第370話 √3-22 気になる彼女は○○○で×××で。
これまた久しぶりです
変更前「サトウ家具」→変更後「カトウ家具」
七月四日
それは完全なる夏な昼のこと。じりじりと衣服に覆われていない皮膚や髪が熱せられていく感覚で、まさに焼けるよう。
七月も始まったばっかりというのにこの暑さは、そろそろ地球の空調のリモコン操作が真面目に必要になってくることだろう。
額をつうと流れる汗を感じつつも、俺は目的の場所へと目指す。
「(今日は特売日……だな)」
野菜果物と飲料系がお得な日。姉貴に渡されるまでもないスーパーのポイントカードを握りしめて歩み向かう。
「(……適当なジュースよりもお茶が飲みたい)」
井エモン辺りの茶系飲料をぐいっと口に流し込んで、喉を潤わせたいこの頃。
「(確かファミリーボトルで一五八だったら――)」
箱買いしたいぐらいだ。
そう色々と皮算用をしていると、前方に見覚えのある姿に顔が見える。
「ん?」
あの長い金髪と碧眼といい、歳を考えなくとも長身で適度に引き締まったスタイルの良さといい、この暑さでもどこか気品の残すその姿。
「(クランナ……だよな?)」
間違うはずがない。金色の整えられた長髪や日本人とはまた違った瑠璃色のような碧眼を持つ彼女だ。そうそういるわけではない。
そんな彼女は純白のフリルの付いた日傘を差しつつも、藍浜高校制定服であるセーラー服を着ているのだから、少しながらも違和感を感じざるを得ない。
「?」
そんな彼女の傘はあっちに向いたり、そっちに向いたり。クランナ自身の挙動がどことなく変だった。
「(学校以外でも俺の顔を見るとか、嫌だろうしな……見なかったことに)」
しようとしたのがその瞬間からショッピングまで。
「♪」
スーパーを出て、すっかりクランナのことを忘れてお得に手に入った買い物袋の中の野菜をほくほく顔で覗きこむ。
「(キャベツが安いのはいいな。夏だから味のはっきりした染み込んだ料理が良さそうだ)」
それには味の馴染みがいいキャベツがなかなかの適任であろう。
「(もやしも賞味期限近いけど、まあすぐ使いきっちゃうだろうし。最近味噌汁飲んでないから買ったニンジンも入れとくか)」
今日の夕飯をインスピレーション。姉貴ほどではないが家事が板についてきたような気がする。
「♪~」
買い物袋を提げて商店街からの帰り道を歩いて行く。
いや、歩いて行こうかと思ったのだが。
「おおう……」
振り向けば彼女。どこからどうみても金髪碧眼な以下省略。
なぜここにまだいるのだろう? 買い物は時間を忘れちゃうからざっと一時間は経っているはずなんだが。
「なぜに?」
首をかしげつつも遠目に彼女を眺める。やはりキョロキョロと挙動が不安定だ。
いくら日傘差してるからって、この夏日真っ盛りの空の下で一時間も立ちつくしていたらどうだろう?
……本当は避けたいけどなあ、嫌われてるし。抉られる覚悟で――
「クランナだよな――」
そう言って近寄った時に、ふっと。
「お、おい!」
彼女がフラフラと前方へと目を閉じて倒れかかってくる。
その顔は赤いようで、熱中症なのだろうか? 脱水症状なのだろうか?
「……せーふ」
今回は胸でなく肩……いやでもこれは不可抗力で。
と、言ってる場合じゃないな。とりあえずクランナをどっか涼める場所に……そうだ、あそこでいいな。
「……誰……ですの?」
「悪いが下之だ」
「下……ですか……ああ、少し目眩がして」
「とりあえずそこの喫茶店に入ろうか、な?」
「私を喫茶店に連れ込んで……」
「はいはい連れ込んで涼ませますよっと」
「…………すみません」
というこで数十メートル離れた喫茶店へと彼女の腕を掴みつつも向かった。
喫茶店はガラスウィンドウで、ドアをくぐるとこれでもかと言わんばかりに冷気が身体を包み込む。
「とりあえず座ってろよ?」
「……指図を」
「座っててください」
「…………」
二人分のアイスコーヒーと、セルフの氷水を持ってきて。
「大丈夫か?」
「大丈夫ですわ」
その頃には喫茶店の環境の良さか、クランナの顔色ももとに戻っていた。
そこにはどこか無愛想な表情があり、俺へのデフォルトなのでそこまで気にせずに向かい席へと座る。
「その……ご迷惑をかけましたわ」
「いやむしろ勝手に連れ込んで悪いな。でもな、あそこまでふらふらになる具合だから、身体のこと考えて強制した」
「……少し外に居過ぎましたの」
そういえば体育祭の時も危なかったっけ? クランナは真面目だから生徒会の活動を太陽の下でずっとやってたもんな、もし俺が本部に戻さなかったらどうなっていたことやら。
この暑さで一時時間以上というのは”少し”に入るのか少し微妙だが。
「てかなんでそんなに外にいたんだ? 一時間ぐらい前から動いてないようだったけどよ」
「う、動いてはいましたわ」
おかしいな、目視する限りだと半径ニメートルぐらいの誤差しかないんだが。
「でも、戻ってきてしまいましたの……六度目ですわ」
「はぁ」
…………あー。
「なんですの、その顔は?」
「いやー、まあなー、うん」
「歯切れが悪いですわね、何か私に隠すのですか?」
そういやクランナって方向オンチっぽいんだよな、口には出さないけども。
てか動いた上で一時間とか余計に体力削られるだろうに。
「なんでもないことだからな……で、クランナは何かお探しで?」
「…………なぜ、そのようなことを聞きますの?」
そりゃあねえ。せっかく回復したのにまた迷われちゃ敵わないし。
「転校生な女子生徒だと、やはりこの町には不慣れなんじゃないかと。思っただけだな」
「っ! そうですの、確かにここに来てから時は経ちますが、分かりにくいのです……仕方ないですわね。他の生徒や住民の方々とは経験が違いますもの、ええ」
誘導はしたけど、意地はるのなあ。
「それで不慣れなクランナさんは倒れる寸前まで、何を探してたんだ?」
クランナが探すもの……想像がつかないな。そういや彼女は日本は興味深いとか言ってったような言っていないような。
「…………家具屋です」
「家具屋?」
「この商店街に古家具屋があると聞いたのですが……見つからないのです」
「古家具屋……あー、カトウか」
「カ、カトウ? 私は決してシュガーを足しているわけではないのですが」
お、おう。なんてテンプレートな……ん? よく考えたらこれテンプレート……?
「店名だよ。そういや奥まったところにあったっけな」
「そ、そうなのですか……」
「チラ見しただけだけど、結構年季に入った日本家具扱ってたような」
「日本家具……!」
クランナの眼の色が変わった。
「あ、あの……」
「ん?」
実はまあ、クランナの言おうとしたところは分かる訳で。
「無理強いはしませんが、もし下にそれほどな急用がないのであれば――」
どこかモジモジとして俯きがちに呟くそれ。まあ俺に頼むのは屈辱も入るんだろうな。
「じゃあ少し涼んだら行こうか、カトウ家具に」
「……よ、よろしくお願いしますわ」
ほんと礼儀はどんな相手だろうと重んじるのなあ。クランナは。
ということで、クランナを案内することにした。まあ、野菜が心配だから案内したら帰るかもだけど。




