第389.5話 √3-41.5 気になる彼女は○○○で×××で。
番外編と言うか、ユキ回です。だけども展開は……アレです、ニクールギャルゲアニメの中盤回みたいな、うん。
八月五日
家でまたまた溜まっていたアニメを視聴していると、携帯着信がなった。
携帯表面に付いた小ディスプレイには「メールを受信 ユキ」との表示。
「ユキからか」
そういや、ユキと夏祭りに行けなかったことの埋め合わせだっけ。
メールを開くと「明日はどう?」と書かれていた、明日は特に何もないので大丈夫と返信すると「明日を楽しみにしてるねっ」と帰ってきた。
あれ、これ雰囲気的にパフェだけじゃすまなくね?
でもユキと疑似デートが出来るのなら、これぐらい屁でもない……財布を覗いて唾を呑んだ。
まあするとだ「メールを受信 ユイ」と表示されやがった。
同じ家の中なのにメールとか家庭崩壊の序曲のような気がしないでもない。
『修羅場の予感!』
「なんでだよ!」
携帯を投げ捨てる寸前で思いとどまった。いや、なんだその意味深な発言は!
「……てか修羅場になるヤツっていないだろう」
ただでさえ俺はモテないんだから。
おめえ女はべらしてるじゃねえか、というツッコミがきそうだが。残念だったな、全部お友達止まりなのだよ! はっはっは!
……ユキもそんな意図はないだろうし、うん悲しいね。
「でも明日が楽しみだー」
八月六日
何故に勝負モード?
俺が待ち合わせ場所に、学校へ登校する際の合流場所としていた。家から少し歩いて、ひざ下までの長さのジーンズに、茶色に良く分からない柄のTシャツ、灰色の薄手のジャケットで出かけたところだ。
なんか可愛い人が待っているんですが。
すっごい見覚えのある子なんですが。
てかユキなんですが!
え、なんでそんな勝負服みたいなというかそうとしか見えない、てか待って腕時計をチラチラみながら落ちつかないユキかわええな、惚れてまうやろぉー!
「あ、ユウジっ」
「お、おう」
薄めのピンク色のカーディガンに、胸辺りが覗く黒色のキャミソールに、灰色のフレアスカート……みたいな感じだろうか、ふぁっしょんは良く分からないので割愛。
まさに今からデートですよ的な空気を漂わしているばっかりに俺も困惑。
「あのねユウジ……ど、どうかな変じゃないかな?」
そうくるり回るのだが、その度にいつもとは違ってポニーテールはポニーテールでも大きいレモン色のリボンで結われている髪が揺れて可愛い。
「い、いいんじゃないかな?」
「そう、よかったっ」
指の先を合わせて喜ぶのだが、その仕草一つが色々とドキリとさせてくる。
「てかユキどうしたんだ? なんか気合い入ってないか」
「ユウジは分からない?」
「おう」
「じゃあ秘密」
口元を制すように人差し指を唇に置いた。
「じゃあ、パフェよろしくー!」
「あ、ああ」
なんか今日のユキはいつもと違うぞ!?
喫茶店へと着いた、古びた佇まいで以前クランナの緊急退避を行わせてもらった喫茶店だ。
メニュー見れば、そこには「ジャンボパフェ」なるものがあり、野口さん一歩手前なお値段だった。
まあ量的には妥当なのだけども、やっぱ注文するのは――
「じゃあ、ユウジこれでっ」
「……はいはい、すみませーん」
店員さんを呼んでジャンボパフェと俺用にアイスコーヒーを注文した。
「ごちそうになります」
「どうもどうも」
パフェが来るなり、目を輝かせてパフェを食べ始めるユキ(光景的には取り掛かる)はやっぱり女の子は甘いもの好きなんだなあと嬉しそうに食べる様を眺めて思うのだった。
「せっかく商店街にきたんだから、お買い物に付き合ってもらうね?」
とユキに言われた。もちろん断る理由は一つもない。
商店街をユキの歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら、
「ユウジ、今日は無理言ってごめんね」
「いやいや、暇だったし構わないぞ」
「でもユウジだっていけないんだからね?」
「本当に夏祭り一緒に行けないのは悪かった、でも本当に先約があったからさ」
「そうだけど……」
仕事場の関係も悪くしてはいけないしな、クランナとの二人での行動後も生徒会で回ったし。
「でも私が言いたいにはそこじゃなくてね、生徒会にうつつを抜かして幼馴染を放っておくなんてひどいなーって」
そこかぁー、ってそれじゃ積み重ねまくってるじゃないか!
