第389話 √3-41 気になる彼女は○○○で×××で。
多くの屋台が立ち並び、それぞれの屋台に人が群がっている。
小学校低学年ほどの男児がお面を横顔に付けて走り回っていたり、大学生ほどの男女が手を繋いで……クソッ。
まあ、俺も隣に美女はいるんだけども。単なる仕事仲間ですから、はい。
「日本のお祭りはこうでなくてはですね」
どこか達観した物言いだけども、瞳は無邪気にも輝きを放っている。
なんというか、売られているものよりもその風景と言うか情景に見惚れているように見える。
「クランナは日本の祭りがこんなだって知ってたんだ」
「ええ、私の国では一般知識ですから!」
他国の、それも西洋系の国でこの日本のお祭りが一般知識……?
「日本は良い国ですね、人も温かさに満ちていますし、伝統を重んじるところも素晴らしいです」
そういやクランナとは出会いが最悪なせいで、こんな世間話は一切しなかったんだよな。
もう俺に非しかないから、仕方ないのだけども。
「クランナの国はどんな感じなんだ?」
「私の国……ですか? 自然に囲まれていて、民の空気も明るく素晴らしい国だと思っています」
「そっか」
クランナは自分の国を誇りに思っていて、強い自信に満ちた表情をしていた。
なるほど、クランナの生まれ育った国は良い場所なんだな。
「あなたにとってこの町はどうですか?」
「藍浜町のことだよな? ……色んな思い出が詰まった場所だな、あとやっぱり過ごし易い」
「この町は確かに居心地が良いですわね……やはり勉強しただけでは、実際に暮らしてみないと分からないものですね」
そうして優しげな笑みを俺へと彼女は向けた。
……考えてみれば、というか思えばクランナってすっごい美人なんだよな。
ユキにはアイドル顔負けな可愛さなのに取っ付きやすく明るい活発な魅力があって、姫城さんはクールビューティという言葉が似合う美女で、もの静かな落ちついた魅力があって。
クランナは、西洋系の綺麗な女性の特徴の良いとこ取りした感じだろうか? 青色のサファイアのような透き通った細いながらもしっかりと自己主張する瞳と、高めの鼻と日本人の数倍も白い肌に、キラキラと光が当たる度に輝く金髪で。
そんな美人の隣を歩けるというのは、なんて役得なんだろう……と言われそうだが、それ関係無しに俺はクランナのことが気になるのであった。
「(真面目過ぎて自分のことは二の次で、負けず嫌いで、方向音痴で。全てを兼ね備えそうな彼女なのに……な)」
ユキは半端じゃない辛いもの好き、姫城さんは周囲のことを省みないトンデモ発言をしたりするし、少し天然気味でもある。
「(俺の周りにいる女の子って、皆魅力的なんだよな……)」
完璧すぎない、僅かだけども抜けているところがあるのも魅力の一つなんだと思う。
友人であったり、幼馴染であったり、仕事仲間でなかったら俺なんかと話すこともなかっただろうけどな。
「(そういや)」
アイツも魅力的だったな……本当に小さい頃からミユと姉貴と四人一緒にいて、姉貴が学校関係に中学校の頃から入り始めたころは、帰宅部の俺・ミユ・アイツは三人いつも一緒だった。
澄ました顔をして、クラスの中じゃ地味なのに俺に向かっては毒舌ばかり。それでも優しいところも可愛いところもあって……それに俺やミユとの掛け合いが面白かった。
「(そんなアイツが俺は好きだったんだよな……)」
まあ、それも今や過去の話で。三人がもう一緒にいることはもう出来ないことなのも分かってる。
いつまでも引きずっていても仕方ないのだろうけど、やっぱり今とも違ったあの楽しい日々を思い出してしまうわけで――
そう、その三人でお祭りに来たことも記憶に残っている。
「えーと、下之君? どうかしましたか?」
「いや、ちょっと思い出したことがあってさ……まあ、なんでもないってことで」
その後はこの町のことについて話したり、マサヒロの春の肝試しの愚行や、俺の棺桶登校など話題にあげた。
「な、なぜ……棺桶なのか……く、ふふふふふふふふ」
ツボに入られた。
その直後に唐突な人の波が俺とクランナを襲った。
「し、下之君!」
「クランナ、ここだ」
波にのまれ始めていたクランナの腕を掴んで引き寄せた、あぶねえ……クランナと俺までも分かれてしまうところだった。
「あ、あの下之君……」
「わ、悪い」
クランナの腕をずっと掴んでいた。硬直するクランナ手を俺は慌てて離して、
「いやスマン、なんというかスマン」
「いえ……あの、助けていただきありがとうございます」
「これ以上分かれたら大変だからな、まあ力強かったかもしれん」
「あまり男性に触れられることはなかったもので、少し驚いてしまっただけです。心配かけてごめんなさいね?」
まあ、そういうのは縁が遠そうだよな……偏見だけども。
それからは普通に歩いて行き、するとクランナがある出店を見て呟いた。
「そういえば……たこ焼きというものはなんなのでしょう? とても食欲をそそられるソースの香りが漂うのですけれど」
「あー、食べてみれば分かるぞ? なんなら俺が買って味見してみるか?」
「よろしいのですか? では、お言葉に甘えて――」
「美味しいものなのですね! タコを小麦粉で包んで焼くとは……その発想はなかなか出ませんねっ」
俺の買ったたこやきをつまんだところ、彼女には大好評だった。
「濃い味付けですのに、たこの風味が生きて――」
クランナは「に、二箱」と流石に血迷ったことを言い始めたので俺のを半分ずつということに。
女の子を連れているのに、たった少しの奢りも出来ないのではマズイしな「お祭り巡りに付き合ってくれたお礼ってことで」と言っておく。
後にも出店に見惚れるようにして回って行くのだけども、クランナは財布のヒモを緩めることはほぼなかった。
まあ、緩めたのがかき氷「これだけは一度!」と言ってまさかの抹茶あんみつという渋い組み合わせを注文し「おいしいです……」と透明のスプーンで口に運んで、それはもう蕩けるような顔で呟いたのだった。
少し歩き、商店街の途中から伸びる路地を進むと小さな広間へと辿りつく。
ちょうど座れる場所があったのでクランナと二人座ることにする。
「お祭りとは賑やかで楽しいものですね」
「だろ? と、言っても藍浜町は賑やかすぎるかもしれないけどな」
と俺は苦笑する。
「今日はありがとうございました、楽しかったです」
「な、クランナ」
「なんでしょう?」
「締めに入ってるとこ悪いんだけども……生徒会のこと忘れてたわ」
「…………!」
クランナも今お気づきになったようで。
「ど、どうしましょう!?」
「……あ、電話するか」
「……あ、そうでしたわね」
俺はすぐ見つかるだろうとタカをくくっていたら、見つからず普通にお祭りをエンジョイしていた。
そして携帯には、
「さんじゅうななっ……!?」
三十七件の着信、それも全部姉貴。
「クランナ、ちょっと副会長に電話するから――もしもし? 俺だよ」
その後、俺達が場所を動かずに広間で待っていると涙目の姉貴が駆けてきて俺に抱きついた。
それはもう運命の再会みたいな空気を醸し出して「ユウくんがいなくなって……私……私」と涙目で言うので、とりあえず頭を撫でたところ落ちついた。
ちなみに俺とクランナで行動していたのは「近くにいたから」と説明するも、ユイとチサさんの表情はどこかニヤニヤと含んだ笑みを浮かべていて……嫌な予感しかしなかった。




