第356話 √3-8 気になる彼女は○○○で×××で。
六月一日
それは生徒会室を訪れた放課後のこと。いつものように「こんにちわー」と戸を開け入っていった。
「ああ、シモノ」
正面で生徒会室の入口を見据えるように座っている会長が、俺の名前を呼び。
なんですか、と返答する前に――
「体育祭でシモノが実況やって」
……と、などと言いやがったのだ。このロリ会長は。
「はい? 実況? ”体育祭”なんてゲームありましたっけ?」
「ないよ! まるっきし現実のお話だよ! 今度の体育祭でのアナウンサーをやってほしいんだよ」
「アナウンサーね……って、ええ!? 無理ですよ、そんな無茶ぶりは!」
「シモノはツッコミの今までのキレといい、それなりに通る声と適任だと思うんだけどなー」
「いや、そんなこと言われましても。一年に任せる仕事じゃないですって」
「――って、いってももう決定済みだけどね!」
「このロリ会長はなんてことを!」
「なんでロリ付けたし! いいじゃんいいじゃん、イイ思い出になるよ」
「黒歴史化が予定枠ですよ……てか、会長はそういうの好きなんじゃないですか? なんで一年に譲るようなことを」
「……去年やったら、チサと先生に叱られた」
「…………」
すると、イマジネーションを働かせる。
グダグダ過ぎるアナウンスに、観覧に来たお客や生徒の苦笑する姿が目に浮かぶ。
そして途中で、なぜかフィードアウトして、急きょ代役が立てられるもグダグダには違いない――というような光景が。
「あぁ……」
「悟られた!? なにをシモノは思ったのよ!」
「……わかりました。でもN○Kバリは無理なんでtv○クオリティならいいですよ」
「公営放送からUHF地方局への変わりようって凄まじいと思うんだけど!? そして関東ネタだっ」
「噛みます、滑ります、逃げます(予定)」
「二つはともかく、最後はダメっ!」
「……わかりました。でも後悔しないでくださいね……ふふふふ」
「なんか今日のシモノのキャラが変過ぎて、気付いたらツッコミが私になってる!」
ということでアナウンサーを任されました。
なんてーか、無茶ぶりが過ぎるけども会長がやるよりはマシだろう。
ちなみに他の一年を巻き込んでもしょうがないので、俺が体育祭のノリを背負うとしよう。
「あっ、解説にユイを付けるよ」
「い、いらねえ」
完全にユイの独壇場になりそうに思えて仕方ない。さ、さすがに自重してくれるとは思うけども。
* *
書類作業をしていると、バタバタと誰かが駆けてきた。
「失礼しますの会長大変です!」
「繋げすぎだろ!?」
もはや急ぎ過ぎて、句読点も接続詞もほぼ省略された物言いに思わず俺はツッコミを入れた。
ちなみにやってきたのは男子生徒で上履きの学年色を見るに、同学年だろう。
「えーと、体育祭委員の一年三組の○○君ね。何かあった?」
会長は普通に、体育祭委員の生徒の名前を覚えていた。
元になったキャラはどことなく抜けてるし、こっちも抜けてると思ったら、有る程度はしっかりしてるっぽい。
「校庭に爆弾が!」
「「えええええええええええ」」
驚くしかない。そして、みんな「ねえええええええええええええよ」と思っているに違いない。
とりあえずこの学校はいつから物騒になったんだ。ちょっとヤバ目な空気のファンクラブがあるぐらいで、至って普通だったはず。
「本当なんです! 地ならしをしていたら、何か埋まっていて、少し掘り出してみたら――」
「爆弾があったの?」
「はい! 爆弾というより、なぜあるのかわかりません!」
「というより……?」
「マリオ○ラザーズのジャンプ台っぽいものが」
「「著作権的意味での爆弾だ!」」
お、おう。確かに爆弾であるな。ダイナマイトとかTNTとかプラスチック爆弾とかが思いついたけど、それはあくまで表現の範疇だったかー。
「ジャンプ台……えーと、空も飛べるはずね!」
「夢を濡らした涙が海原へ流れても、危険です」
「(この委員出来るっ!)」
俺はこの体育祭委員の会長への切り返しに素質を感じた。
「でもジャンプ台って言っても、あれでしょ? 飛び箱の前のバイーンバイーンぐらいじゃない?」
「……アスちゃん、踏切板だと思うわ」
今まで出来てたのに、分からないからと言ってなぜ表現をそれにしたし。
俺や他の役員と共にツッコミを入れる以外は沈黙を決め込んでいたチサさんがフォローをした。
「そーそー、踏切板ね。で、どれぐらい飛ぶの?」
それは試した人がいるのを踏まえての聞き方じゃ? まあ危ないのは確かだな、突然足の動きが変わるから危な――
「三メートルぐらい飛びます」
「「ガチで危ない!」」
なんでマリ○の世界観完全再現してるんだよ。
そしてマリ○が超人的なだけで、あんな風に飛んだら足の骨とか色々殺すわ。てか下手すりゃ死ぬわ。
「そしてこだわりのドット絵仕様です」
こだわり過ぎだ!
観覧する客向けなのか、なんというオッサンホイホイ!
「その他にも、ブロックの付いた旗が」
確実にその旗に乗ったら花火が空へとあがる気がする!
「と、とにかく向かおう! うん、みんな、いこ!」
「「はい」」
謎展開すぎてイミフなのだが、何か異常事態が起きているらしい。
そしてこれが始まりを告げる、ある一要素だったことに気付くのは――そう遠くない話だった。




