第393話 √3-45 気になる彼女は○○○で×××で。
たまには修羅場もいいよね!
「じゃあ、生徒会行くからさ」
「うん、生徒に貢献してこいっ」
「行ってらっしゃいませユウジ様、そしてまた明日ユウジ様」
「お、おう。また明日なー」
そうしてユイと二人教室を出た。
固まった体をほぐすように、肩に鞄をかけたまま両腕をぐっと上へ突き出しながら嘆息するようにユイは呟いた。
「ぬ~、最近忙しいぬ」
「まー、この時期は忙しいからな」
「確かに。でもユキとかと帰れなくて残念だぬう」
「ユキには同意」
ここでも平然とマサヒロがディスられるのはお約束ということで。
「そういやおまいさん、なかなかスミにおけないねえ」
「……いきなりなんだよ」
おそらく眼鏡を外したらニヤケ面が浮かんでいるであろうユイに少しイラ指数を上げつつも、聞いた。
「ホラホラ、クランナさんとも最近仲が良いようで」
「あー、まあな。最初の頃よか良くなった」
呼ばれ方進化は、嬉しいね。
「どうせユウジはフラグ建てを熱心に行ったのでしょう、うんうん」
「建ててない建ててない。建ったとしても……ウザがられフラグ? お節介が過ぎることは自覚してるし」
「クランナさんの場合、どうかぬぇ~? 自分の住んでいる国を離れて留学してて、知り合いがいない中での過ぎた節介は結構に嬉しいものじゃないかなと、アタシは思うぜよ」
「そんなもんか?」
「で、その節介が急に消えると受けていた側は色々と考えちゃうもんだよ。飽きられたんじゃないかってねえ」
「飽きるて……お節介を玩具みたいに言うなよ。ただ、まあ夏みたくぶっ倒れることはないだろうとの、推測だ」
「ふ、ほぉーん。体調管理までするとは、キテますなあ」
なんか今日のユイはいつにも増してイライラする物言いだな、なんか思うところでもあんのか?
「気にしちゃいけないのか?」
「べっつにいいんだけどもー、ユウジは下心の一つもねーのかねと」
ここで少し空気が変わった、ユイは何か探りを入れるような目つき(をしていると思う)で俺を(グルグル眼鏡で)見た。
「下心ねえ……ないこともない」
「ユウジはそういうのとは無縁と思ったけど、意外だ」
口調にふざけが入って無い辺り、ユイは俺の返答に結構驚いているのかもしれない。
「いや、友人にはなりたいなと」
「なるなる、ほほ~あわよくばと…………って、え? 友人? 何言ってんのアンタ」
「友達作っちゃってイェイ☆」
「いやいや濁すなユウジ、下心て……ソレが?」
「あわよくばクランナと友人になりたい!」
「……なんというか、ユウジって時々物凄く残念だぬう」
心の奥底からガッカリしましたよ、あたしゃ。というような雰囲気のユイ。
「おおう、ユイにガチで呆れられるとクルものがあるな……」
微妙にそんな反応に俺はショックを受けてしまうのだった。
え、何。俺は確かに残念なことは知ってたけど、それ以上の残念なのか?
