第371話 √3-23 気になる彼女は○○○で×××で。
久しぶりですー
変更前「サトウ家具」→変更後「カトウ家具」
やってきたのは喫茶店から歩いて数分も経たないところに位置する商店街の裏通り。
商店街のメインストリート……そんなハイカラな俗称が合っているのかはさておき、路地に入って行くと車一台半ほどの道が商店街に平行するように設けられている。
その道には商店街とはまた違った、どことなく”懐かしさ”を思い起こさせるような佇まいで商店と民家が並んでいるのだ。
「このような場所が……」
先程の商店街が地方の背伸びした結果とすれば、こちらが地方相応の商店街に見えなくもない。
それでも背伸びが功を奏してそれなりに繁盛しているし、こちらの裏通りも客層が異なるのか、常連客が多いのか、俺が覚えている限りでは店を閉めたところは十数分の一ぐらいだろう。
「少し分かりづらいかもな」
「はぁ……」
隣を歩く日傘の彼女はキョロキョロと商店街の面立ちとは異なった景色の裏通りを眺めている。
”デザイン”という言葉とは無縁な古びた面構えの店ばかりで、その店主達もなかなかに歳をとってもいたりして少しばかり、古臭いイメージが先行するが、
「あの駄菓子屋にはよくお世話になった……」
「だ、駄菓子屋ですか!? ……現代に教科書で見たとおりの駄菓子屋が残っているなんて」
俺が昔にお世話になった店もある。
驚きと高揚が感じられる彼女は、俺の眼の先にある木箱に数十円で買える駄菓子が陳列され、店先に並ぶそのさまをまじまじと見ていた。
「……悪いが、とりあえず古家具屋行こうか」
「わ、悪くなどないですわ。頼んだのは私ですから、お願いしますわ(また来ましょう)」
少し未練があるのかチラチラと駄菓子屋を振り向くのが傍からみて……
「(クランナはこういうのが好きなのな)」
クランナが目を向けるとすると、それは現代のものというより、時代を重ねたレトロというかモダンなものが多いような気がする。
駄菓子屋しかり、水色の半透明ガラスの美容室に、ガラスをはめ込んだ木戸を使っている酒屋などなど。
「ここだな」
「こ、ここが……!」
隣から息を呑むように、彼女は真っすぐ前を見つめていた。
そこには商店と民家の複合した、ありがちな店構えの古家具屋がある。反転したかのように「具家ウトカ」
逆読みというか、現代の読み方に直して「カトウ家具」
俺も実際に来たのは初めてで、姉貴が「良い家具が揃ってるんだー」と嬉しそうに話していたり、いつか買い物に出かけたホニさんが「懐かしい家具のお店があったよー!」と話されていたのを覚えていた。
その後商店街入り口に掲げられている周辺地図にその名を見つけ、なんとなくに場所を覚えていた。
「はぁ~~~~」
クランナはというと感嘆の声をあげていた。
店先に並ぶのは、端が鉄で装飾された小豆色ともこげ茶とも捉えづらい絶妙な色合いの戸棚や、漆が塗られて時折照りをみせるほどに丁寧に扱われたことが分かる和ダンスなど。
ほかには小物として木製の茶箱、編み込まれたこおり、黒々としつつもその流線的なデザインはそれな黒電話、縦模様の入ったガラスで出来た容器とスイッチ周辺部分が緑色のミキサーなど。
と、いうようななんとも昔懐かしいもの達が鎮座していた。
それだけではなく事務で使うような収納などもあるのだが、クランナの眼はその”昔懐かしい”ものの方へと集約されていた。
彼女はその場から一歩から動かくなったままま、それらを瞳を輝かせて凝視するので、とりあえずに。
「すいませーん」
俺は店へと入って行き、声をかける。
「はいはーい」
すると店の奥から愛想のよい少し老いた女性が現れた。しかし容姿と比べてその声は若く感じ、ハキハキと喋る。
「学生さんですね? いらっしゃいませ、古臭いものばかりしかないけど良かったら見ていってね」
と微笑みかけてくる。古臭いとは言うがチラチラと見ただけで、その手入れが徹底されていることが良く分かる。
よく汚れなどを残して希少価値としているのものあるが、そんなことがどうでもよくなるほどにそれらの家具は美しかった。
そうまずは言おうとしたところで――
「素晴らしいですわ! このような家具が見れるなどっ」
後ろにいつの間にか迫っていたクランナが声をあげるようにして言った。
「お客様、興味が御有りですか?」
「はいっ! この階段ダンスの、控え目な鉄装飾といい抑えられた色合いといい、階段状に並ぶ六つの引き出しが……素晴らしいと思います」
「お目が高いですね。家具市場で見つけたところ、一目ぼれしまして。出来はどうあれ修繕させていただきました」
「修繕です……か? 見ているとそうには」
「元々引き出しが消失していたり、枠組みが腐っていたり、底が抜けてもいましたが……違和感はないでしょうか?」
「ないどころか……まるで作られた直後のようにも」
「ありがとうございます。そういえばですね、この和ダンスは――」
「はいっ――」
置いてけぼりを食らう俺だが、クランナとカトウの店主の女性は意気投合していた。
こんなに活き活きした彼女を見ることになろうとは。
「(なるほど、クランナは生粋の日本マニアってことか)」
それもレトロ中心の。
なんというか見ていて微笑ましかった。
「今日はありがとうございました」
「いや、いいって」
一時間ほど談笑していたクランナと店から出た。
俺は最初案内したら帰ろうとも思っていたのだが、クランナの表情を見ているのもつまらなくなかったし、それに家具をじっくりと見ると言うのもなかなかに面白かった。
「加藤さんと知り合えたのはあなたのおかげですわ」
店名の通り、古家具屋の店主は加藤さんだった。クランナに説明していく姿は傍から見ても楽しんでいるように見えた。
それを上回るような楽しみ方をしていたのがクランナでもあるのだが。
「買い物終わりと言うのに付き合わせてしまいましたし」
「だから気にすんなよ」
実は店を出る頃には太陽も陰りを見せて、気温もさがっていた。
ビニールの中身を覗いてみるが、特に大きな変化はないようで一安心。
「クランナは楽しかったか?」
「え……はい。楽しかったですわ」
「ならいい、俺も楽しかったしな」
「え」
楽しかったのは前述の通りだ。
きょとんとした顔を向けてくるので、少し茶化してみよう。
「もしまた迷って、俺が近くにいたら案内するぞ」
「ま、迷ってなど!」
「はいはい、じゃあまた生徒会でな」
「な……もう(本当にこの人は、あの出来事が無ければ――)」
何か聞こえた気がしたが、いつも通りに。
「じゃあな、クランナ」
「さようなら……下」
デフォルトデフォルトっと。
と、いうことで俺とクランナの日曜は終わりとなる。
なんというか、高校生なのに色気の欠片もないとか本当でも言うなよ?