生徒会に入ったせいでユキとの下校も出来なくなったしなあ。
「分かってるよ、ミナさんの為だって。ミナさんって生徒会でも家でも頑張ってるから、ユウジは手伝わなきゃって思ったんでしょ?」
「なんという図星」
「だよねっ、だからワガママなことも分かってるけど……ユウジがいつの間にか離れていっちゃいそうな気がして、嫌なんだ」
そうしてユキは俺の服の後ろ裾を掴んで、
「どこにも行かない……よね?」
振り向くとそこには不安そうなユキがいて、俺はこんなにも彼女を傷つけてしまったいたのかと自覚する。
姉貴の負担を減らしたい、その一方ではユキが不安を募らせて……ダメだな、俺。
「ごめんな、ユキ。気付いてやれなくて……俺はどこにも行かないからさ――」
繋ぎとめる言葉としては、俺とユキの可能性を否定してしまう。俺なんかよりもきっと魅力的な男は沢山にいるのだ。それでも「ずっと幼馴染」その言葉出てこない。
さきほどで言葉は留まってしまう。
もしかすると、本当に勘違いかもしれない。でも時々思ってしまうのだ――ユキも姫城さんも俺に好意があるんじゃないかって。
本当に自信過剰甚だしい、でももしそうならば彼女達はどんな気持ちで俺に接しているのだろうか? それで今の言葉の続きを僅かでも期待したのではないか?
……出来ない。俺にはさ、そんな踏み出す勇気はもうないんだ。
「うん……わかった。ユウジが離れないなら、良かった」
そうして彼女は笑顔で微笑んだ。
変わりない笑顔で、いつもの太陽のような明るい笑顔だった。
でもそんな笑顔が、とても傷ついたものに一瞬でも俺には見えてしまった。
その後、スーパーに入り何故かユキは流れるように調味料のコーナーへと向かっていった。
……辛いもの好きはもはやガチだなあと思いつつも「ハバネロ七味とハバネロ一味、どっちがいいかな?」と真剣な表情で聞いてきた、分からないって。
本屋に寄ったり、雑貨屋に寄ったりしているといつの間にか昼過ぎから集まったというの時計は六時を指していた。
「そんでさー、ありゃないね」
「だねー、あれはないと思うよ」
二人話しながら歩いていると、もとの待ち合わせ場所へと辿りついていた。
「着いちゃったね」
「だな」
「短かったね」
「時間が短く感じたな」
本当に、ユキと話していると時間を忘れる。気が張らないし、話題も通じるし、変わる変わる表情は見ていて飽きないし。
「今日は……付き合ってくれてありがとね」
「ああ、てかパフェだけで良かったのか?」
「うんっ、今日はユウジと一緒にいるのが目的だったし!」
「それって……」
「秘密だよ」
また彼女は唇に指をおく。
「鈍感気味なユウジには一生気付いて貰えないかも」
「いやいや俺鋭過ぎるから、紙に穴開くほどだから」
「じゃあ、いつか私の心にも穴を開けて覗いてくれるといいな」
そう言って彼女はいつもの笑顔を向ける。
「でも、いつまでもそうだったら……私から行くからね?」
そう言って彼女は……いつもとは違った、なんだこれ。小悪魔的な笑みというのか?
あるはずのない、見たことのない八重歯が覗いた気がした。
「お、おう……なんのことか分からんが、お手柔らかに」
「とぼけちゃって……あはは! じゃあ、またねっ」
そう言って彼女は駆けて行った……ユキから来るのか?
いつも明るいユキの中に、ちょっとした黒さを見つけた日だった。




