第394話 √3-46 気になる彼女は○○○で×××で。
クランナ√に戻ります! あのあとがきは嘘でした。一日更新二回目!
井口の”好き”という告白を聞いて、なぜかある人の事が思い浮かんだのだ。
傍からみていると危なっかしくて、ついついその人のことを考えてしまう。
俺にとっては気になる彼女は……紛れもなく。
俺の答えは――
「悪い」
そう俺は頭を下げた。途端に井口は真っ赤にしていた顔を白くしていき俯いて、今にも消えてしまいそうな声で、
「そ、そうだよね……」
「井口さ、前言ったと思うんだけど……気になるヤツがいるんだよ。真面目すぎて自分のことを二の次にして、方向オンチなのに頑固でさ」
「……そう、なんだ」
「だから、ごめん。井口の気持ちには答えられない」
キッパリと、全ての希望を断ち切るように。
すると、彼女は顔をあげて
「下之君は……その人が?」
「うーん、どうなんだろうな? でも、俺はその人が気になって仕方ないんだ……わけわかんないよな」
「ううん……きっと下之君は……」
彼女は涙をボロボロと零しながら、そう呟いた。
その姿は俺からはとても痛々しくて、それがあまりにも見ていて辛いもので。
井口の言いたいことが少し分かった。
ああ、ユイの言うとおりだなあ。もしかすると友達以上を俺は望んでいたのかもしれないな。
俺の作った弁当をクランナに食べてほしい、俺と一緒に祭りを歩いて欲しい。
なんだよ。下心、しっかりあるじゃねえかよ、俺。
「これからも……俺の良い話相手になってくれるか? って、ワガママだよな。でも井口と話すのが――」
「私こそ……これからも下之君と話したいから……よろしくね」
目元を腫らして、彼女は俺へ時折みせた笑みをみせるのだ。
この傷ついた彼女を見るだけでも心が痛いのに、井口はその何倍も心を痛めているのだろう。
だから、ここから逃げちゃいけない。進むなら……一歩踏み出せよ、俺。
* *
「これは……これはなんなんですの」
本当に偶然でした。私は文化祭で使用する用具を確認する為に、倉庫に行くことになって。
倉庫の鍵を借りる為に職員室に向かっていたのです。
すると向かいから下之ユウジと文化祭実行委員の女生徒が一緒に歩いてくるのが見えました。
何故か私は曲がり角に入って、隠れてしまいました……なぜ、私はこのようなことを!?
「(ですが……またあの人ですわ)」
いつもいつもいつもいつもいつも、あの文化祭実行居んの女生徒の方と歩いているのを見ているのですわ!
仲良く話もして! 羨ま……いえ、そんなことないですわ!
でも下之ユウジも親しげ過ぎませんか!? ……そう見えるだけなのでしょうか、ですが彼女は幸せそうですし。
すると、女生徒が何かを言うと突然に下之ユウジが立ち止まって。
女生徒が下之ユウジの前に回り込むようにして、
『下之ユウジ君っ、私はあなたのことが好きです! つ、付き合ってください』
それは、結構大きめな声でした。
放課後で、それから数時間が経とうとしていた頃でなければ周囲に生徒が居て、振り返るであろう声で。
おとなしそうな彼女が絞り出すようにした、決死の声をあげて。
「(え、え……?)」
今のは告白……ですよね? え、それは下之ユウジに向けた言葉ですわよね?
なぜですか? 確かに親しそうではありました。私は下之ユウジのことを知らないのは確かですが……なぜなのです。
一番驚いているのは、なぜ私はここまで動揺していますの?
下之ユウジがどんな方とお付き合いしようが関係ないはずで、むしろ少し前までは大嫌いだった男のことなどどうでもいいはずなのです。
それ、なのに。
そうしてこんなに胸が苦しいのでしょう。
縄で締めつけられるような、強く胸を圧迫されるような……痛み。
「わ、私は……なぜ……なぜ」
声が尻すぼみに、小さくなっていくのが分かりました。
どうしてしまったのでしょうか、私はどうかしてしまったのでしょうか。
私は立場上、ここで……殿方に恋することなど出来ませんのに。
あの男はどうしてここまで私の気持ちを揺るがすのですか。




