第378話 √3-30 気になる彼女は○○○で×××で。
七月十三日
テスト返しは二日間で行われる。期末テストの教科数がどうであれ、二日間をテスト返却に要す。
大げさに言えば教科がニ教科だったとしても、二日間に一教科ずつ別けそれで当日の学業は終了ということだ。
ちなみに我が一年二組は六教科で、各日三教科ずつとなる。ほかの皆が帰る中で俺とユイと福島派生徒会へと向かうのだった。
――というのは前日の説明だけども、今日も特には変わらない。
ただ今場面が始まるのが俺ことユウジの起床直後ということで、そしていつもよりも少し早目の朝起きだ。
六時を指す時計の針を一分眺め終わると、ぼんやりとしながらもキッチンへと向かう。
「おはようっ、ユウくん!」
「おはよう、姉貴」
何が為、早くに起きたかと言えば。お節介ユウジ発動による、弁当作り。
一応姉貴が作っていることにして、俺がクランナ向けに弁当をつくるということ。
それもまあ独断と偏見だが、クランナはマトモな食事をしていないように見えたのだ。
外国人な彼女も、もしかすると料理の勝手が分かっていないのか、俺が今までに見たクランナの食事はコンビニ弁当かパン。
それに栄養剤なんてものも買っているのを見かけてしまったわけだから、それはもう気になるわけで。
「(それに最近暑くなり始めたしな)」
色々とスタミナが要すこの夏を、ジャンクフードとは行かないまでも、自炊料理と比べれば格段に栄養バランスが落ちがちな食事でクランナは乗り切ろうとしているのかもしれない。
「(見えないフリをするのはあんまり好きくないしな)」
倒られたらたまったものじゃない。しかし知り得たのは俺ぐらい、さて嫌われて好感度底辺の俺はどうやってクランナにマトモな食事をさせるのか?
そこで姉貴の副会長権限の発動。まあゴリ押しだよなあ。
姉貴の説得と一応俺作、姉貴の弁当を食べたクランナのリアクションからして、大丈夫だろう。
「ユウくん、本当にいいの? 私が作らなくて」
「当たり前だろ。俺が勝手に決めたことだ……と言いつつも姉貴には色々迷惑かけてるよな、すまん」
「そんなことないよ! ユウくんのそんな優しいところや気付くところがお姉ちゃん大好きだし、クランナさんも聞いた限りだと気になるしね」
こうして、俺が二食と姉貴がホニさん分含めて二食作ることになるので、キッチンは混雑する。それも早起きの大きな理由とも言えよう。
偶然が重なって、俺がクランナを目撃したのがコンビニ弁当orパンという可能性もないわけではないが――なんとなく、そう思ったのだ。
実際真面目な彼女は、本当を喋ったわけで。確かに『買ったコンビニ弁当と学食とかが殆ど……ですね』言わしめたわけだ。
姉貴には予め、クランナが食べられるもの、好物なものを聞きだしてあり、野菜庫にストックしてある野菜や冷凍庫にある肉などで十分作れるメニューだったから問題ない。
それで俺は姉貴とクランナの弁当を、姉貴は俺の弁当を作ることになった。
そして割を食うのが今日に限ってはユイなわけだが、
『食わせて貰ってる身だ、そんなの全然オーケーェよォ』
と、理由も聞いてこずに購買のパンですませてもらうことになった。色々スマン。
「ユウくんのお弁当食べられるなんて幸せだよ~、私のお弁当をユウくんに食べて貰うものし・あ・わ・せ!」
相談した頃から姉貴の機嫌はウナギ登り。お姉ちゃんとして頼ってくれたのが嬉しかったのかもしれない。
「さて作りますかっ!」
学校終業までの数日間はとりあえずクランナの弁当作りが確定。
それからは考えてないが……なんとかしよう!
それは放課後のこと。
と言ってもテスト返却以下略。じゃあ明日からどうするのかと言えば……まあぶっちゃけると。
夏休みまでのテスト終了からは教師の授業も半分消化試合のようなもので、オール午前授業となる。
そして生徒会はとりあえず夏休み終了まで活動を行う事になっている。つまりは、副会長の指導として自然にクランナに弁当を渡すことが出来るのだ。
……まあごり押しの時点で自然とか、ふざけているのかって話だけども。
それで俺はクランナと一緒に書類を運んでいた。まあこれも来るべき十一月初めの文化祭のもので、早すぎないか? と思われがちだがそうでもない。
なにより九月こそ丸々と時間を使えるのだが、十月は二学期中間テストや文化祭以外の行事も重なるのであまり時間が無いとも言える。
だから時間のあまりある今のうちに出来ることはやっちまえというのが方針らしい。
「そういやさ、弁当どうだった?」
「お弁当……? なぜあなたがそれを聞くのですか、作っているのは副会長でしょう」
こいつは何を言っているのだろうというような目で見てくる。うん、言い方がダメだったな。
「いや姉貴に聞いといてと言われたんだよ」
「……そうでしたか」
副会長の姉貴は、チサさんではどうしてもカバーできない書記の仕事も兼務する時がある。
どこぞのロリ会長と違って忙しく、忙しいのだ。
「(本当に姉貴が生徒会からいなくなったら、どうなることやら)」
苦笑が漏れる。チサさんは確かに天才だけども、いくらなんでも限度があるし、会長の御守もあるし。
「とても美味しかったとお伝えください」
いやまあ、嬉しいけども。
「具体的になんかないか?」
参考にせねばならん。
「そうですね……秋刀魚の焼き加減が丁度良かったですし、骨抜きも小骨の一本も残っていなくて驚きましたわね」
ホニさんのご指導の賜物だなあ。どちらかといえば味作りが得意な方で、素材の味は濃い味で誤魔化してしまうのが通例だった。
ホニさんは魚焼き機の使い方も一発で分かり、絶妙に焦げ過ぎないポイントで取り出し、塩加減も素材の味を引き出す丁度よいもので、焼く前の魚の下ごしらえも完璧で、まるで最初から骨なんかなかったかのように形を崩さずにやるものだから凄まじい。
まあ、俺も付け焼刃みたいなもので真似してみれば上手くいくわけがない。いくつかの休日を使って教えてもらっていたのだった。
「それにアスパラのベーコン焼きは、アスパラの生臭さも適度に抑えて、それでいてベーコンも香ばしくて美味しかったですわね。本当に私なんかに作って貰うなんてもったいないほどですわ」
「そっか……あ、了解。副会長にはそう伝えておくよ」
「よろしくお願いします」
なんとか褒められた喜びを抑えこむが、やっぱ褒めもらうと嬉しいもんだな。
そうして、この複雑な弁当交錯の日々は続くのだった。




