第376話 √3-28 気になる彼女は○○○で×××で。
「それからあっさりと古家具屋を見つけて、それで……」
実に好ましい階段だんすが!
「(そういえば……)」
下は買い物途中でしたっけ。それなのに一時間近く付き合ってくださったのですわよね。
もし話通りなら、それもお姉さんである下之副会長の負担を減らす為で――
う、うまく描かれ過ぎですわ。どうせセクハラのような破廉恥な要素がどこかで入って来るのです。決まっていますわ!
「(でも、もしかしてあれは……)」
……ないですわ。ただ今は猫を被っているだけに違いないのです(?)
「……あ、夕飯の時間ですわね」
私はジャージ姿のまま立ちあがると、冷蔵庫の上扉にある冷凍室を見て凍らされた惣菜やご飯を取り出して、電子レンジで解凍する。
盛りつけてから、卓袱台までもって行きニュースを見ながら今日の夕食を終える。
「(少し休んだらお風呂に入りましょうか)」
このアパートは見かけは古いものの、設備はほどほどに揃っているのです。
部屋は一つだけですが、トイレもお風呂別々に有り、どちらも近年改装されたばかりのようですね。
「(元の国と比べるとナノサイズですけれど、一人では十分過ぎるほどですわ)」
お風呂に入って、勉強の復習・予習を二時間ほどして十一時。私は布団を広げて思いのほか早くに眠りに就きました。
歩きまわったことや、倒れかかったことなどがあるのでしょう。それはもうすぐに眠気が襲って来て――
* *
七月五日
「そういやクランナってコンビニ弁当ばっかだよな」
「え」
一学期を締めくくる期末テストを寸前に控えるこの頃、いつものように買って来ていたコンビニ弁当を食べていると滝川さんがそんなことを呟きました。
「そ、そうですか?」
「それか学食」
「う……そうですね」
その通りで、編入してからずっとコンビニで買った弁当や学食で昼食を済ませていました。
「私も気になっていました」というような表情で岡さんも箸を止めてこちらを見ているのがなんともいえませんわ。
「自炊できないんです」
お米だけは炊けるように頑張ったのです! それでも他の料理は難しくて……さんまを炭にしたのがもうトラウマのようになってしまってたりします。
「そっかー。まあ俺も料理しないしな」
「実は私も……あまり得意では」
「そうなんですか」
ということはお二人が食べているお弁当は、お母様やお父様が作ってくれているということでしょうか。
「特に意味はねーけどさ、聞いてみた。あ、そーいやさ――」
確かに栄養バランスは偏るのですよね……なんとかしませんと。
その日の放課後。
生徒会が終わって、下よりも早くに学校を出た制服姿で商店街へと向かっていました。
「(今日はお弁当ですわね)」
買い置きしていた惣菜も有限ですし、時折夕食はスーパーの弁当に。
……それにしてもコンビニやスーパーのお弁当というものは、想像よりも美味しくて驚きましたわ。種類もありますし、飽きがきませんね。
オリジナルブランドと思われますそれぞれのパンも美味しいですし、もうそこで事足りてしまうのですよね。
気分を買える為に近くにあるコンビニではなく商店街のスーパーでも買う事があり、今日はスーパーで買おうと思っていました。
それでも油モノがどうしても多くなってしまいますから。そう考えながら、サラダも一緒に買おうと歩いていると――
* *
「(ん? クランナか?)」
学校帰りにユイに「ゲームショップよろうぜ!」と提案してきたので姉貴を先に帰して寄り道をすることに。
向かう途中でクランナとすれ違った……といっても、間は離れていたし、クランナは俺に気付かなかったみたいだけども。
「(提げてるのはスーパーの弁当か?)」
なんというか、合わないな。留学生で、豪邸構えて専用のコックがいる――かもしれない容姿なのに半透明の袋をさげているのだから違和感が凄まじい。
「(まあ、たまたまってことかもしれんし)」
そう思いながら何かのアニメの鼻唄を歌いながら先をぐいぐいと進むユイの背中を負った。
七月七日
織姫と彦星がうんたらかんたらかもしれないがテスト週間を気にする高校生の今ではまったくどーでもいい。
試験勉強をしていたのだが、かんでいたガムが切れ、牛乳や食パンが切れた。ということで俺が買い物に名乗りをあげた夕暮れの頃。
「(あ、クランナか……)」
またしても手に提げるのはスーパーの袋。中身は平たい弁当らしきもの。
「(偶然だよな)」
七月十一日
テストが終わり迎えるは日曜日、テスト終了記念で色々と打ち上げっぽいことをしたのは昨日のこと。
今日は普通に食材調達に商店街に姉貴とやってきた。一人で行こうとしたら「私もユウくんと! じゃなきゃ私だけで行く!」とゴネ始めたので、仕方なしで二人買い物に。
「ふんふ~ん♪」
隣の姉貴は上機嫌で言ったら極上機嫌といったところの、嬉しさを滲み出るどころか溢れだして氾濫するほどに喜びをあらわしていた。
実際にそこまで喜べる理由が、俺と一緒という事なのだから俺は苦笑せざるを得ない。
「(それだけで喜んでもらえるのは嬉しくも有り、安上がりでもあるけど)」
(姉弟)愛が重い。周囲から似てないからカップルによく間違われる、しかし俺はどう足掻いても釣り合わない身内びいきを抜きにしてでも姉貴は美女なので……なんというか、ね?
「(……あ)」
そうまたふと気付くと目の端を歩く金髪碧眼の美女。
「(また……だよな)」
見飽きたようなニュアンスに聞こえがちだが、クランナを見飽きたわけではない。
そう、また手に提げるのは弁当だ。
「(栄養バランスとかどうなんだ?)」
良く見れば栄養剤のボトルのようなものも袋の中に見える。
そして相も変わらず彼女は気付いていないようだ。
「(ううむ……)」
少し節介焼きな俺はそんなところが気になってしまう訳で。
後で一応の生徒会副会長である姉貴にある相談をしようと心に決めて――
* *
気付いていないようだ、ユウジは思っていたようですが。
「(副会長と下……果てしなく似てないですわね)」
そうユウジが姉貴へ意識へ戻す頃に、クランナはそれをみて思いましたとさ。




