第374話 √3-26 気になる彼女は○○○で×××で。
私は岡さんに連れられて、昼食を食べに行こうとしたのです。
弁当を持ってきていない私としては、前々から気にとめていたことで、誘ってくださって都合が本当によかったのです。
それでも誘われる前までは忘れていて、いざ昼時になってどうしようと思っていたところでもあしました。
それで学生食堂、学食へ向かうその途中のことで。
私は気付くと地面に尻もちをつく形になっていました。
そして何かとてつもない違和感を感じて胸元を見下ろすと、そこには人の手が覆いかぶさっていました。
それは俗に言う破廉恥な行為で、その手の主は他ならぬ男子生徒。
これは言うところによるセクハ――
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
私自身でも、ここまで出てしまうのか。というほどの声量とカン高さで悲鳴をあげていました。
それが……セクハラ男の「下」との出会いでした。
恥辱のあまり怒るのも忘れて、私は立ちあがると走り去りました。後ろでセクハラ男の呼びとめるような声が聞こえましたが、とにかく動揺してしまって脱兎の子ごとくにその場から逃げ出してしまいました。
……って、この言い方では私に非があるようですわね。怒れば、殴ればよかったのでしょうか。その時には本当に恥ずかしくて、悔しくてたまらなかったのです。
岡さんに宥めて貰いながら学食に付くと、私は”きつねうどん”というものを注文しました。
それが今までに食べたことの無い味と食感で感動するのですが、少し前の出来事を時折思い出すせいで自然と感動が薄れてしまいました。
でも美味しかったので、時折行くことにしてします。お揚げおいしいです。
「クランナって何処か部活には入るのか?」
「部活ですか?」
そう問いかけてきたのは岡さんとは反対の左隣にいる滝川さん。
特に特徴の無い彼ですが、私が最初の授業の時教科書が無い際に戸惑っていた際に声もかけてくれた人です。
「って、俺は帰宅部だけどな」
「帰宅部……? そのような部活があるのですか」
帰宅する為の部活……速さを競うのでしょうか? ということは陸上部のようなものでも――
「いやいや冗談でそう言うんだよ。ようするに俺は無所属ってこった」
「そうなのですか。あの、岡さんは何処かに入っているのですか?」
「私? うーん、私も帰宅部だなあ」
そういえば先程のクラスの生徒たちがやってきた際にも勧誘された気がします。
耳に残ったのは「茶道部」でしょうか。実に「和」テイストそうで興味があります!
ただ、ただですね。
「私は部活に入る予定はないですね。ただ」
「ただ?」
二人が声を揃えるように聞いてきます。少し……言うのが緊張しますね――
そうして私が訪れたのは一つの表札のかかった扉の前。
……ここまで着くのに時間を要してしまいましたが、結果オーライというものです。
「し、失礼します! 一年四組のオルリス=クランナです」
ドアを開けた先には――
「子供……?」
「子供じゃないよ! 立派な高校二年生だからっ」
首を傾げながら見る先には茶髪のセミロングヘアーの小さな、本当に高校にいていいのか、もしかしたら意地をはっているだけなのかと言わんばかりに、容姿の小さな女性がいらっしゃるのです。
「これでも会長なんだから!」
「それはあの……こども会長のようなな」
「こど○店長じゃないよ!? で、えーとあなたはね……知ってるよ、そーそー、首筋までは出かかってるのよ」
……どこが出発点なのでしょうか。
「アスちゃん言ったじゃない、オルリスちゃんだって」
「あ! そうだそうだっ、オルリスだ!」
すると、隣にはどこか大人というかアダルティな魅力振りまくかのような長い黒髪の女生徒が、会長と称する女性に助言するように呟きました。
「え……私のことをご存じだったのですか?」
「まあねー、台本にむぎゅっ」
「容姿端麗な金髪碧眼の転校生と有名なオルリスさんよね」
「ええと……そうなのですか?」
「凄い美人だって聞いて……本当その通りね」
「あ、あの……」
「ごめんなさいね、ついつい綺麗なものは見惚れてしまうの。オルちゃん」
「オ、オルちゃん?」
「気安すぎたかしら?」
「そんなことないです!」
「よかったわ……それで、オルちゃんは生徒会室にご用があったのかしら」
「あ、はい! 実は私を――」
私は、ここに来る時に決めていました。
日本のことを知るには、多くを学ぶ学校をまずは知る。
学校をより多く、確実に知る為には、生徒を統括する組織こと――生徒会に入るべきだと。
しかし岡さんと滝川さんは、
『え、生徒会か? ……あれは入れるものなのか?』
『一部の推薦した生徒以外ハネ返したって聞いたことがあるね』
そ、そうなのですか? 問い返すと。
『生徒会に多くの人はいらぬ! ……らしくてよ、今は二年生しかいないらしい』
私たち一年生や、先輩である三年生はどうなっているのですか?
『一年生は門前払いらしいな』
『集会で出てくるのは二年生だけだよね』
その二年生も「紅知沙」「葉桜飛鳥」「下之美奈」の三人だけだと言う。少数精鋭のようですね、と感想を述べてみると。
『らしいな。特に紅先輩と下之先輩は超有能で生徒会の職務は実質二人で行っているだとか』
そ、それはなんと凄いお方……え? もう一人はどうしたのでしょうか。
『あー、マスコットらしい』
マスコット!? 少数精鋭なのにマスコットで一人の枠組みを消費してしまうのですか!
『うん、可愛らしい先輩だよね。髪がツンツンしてて茶髪でちっちゃい――』
三人で切り盛り、実質は二人で学校を統括するなんて……一体どのような方なのでしょうか。
『だからさ、なんか知らないけクランナもダメかもな』
『そうですね……難しいかもしれません』
――と二人に諭されたものの、私はそれを無視して生徒会へとやってきたのです。
「色々生徒会の方々の噂は聞いています、人を入れない少数精鋭であることも」
「情報がはやいね」
「それでも私は留学生という立場として日本を知る為には学校を知って、それには生徒を統括する生徒会役員の立場として知りたかったのです!」
「…………」
「よろしくお願いします! なんでもしますっ、雑務でもなんでも!」
私は知ることの為な遠慮するつもりはなかった。そして憧れの日本という国への探求を抑えることもしなかった。
「よし! 言ったね! なんでもって言ったね!」
…………へ?
会長がどこか、何かを企むかのような表情をしてそう言い放った。
私は、もしかして。何か失態を――
「じゃあ、オルリスは雑務お願いね!」
「ええ、はいっ!」
……反射的に答えてしまいしいましたが、本当に雑務なのですね。
「そうだ、オルリスに紹介紹介! えっとね、オルリルと同じ学年から新たに二人の生徒会役員が誕生しましたっ! あ、来たみたい。ん? シモノ? 連れてるのは友人? 許嫁――とりあえずちゃっちゃと入っちゃってー、会わせたい新メンバーも居るしね!」
シモノ? 男性の声で、どこか聞き覚えのある――
「あ」
「え?」
その男性は、見覚えがありました。去り際にも無残にも焼きついた――セクハラ行ってきた男子生徒。
「あ、あっあなたは!? な、なななんで、あなたがここにっ!」
これが「下」との再会でした……本当に、なぜこんなところで。
それから色々あって、スキャンダルな記事が書かれたり、下とペアを組まされたりと散々でしたが。
少しずつです、許しては絶対いないのです。それでも「下」のことが少しずつ見えてきたのです――




