第367話 √3-19 気になる彼女は○○○で×××で。
とある舞台。
明らかに日本のような和風建築とはかけ離れた、まるでおとぎ話のお城のような場所。
そこで二人の男女が口論をしていた。
「いい加減にしてください! 何度言えば良いのですか!」
その女性は敬語こそ使っているものの、怒気を孕んで喋るのは腰ほどまでに長く美麗に伸びる金髪と大きな瞳は藍色の染まる碧眼。
ふんわりとして、多くの装飾が付けられたロングドレスを纏う姿はまるで、お姫様。
「私こそ何度も言わせるんじゃない、お前はこの国の――」
男性は重低音とも言えるほどに渋く低い声で喋り、その女性よりも巨身でガタイの良い体つきで、何かの生き物の毛皮で作られたであろうコートを羽織っている。
「知りませんわ! あなたに私の人生全てを決めつける権利はないのですよ!」
忌々しげに見上げ、睨みつける。
「時代遅れなんて言葉が甘すぎるほどに、その考えは古いですわ!」
男性に感情を大きく露わにして怒鳴りつける女性。
「決まっていることなのだ、分かれ」
男性は淡々としたもの言いで、吐き捨てるように女性から去っていく。
「勝手に言い捨てて逃げるんじゃないですわ――父様!」
これはおとぎ話のような世界で、おとぎ話のような容姿の二人の会話の一シーン。
* *
六月十四日。
疲労に塗れたまま休みが明けた。この学校はどうかしてる、土曜の振り替えが原則ないせいで疲れた体を癒せるのが日曜のたった一日だなんて。
え? まだ奇数週だけ土曜休みがあるだけいいじゃないかって?
うるせえな、慣れちまってるんだから仕方ないだろ! 中学校まで無かったわ! エスカレーター式なのにまさかの高等部にはソレだよ!
ゆとりでごめんなさーいねえ!
……てか体育祭開催日は偶数週なのに、振り替えがないことに俺は憤りを覚えている。確かに学校行事って生徒の勉強休みの一つかもしれないけどな、理不尽だよ!
と、思いつつも学校はサボらない。散々脳内で愚痴を言ったから、なんだかスッキリした……さて今日も頑張るか。
「おしかった気がするんだけどなあ」
「まあ、なんていうか面目ない」
体育祭の結果というのは学年単位での優勝、学校単位での優勝の二つがある。
それぞれ規定された得点数で優勝を決定するのだが、まあ二組は残念なことにニ位だった。
六クラス中ニ位なので無難といえば無難だが、上級学年を含めてしまえばトップテンにギリギリ入るか入らないぐらいだった。
主な戦犯は俺たち男子。スーパーもやしっ子の割合が多く、忍者や熱血野郎だけではどうすることも出来なかった。
女子がかなりいい成績を残しただけに勿体ない。
「なんでユウジが謝るの? ユウジは頑張ったからいいじゃん!」
ユキに笑顔でそう言われてしまう。まあ無難だったからな……流石凡を地で行く俺だぜ。
「ユウジ様のご活躍はかっこよかったですよ、自信を持って下さい」
「ああ、ありがとな二人とも」
姫城さんともなんというか、気軽に喋れるようになったなあ。と関係ないことを思った。まあ嬉しいことにはまったく違いないけども。
「あのあと大変だったじぇ……後片付けでアタシのライフはゼロだったのだぁ」
ぐったりとしたユイもやはり疲れれが抜けていない様子だ。
「あ、ユウジあんがとぬ。アタシを家まで運んでくれて」
そういや日曜もコイツぐったりしてたっけ。短距離走は速かったけども、もしかすると持久力というかスタミナはそれほどないのかもしれない。
いや、気にすんなと返しておくと。なぜか姫城さんが、首を傾げて言った。
「ユウジ様がユイさんを家まで運んだのですか?」
「まあな、コイツ相当疲れてたから」
途中からは完全に力尽きてて、歩き寝してたからな……
「うぬ、ユウジが運んでくれたのですう」
寝ぼけているのか舌足らずな気もする。ユイは基本頭も回れば、気が効くのだが……何か口走らないとよいのだけども――あ、フラグ。
「あのままベッドに運び込んでくれたおかげでぐっすり眠れたぞぃ……」
「「!?」」
滑らすのはええな。ユキと姫城さんが驚いていた。
「ええと、なんでユウジがユイの部屋まで運んだの?」
「あ、いや。ユイがガチで疲れててな、家まで運んだついでに、な?」
「そ、そうなんだ」
……誤魔化せたか?
「その日はユウジ疲れてるのに夕飯まで作らせてすまなかったぬ……」
「「夕飯まで!?」」
お前はいつも手伝わないだろうが、とツッコミを入れるも。
それ以上に……こんな時にユイは口を滑らせまくるのな。おいおい、それじゃあ……少なくとも俺がユイ家と交流が深いことを言っているようなものだ。
「……夕飯をつくって差し上げるほどということは、ユウジ様とユイさんは家族ぐるみで深く付き合ってらっしゃったのですね
よかった、その解釈で。
「……だけどユイの家ってユウジと離れたとこにあった気がするんだよね。だって学校来るときも合流するのは後だし、帰りもユウジとは別の道に行ってたし」
「まあな。ユイの家は少し離れ――」
そこまで言ってはっと気付いた。
「ユウジは疲れてるのに、離れたユイの家までご飯作りに行ったってこと?」
「あ、ああそうだな。少し足を伸ばして、少し頑張ってな」
雲行きが怪しくなり始める。ユキと姫城さんの疑問を抱いて怪訝な表情をしたまま詰問は続く。
「そういえばユウジ様のお弁当とユイさんのお弁当の具が……一日違いで似たような時がいくつかあったのですが、ユウジ様が作りに行っているからでしょうか?」
「夕飯つくって、そのノリでな。夕飯再利用した方が楽だし」
平然と話しているはずだけど、冷や汗が止まらない。
そして二人は笑顔なのに目が笑ってない。
「そういえば思いだしちゃった――ユウジの家に勉強会に行った時だったかな? 靴箱にユイの靴が平然と入ってたなー」
あ、詰んだ。勉強会というのは体育祭前に行ったもので、俺の家にも来たのだった。
「「どういうことか説明させてもらえる(いただけますか?)」」
「……はい」
そうして話そうとしたその時だった――
「……ぬう……あ、眼鏡外してなかった」
あれか。ユイは一応寝るときは眼鏡外すってことか、まあ危ないしな。その癖が今寝ぼけている状態で出たってことだろう。
ユイが寝ぼけて眼鏡のフレームに手を掛けて、眼鏡を取り去った。
「「!?」」
そこには以前に寝起きを襲ってきた女の子の顔があった。それは夢だと思っていたのだけども、そのあと俺は謎の掃除ロッカー登校を果たしたんだっけ?
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺はユイのその寝ぼけた顔を眺めて、疑問符を大量に生み出した。
「「えええええええええええええええええええ」」
それは今までの眼鏡でブチ壊しにしてきていたスタイルと露わになった顔を合わせると――ユキや姫城さんほどの派手さはないが、断定出来る美少女だった。
茶色の短髪で小さく綺麗にまとまった顔の、美少女だった。
「……ん?」
状況の分からないユイは寝ぼけた表情のまま首を傾げた。
正直な感想、可愛かった。
以前のことや今のことをを踏まえて、考えてみればユイは寝起きや疲れにかなり弱いらしい。
――だがしかし、そんな発見を忘却できるほどに、ユイの素顔はインパクトがあったのだった。