まじか。まじかぁ……
廊下を二人歩くのですが、微妙に猫背になり両方に落胆が見える微妙なオーラを振り撒く姿はシュールですね。
「おし、今日も生徒会頑張るかなっと」
「ヒャッハー! マイワークスタイムイェーイ」
景気づけの如くそうニ人呟いて、俺とユイは生徒会室の扉を開いた。
「会長、このデータを文化祭実行委員にでいいんですよね?」
「だよー」
何故か会長が「あれ、最近の私の出番少ないよね? それで台詞これだけー!」とか言っていたが、よくわからないのでスルー
「あ、ユウ。アンケートも返してもらってきて」
「あ、はい了解しました」
アンケートか……一学年分だから結構量あるな、今回ばかりは一人で頼まれた仕事だ。
ニ往復すればなんとかなるが、そうなると今やってる集計作業の再開に時間がかかるしなあ。
まあ、二人いれば一気に出来るだろうけども……うん、ダメ元で頼んでみるか
「クランナ、あのさ――」
「手伝いますわ、行きましょ」
「おう、助かる」
クランナは自分の作業を切りあげて、席を立ってそう言うと先に生徒会室を出た。
俺は文化祭実行委員に渡すデータの入ったSDカードをケースにしまってポケットに突っ込む、とクランナの後を追った。
……と、言ってもすぐ歩いたところで待っててくれてるんだけどな。
「待たせた」
「文化祭実行委員からアンケート用紙を返却してもらえればいいんですよね?」
「ああ、量が多いから助かったわ」
「いえ、私たちタッグでしょう? お互い様です」
どこか冷淡さも併せ持つ物言いは、彼女が仕事モードであるからだ。
事務的な事柄はこのように、スッパリと簡潔言いきるのが特徴だ。
で、
「……ところで下之君」
先程と比べれば感情が籠った物言いは、彼女が私的モードに入ったからで。
「なんだ?」
「……あのですね」
クランナはこのモードにはいると歯切れが悪い時がある。まあ、俺はこっちの方が温かみがあって好きだな。
でも今日のクランナは不安なことがあるような、そんな表情に思えた。
「私といるのは……退屈ですか」
「……どうしたんだ、いきなり。風邪とかひいてないか?」
「それが純粋な気遣いか、からかいなのかはさて置いて……どうでしょうか、私はあまり自分のことを話しませんし……いつも聞き手で」
「いやいや、そういうのは日本では聞き上手って言うんだぜ? 俺は結構楽しいぞ」
「そうですか……」
彼女はその答えを聞くと満足したかのように、いつも通りの自信あり気な表情に戻り。
「さ、行きますわよ! 下之君」
「どうでもいいけど、その口調で君付けって――」
「悪いですの? それでは、レッツビギンでございます!」
「古い古い、そしてアンタ本当に外国人か?」
「生粋の西洋辺りの人ですわっ」
「すげえ、アバウト……」
たまにこんなコントっぽい会話を繰り広げるのは、なかなかに楽しい。
「あ、シモノパシってきて」
「うわ、凄い使いのさせられかた……いいですけど、体育祭委員宛てですか?」
「うんうん、この資料渡してきた上に、委員から印刷室開けてほしいからって」
「本当に使いパシリっすね、じゃあ行ってきます」
文化祭委員もクラスから二人が選出されるとはいえ、一学年分よりは量が少なくて済む。
ちなみにこの資料はさっき印刷室で擦ってきたばかりで、生温かいそれと印刷室の鍵を持ちながら生徒会室を出た。
「ごめんね……下之君」
「いやいや、井口が気にすんなって」
俺は印刷室まで井口と歩いていた。さっきのデータを印刷して、とのことらしい。
重くなること確実なので俺も付いてきたのだった。
「でも、下之君も……忙しいんじゃ」
「めっちゃ暇だから、暇のあまり一料理完成させられるレベルだから」
「ふふ……ありがとう」
井口の柔らかな笑みって、やっぱり可愛いんだよな……感情は決して少ないわけでもないんだけど、自分に自信がないのか怯えているような不安な表情をいつもしている気がする。
「あの……ね、下之君」
「ん、なんだ?」
「前に……聞いたと思うんだけどね」
「おう」
「下之君に……彼女がいないって」
「おおう、痛いところついてくるぜぇ……フリーのフリー。彼女が欲しいです」
話題のタネに井口が取りあげて、俺は冗談めかせて答え言っただけだった。
そのつもりだった。
「私じゃ……ダメか……な」
「へ?」
俺がおそらくポカンとした表情のまま立ち止まると、井口は俺の前の前に先回りして。
そして、いつものたどたどしさが皆無になって。
緊張で顔を真っ赤にして、
「下之ユウジ君っ、私はあなたのことが好きです! つ、付き合ってください」
俺は井口に告白された。
初めて受けた告白だった。おそらく今後もないであろう、女子からの告白。
俺はあまりにも突然の出来事に、硬直していた。
答えを出さなきゃいけない、俺は。微塵でも振られる気持ちを理解している俺は、その答えを待たされることの辛さを理解する俺は――
「俺は――」
その時、たまたま職員室へと倉庫の鍵を借りようとしていて。
彼女はその告白の現場を見てしまった――
「…………っ」
ユウジ側からは見えないように、告白の現場から十メートルほど離れた曲がり角から。
金髪と碧眼と、動揺の表情が覗いている。




