫城さんの胸がある――そして俺の手には姫城さんの手が重ねられ、逃れることは出来ない。
ようは姫城さんによって俺の手は掴まれ、強制的に彼女の胸に押し付けられている状況にあるのだ、今回ばかりは冤罪である!
それにしても――週一で女子の胸を揉むようなことになるなんて、思いもしかった。
すぐ近くに居るユキは硬直してるし、クラスは阿鼻叫喚だし。
どうしてこうなった。
* *
どうもナレーションのナレーターです。
今回はヒロインの一人にスポットを当ててみましょう。
五月十一日
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、マイ」
老齢のはずですが、年齢よりも若く見える女性に彼女こと姫城マイは送り出されました。
どうやら姫城マイと老齢の女性の関係は祖母と孫の間柄のようですが――
「……今日はどれぐらいユウジ様とお話出来るでしょうか」
姫城マイにとって学校に行くのが待ち遠しくなったのはつい最近のことでした。
それまでは単に勉強をする場にして、皆が行っているから通う場所程度にしか思っていなかったのかもしれません。
そんな心境の変化は自分の人間関係の変化にありました。
例えば以前より恋い焦がれていた男の子と、話し相手……はたまた友達のように関係になれたことが大きかったようです。
最初の下之ユウジへの強烈な告白は性急ではありましたが、それから少しずつですが友達としての関係を築いていっているようでした。
話題に混ざろうとしたり、昼食を一緒にしたり、肝試しにだって誘われたこともあり参加しました。
ゼロか百かのような「あなたと結ばれないなら、あなた殺すか私が死ぬ」というあまりに極端な行動を取る彼女が少し理解したのです。
何も急ぐ必要はなかったこと、そして少しずつでも関係を近づけていけたらいいと、思うことが出来たのです。
「…………?」
そうして期待に胸を膨らませ、下之ユウジと顔を合わせて挨拶をするべく少しだけ足早に通学路を歩き学校にたどり着くと――
「フハハハハハハ! アイパマ新聞無料配布だああああああああああ」
校門前で高笑いしながら何か紙をバラまく学ラン姿の男子生徒の姿がありました。
襟元のバッジの学年色で識別するに三年生のようで、アイパマ新聞なる怪しいものを登校してくる生徒に配布しているようでした。
「そこのお嬢さんも是非!」
「いえ私はべ……つ……に――もらいます」
姫城マイとしてはそういったものに興味はありません。
アイパマ新聞とは人気生徒同士の関係性に迫る、教師間の熱愛やら、学校の七不思議、部活の不明瞭な部費の実態、来期テストの問題予想コーナーなどが載っています。
まぁゴシップ記事のようなものばかりで、そこそこ生徒数のいるこの学校内でもよっぽどのモノ好きか野次馬根性に長けた人ぐらいしか興味を向けないものだったのです。
殆どがでっちあげか、誇大した内容の記事ばかりの内容な上に、もちろん人の色恋沙汰に興味のない姫城マイとしては、両面印刷が災いしてメモ用紙にもならないと不要としか思っていなかったのです。
しかし――そこに自分の好意を寄せる男性の写真が写っていれば話は別でした。
「こらー! そこの非公式新聞部! 無許可の配布物はやめろ!」
「出たな生徒会福島女史! これにてさらばだ! ふははははははは!」
姫城さんが新聞を読みながら立ち尽くしている間に、新聞をばらまいた張本人は生徒会の福島コナツに見つかり退散させられています。
福島が招集した美化委員によってバラまかれた新聞も片付けられ、アイパマ新聞の悪評を知る多くの生徒もそっぽを向いた結果、その新聞は大半の生徒が目を通すことなく終わりました。
しかし、よりにもよってな人に渡ってしまったのです。
初見で見た時に姫城マイは「こ、これは切り抜き保存しておかないと!」と、下之ユウジの後姿だけを見て思ったのです。
……ちなみに記事にはユウジのユの字もないこともあって後姿だけで分かるあたり、なかなか極めていることに関しては置いておくとして。
少しずつその記事の内容と、視界に入っていなかった押し倒されている金髪女子生徒の姿が目に入ってくるのです。
記事の見出しは――”衝撃! 副会長弟のセクハラ現場激写!”というものでした。
名前こそ出していませんが、副会長こと下之ミナの弟だなんて一人しかいないのです……完全に正体バレバレです、本当にありがとうございました。
「どういう……ことですか?」
何故ユウジ様が新聞に載っていて、そのユウジ様がどこの馬の骨とも分からない女子の胸を鷲掴みにして押し倒しているのでしょう。
頭の中がクエスチョンマークで満たされていきます、この時はまだ怒るほどに状況を理解出来てはいなかったのです。
それから新聞をポケットにしまって歩き出しながら、ゆっくりと理解が追い付いて行きます。
ユウジ様がセクハラ……?
いやいや、そんなはずは、何かの間違いなはずです。
きっと何か不幸な偶然が重なってのことなのでしょう。
ユウジ様がそんなことをする方には見えません。
ですが――
「仮に、もし」
ユウジ様が望んで行った行為なら、どこの馬の骨とも分からない女子の胸を触らなければならないほどに欲望に餓えていたのなら。
私は怒っているのでしょうか、勝手に裏切られた気分になっているのでしょうか、失望しているのでしょうか。
当の私はユウジ様告白を撤回して、今では”まだ”友達前後の関係だというのに。
単純に面白くないのです。
好きな人が、自分意外の人に触れていることが……とてつもなく、面白くないのです。
私なら、いくらでも触らせてさしあげられるのに。
私があげられるものなら、いくらでもあげられるのに、例えそれが私の命でさえも――
――そう考えた彼女、姫城マイはこれまた極端な行動に出るのです。
「っ! ふふふ、待っていてくださいユウジ様」
今、参ります。
久しぶりにダークオーラに身を包んだ姫城マイは昇降口を抜け、教室を目指したのでした。
「――おはようございます、ユウジ様」