第394-C話 √3-46C 気になる彼女は○○○で×××で。
答えはひとつ、じゃない!
俺の答えは――
「気持ちに答えられなくて……悪い」
謝罪、否定。
「そう……だよね」
「本当に、勇気出してくれたのにな……悪かった」
俺は臆病だ。かつてのことを未だに吹っ切れずにいる。いや、サクラのことは諦めているのだけども……やはり怖い。
たとえ今、井口と付き合っても……俺のダメさが露呈してフラれでもしたら。
恐らく立ち直れない、それに……俺は彼女のことを殆ど知らないのだ。
同じ学年で、文化祭実行委員で、伏せ見がちな大人しい女の子。
ただそれだけ。何も知らない俺が彼女とうまくやっていけるのだろうか……メッキが剥がれること確実だ。
それに俺がそれを了承する動機が「高校生の間に一回ぐらい女の子と付き合ってみたい」ということでもある。
それは井口にとって、俺の動機は不誠実すぎる。
……これまでの内に考えたことを、俺は声に出せば何か変わったのだろうか。
いや、余計に気を使わせるだけだ。
「ごめんね……下之君……いきなり、こんな……こんなことして」
「…………」
もしも俺が、ここまで固く考えなかったらどうだろう?
フラれても大丈夫と胸を張って言えるとしたら。彼女のことをこれから知って行けばいいと考えられたら。
彼女の気持ちに答えられたのかもしれない。
「っ!」
「ごめ……んね……こんな顔みせちゃいけ……ないのに」
井口はその瞳からボロボロと雫を零した。
俺はそこから逃げ出したかった……でも、ここで彼女を涙を見ることの辛さから逃げてしまったら――最低最悪の人間になるんじゃないかと思った。
彼女が目元を赤くして「また……明日ね」と言うその時まで俺は、立ちつくしていた。
女の子を泣かした時点で、俺は最低な人間なのにな。どこまで卑怯なんだろうな?
* *
それから数年が経った。
井口とはその後メール友になり、時折話すようになった……まあ顔を会わせて話す機会は殆どなかったけども。
思えばその後、クランナとも距離を置かれるも一週間もすると元に戻った。
彼女はなんでもないの一点張りで真意は見えず、卒業を迎える数か月前頃には生徒会仕事も終わり。
クランナとはその後は話すことが殆どなく、国に帰る際に「それでは、お世話になりましたわ下之君」と俺へと言うと去っていった。
女の子と誰とも付き合えない青春を過ごし、社会人になった。
ユキや姫城さんが大学に進学する中、俺は就職した。とある会社の事務仕事だ。
色々あった中学校から高校までの様々な思い出は、今も書類を手に取りながら思いだすこともある。
「こういうのも生徒会でしたっけな」
「下之ー、次はこれも頼む」
「はいー」
もしも、あの時告白を受けていたらどうなっていただろう?
断ったとしても、他の女の子と付き合えた可能性はあったのだろうか?
不誠実だからと逃げた俺には、そんなこと知る由もない。
ただ考えがえてしまうのだ、もしもと――
BAD END
* *
これが「もしも」の物語なんですよ。
ギャルゲーというのはもしも、いえ「イフ」の連続だと思っています。
あの時、あの場所で、あの選択をしていれば。あの時、あの場所で、あの子に声をかけていたら。
もしもあの子と幼馴染だったら、クラスメイトだったら、知り合いだったら。
それだけでお話はそれはもう変わってしまうものだと思うんですよ。
あ、もちろんナレーター個人の意見ですから。それほど強く受け止める必要はないですよ?
でも思ってしまうんですよね。もしかするとこの世界は、この出来上がっている世界は「もしも」がかき集められた世界なんじゃないかって。
ユウジが気付かないだけ、鈍感なあの男が気付かないだけで向けられる好意は数多とありました。
それは本当にギャルゲーだけの効果なのですか?
「もしも」ギャルゲーを投影していたのが嘘だとしたら?
嘘じゃないとしても「キャラクター」は現実に存在して、少しそのキャラクターに足を一歩踏み出させただけだととしたら?
そうこのBADENDだってもしもの一つ。
ユウジが自分の気持ちに、ユイの言う言葉に、クランナの好意に。
気付いていなかったらの「もしも」
前回で終わると思いましたか? それはあり得ませんよ?
それぞれの√は三の倍数なのに46なんかで終わるはずがないじゃないですか。
さあ、次からが本当の……いえ全てが本当ですが、ある「もしも」の話です。




