第388話 √3-40 気になる彼女は○○○で×××で。
クリスマス、ああん? なめこ投げんぞグルァ
八月四日
藍浜商店街を中心とした七・八月の「四」の付く日に行われる夏祭り。こぞって子連れから学生までもが訪れ夏の一時を満喫する行事でもある。
地方の町として考えると謎の集客率を誇り、この町の住人が全体的にお祭り気質であることを身をもって体験している――商店街の入り口に立つ俺は。
「人、多っ」
人が絶え間なく、商店街に入り出るを繰り返している。手にリンゴ飴を持つ人もいれば、戦利品の賞品の入った紙袋を提げる人もいた。
時は六時の手前、夕暮れの支配する空が見えながら聴覚を大きく支配するお祭りの喧騒も耳に慣れ始めた。
そんな俺はあまりにも平凡な服装で、Tシャツに短パンというオシャレ度で言えば最低ランクであろうザ・サマースタイルである。
「多いね~」
隣にいるのは浴衣姿の姉貴。
いつもは放らせている長い茶髪をお団子のように結ってあり、いつもと違った新鮮さがある。
スタイルが良いと浴衣が似合わないというが、姉貴はそのジンクスを吹っ飛ばして似合っていた。
「どう、ユウくん? おかしくない?」
「おかしくないおかしくない、すげー似合ってる」
「そ、そう? よかったー」
おそらくこうして俺に向ける安堵を含めながらも満面の笑みは、学校の男ならイチコロだろう。
まあ、残念なことに? 俺にしか見せない顔だから仕方ないんだけど?
……ゴメンナサイ、ただ姉が誇らしいだけなんです本当です。調子乗ってマジスンマセン。
「ユイも浴衣なのな」
「ぬう、このグルグル眼鏡とのギャップが――おかしいだろ」
「なら眼鏡取って、その綺麗な顔を衆目に晒しな」
「き、綺麗って……ばかユウジのバカっ!」
くふふふふ、ユイ弄り面白れ。
ユイはいつものグルグル眼鏡に茶髪のショートなのだが、オレンジ色の浴衣を着ていた。
以前見た素顔に当てはめると非常にばっちぐーなのだが、コレだからなあ……つくづく惜しいヤツめ。
で、ユイの反応あざとい言うな。
「我も来ちゃって良かったのかな……?」
「大丈夫大丈夫、だってホニさん可愛いし」
「もう、ユウジさん……お世辞がうまいんだから」
掛け値なしっすけどね。ホニさんも誘ったところ、来てくれることになった。
姉貴のお下がりの青地に金魚柄の浴衣だが、やはり黒髪美人には浴衣が良く似合う。
てかツインテールのホニさんなんだこれ可愛すぎだろう。ツインテールふりふりふりふりふりふりふりふりふりふりふりふりふりふふふふふふふふふ。
「わ、わしは?」
「いやワンピースですやん」
桐のサイズまでになるとお下がりは……あることにはあるのだが、ミユのだからあったことは言わないでおいた。
まあ、ミユに了承取った方がいいしな……いつ取れるのかまったくもって分からないけども。
「こんばんは、会長」
クランナが待っていた俺たちのもとへとやってきた。
「クランナは制服なのな」
「はい、面倒ですから」
花も恥じらう女子高生が、服装選び面倒なんて言っちゃ駄目。
「てかクランナって制服しか見てないような」
「外出時は制服で、室内はジャージです」
おお……あまりの効率化っぷりに感動さえ覚えるわ。
「そっか……少しクランナの浴衣にも期待してたんだが、残念」
「残念……?」
「いや、クランナって浴衣似合いそうだなって」
金髪と浴衣の組み合わせは、ちぐはぐな感じが逆に素の良さを引き出してくれそうな気がする。
「(……普通にそんな言葉投げかけないでください)浴衣というものはシンプルかつ趣もあっていつか着てみたいとは思っていましたから。下之ユウジ君の言葉は素直に受け取っておきますね」
「お、おう……」
なんか本当に俺への態度が軟化したよなー
「あの、下之ユウジ君? こちらにいる黒髪の方は」
どうやらクランナはホニさんのことが気になるようだ。
「ホニさん、居候であり可愛くあり、俺の料理の和風料理の師匠」
「居候で……可愛く、師匠? そ、そうなのですか」
「ホニです、えーとクランナさんだよね? ユウジさんから聞いてるよ金髪の綺麗な人だって」
「(そういう印象なのですか、内面はないのですね)オルリス=クランナです。ホニさんで、よろしいのですか?」「うんっ、クランナさんよろしくお願いしますっ」
礼儀正しいホニさん可愛いなあ。
「それで更に隣にいらっしゃるのは妹さんですか?」
「だな、妹の桐」
妹は妹でも老婆喋りの変人だけども。
「キリって言います! よろしくお願いします☆」
なんというか、猫かぶり絶好調だな。
「ご丁寧にありがとう、クランナよ」
「クランナおねーちゃん!」
……いつもより演技年齢下がってねーか?
「シモノー、ミナーこんばっぱー!」「こんばんは」「来たぜー」
最初から会長、小学生と錯覚する体格にピンクの浴衣……すっげえロリ加減。
チサさんは無地の青い浴衣を緑色の帯で締めるという、どこか大人びている印象が強い。
福島は少し黒く肌を焼きながら、Tシャツにハーフパンツ……俺とほぼ同じじゃねーかっ!
そうこうしている間に全員が集まった。生徒会役員打ち上げ兼、会長への貢ぎイベントが始まった――
そして二分後、終わった。
ほとんど全員が散った。
「おいおい……」
なにこの解散力。
いや本当に二分ぐらいしか経ってないんだって、進んだのも入口から二十メートルだぞ? それでいて、なぜにこうなった。
「とりあえずは……お」
誰か探すかと、思っていたところに金髪の頭頂部がチラリ見えた。
まあここら辺で金髪の人っつったら、少ないからな。
「お、やっぱクランナか」
「し、下君?」
クランナは俺の突然の出現に驚いているのがよく分かる。
最近矯正されがちな俺への呼び名が一部復活して、謎の呼び方が登場。
「下君って……」
上・右・左が欲しくなるところ。
「い、いえ下之ユウジ君……皆はぐれてしまいましたわね」
そういやクランナ方向オンチだっけ、この近くにいたのが幸いというべきか。
このまま放っておいたら海とかで発見されるんじゃないだろうか……?
うん、なんか心配だ、不安だ。ならば、お誘いといこう。
「だなー……せっかく来たんだし、他の人たち探しながらも一緒に回るか?」
「ええ!? アンダー君とですかっ」
「新しい名前生みださないでくれると嬉しいんだが……まあ、俺はクランナと回りたい。クランナの意見次第ってことで」
実際クランナとの会話はそれなりに楽しい、ボケると乗ってくれるのでこっちとしては反応が嬉しい。
ホニさんにツッコミ要素を入れた感じだろうか? だからこう言う時でも一緒に何か食べながら歩いても良さそうだ。
「そ、そうですか。じゃあそうしましょうか……ただ、何もしないでくださいね」
「絶対しない、紙に誓って」
「……誤字なのかその通り薄っぺらい決心なのか判断が付きませんよ? でもいいでしょう、回りましょうか」
「じゃあ行くかー」
こうしてクランナ(が迷わないか心配なので)デートっぽいことをすることになったのだった。




