第365話 √3-17 気になる彼女は○○○で×××で。
√1/2/a-OVA3と√3-0bのホニさん視点
「お帰りなさい!」
ええと、ホニです。こうしてユウジさんとミナさんとユイを出迎えています。
見るユウジさんは疲れているけれど、どこかすっきりとした表情をしていました。
「(ユウジさん頑張ってたもんね)」
ユウジさんが走る姿は……どうしても思い出してしまうもので。
体育祭、我も参加したことを覚えてる。パン食い競争に二人三脚――
「(――少し前まではユウジさんの隣には私がいたんだよね)」
ユウジさんの隣には今回はユイがいて、少し羨ましく思ってしまった。
そう、我はもうユウジさんの隣にいることは出来ない。それは分かっていたことで――
「(我がそう望んだんだから)」
* *
我にとっては、ここにきてから三回目の季節。ううん、本当はもっと有ったけれど”進むことが無かった”んだよね。
我がユウジさんの隣にいた冬までの季節、ユイがユウジさんの隣にいた春までの季節、そして今はこうして三回目の季節を迎えることになった――はずだったのに。
ニ〇十一年三月三十一日
桐から話された”巻き戻るはずの世界”が巻き戻らなかった。
桐が言うには、小さな時の中で時間が繰り返されているという。そしてその要因が我が生まれたゲームであるとも聞いた。
何かのせいでユウジさんが病気にかかり、時が止まってしまった――桐はそう言った。
そんな時に、我の記憶を忘れないようにしてくれた。ユミジが現れて、それからユミジはユウジさんにも原因があると言った。
そしてユウジさんは今、夢をみていて。夢の中では”進むはずの無い世界”の続きが描かれていると言い、その夢をみせてくれた。
そこには我がいなくなったあとのヨーコの姿もあって、ヨーコが元気そうでよかった……きっとこれはもしもだから、本当に続いているならこうなるんだろうな、と我は思う。
そんな過去を見た時で引っかかることがあった。我が”色々な”事実を知ったのは我が経験した一回目の季節の時で、その前の我……マイとユウジさんが付き合う世界での我と、二回目の季節の我は消えることがなかった。
それなのに”進むはずの無い世界の続き”に我はいなかった。ヨーコがその前の我と二回目の季節では出てこないのにヨーコはいて、そして我はヨーコの中にはいなかった。
『……ヨーコとホニが同時に存在しておらぬ!』
そしてユミジが話したことと、それまでのことを考えて。
桐はいけない、何故かと言えばユウジさんの夢の中に既に桐がいるから。それでさっきの引っ掛かりとユミジと桐の言っていることで――
「我が行けば、ユウジさんは助かるの?」
ユウジさんの夢の中も我がいないということは、我が入ることが出来るのかもしれない。
それでユミジは、それは危険な事だと。我もユウジさんも取り返しのつかない事態になるかもしれない。
でも、我は決まってる。
「……我に何か出来ることがあるなら、なんでもするよ。我は――ユウジさんに何度も救われたんだから!」
心に決めていた。どれだけたくさんユウジさんに助けられ、色々な大切なモノを貰った……感謝では返しきれないほどに。
だから、もし。ユウジさんを助けられる時がきたら、我は迷わない。
それからユミジと桐が準備をしてくれて――そして我の心はなぜか静かだった。
怖くなんてなくて、躊躇もなくて、我が出来るならそれでいい。そう思っていた。
『……これもユウジが気づいていれば成功することじゃな』
この条件のことも話してくれた。ユウジさんが我がいないことに気付いてくれることが必要だと、
「大丈夫だよ、きっとユウジさんは気付いてくれる――我を覚えててくれるよ」
だって、我の大好きなユウジさんだから。
根拠も説得力もなにもなくて、それでも我は自信に満ちていた。
あのユウジさんが、何度も道を切り開いたユウジさんが……ここで躓くわけがない。
そしてユミジに色々を説明を受けて、
「わかった」
我は答える。何が起るのか全く分からない、でもユウジさんの夢の中だから――大丈夫。
「ホニ、ユウジを頼む!」
桐とホニさんに頼まれるけど、これは我の意思でもあるのだから。
ここでユウジさんは立ち止まってちゃいけない。
「行ってくるよ――ユウジさん、待っててね」
我は飛んだ。ユウジさんの夢の中へと。
* *
「ここは……」
自分の部屋だった。けれど少し様子が変わって、どこか可愛い装飾が増えている気がする。
「(そっか、ヨーコの部屋になってるんだ)」
ここの世界に我はいないはずだから、きっとそうなのだろう。
来てくれるのかな? そんな不安は微塵にもなくて、そして足音は近付いて、扉が開けられる。
「ホニさんっ!」
扉を開けたユウジさんは、我と過ごしたことを知っているユウジさんだった。
顔つきで、纏う空気で、そして直感で。
「っ……あ、ユウジさん?」
驚いて、その事実に涙が出そうになって、必死でこらえて。平静を装うにようにそう名前を呼んだ。
その後ろにはヨーコがいて、驚いているのが見ていて分かる。
「あのね、ユウジさん」
「ああ、ホニさんもしかして――」
桐に渡されたワクチンの使い方。それは言葉。
我がここにいて、我が知っていることを現す言葉――
「我は覚えてるよ?」
そして何かが壊れていって、色がなくなってヨーコも動きがなくなって。色と動きを持つのがユウジさんと我だけになって――
「我は覚えてるんだ、知ってるんだ……ユウジさんが戦った日々も、ユイと付き合い始めたことも――ユウジさん、もう目を覚ましてよ」
思いだして、思い出にふけって閉じこもっちゃダメだから。我のことを覚えているのは嬉しいけれど、これは嘘だから。
ユウジさんはここで立ち止まるべきじゃない。
ユウジさんには本当なら休んでほしかった。
我が望んだことだけど、時を繰り返すことは思った以上に辛かった。
かつてあったことがなくなって、我だけが逆に取り残されるような。
だからきっとユウジさんも気づかぬうちに、無理してた。
「ねえ、ユウジさん。我のとのことは忘れちゃっていい、恋人同士になんかなれなくてもいい――でも言わせてね、ただユウジさんの傍に我がいることを許してほしい。そして進んで、ユウジさんは主人公なんだから」
でもユウジさんは――我たちの主人公だから。
「ユウジさんが主人公で、我たちがヒロインで」
そんなユウジさんと一緒に過ごす我たちはきっと幸せ。
「今までの物語は、きっと誰かの掌の上なんだと思う」
でも繰り返されて、なかったことにされて、決まった時間しか幸せを掴めない主人公とヒロイン。
理不尽なこの世界はきっと、誰かの思うとおりなのかもしれない。
「それでもユウジさんは思うままにやり直して! ここで立ち止まらないで、進んでっ!」
進まなくちゃいけないんだよ、ユウジさんは――我たちヒロインの主人公なのだから。




