第346話 √3-0a
普通に√3が始まるかと思った? 俺だよ!
……一応予告もしていましたけど、平和すぎる√aの異常性についての解説っぽいもの
以下時間設定。√aシナリオ、十月の中旬。
* *
「集まって貰ったのは他でもないのじゃ」
「って、我とホニだけだけどね……」
桐のどことなく質素な部屋に集まるのはロリっ子担当こと桐とホニ。
桐はというと、いつものテンションとは違った。以前にホニに真実を話したときのような真剣味がある。
「……この世界に大変なことが起きておる」
「えーっと……何が起っているの?」
ホニは分からない様子で首を傾げる。
「ユウジとユイが交際を始めたじゃろう?」
「っ……! そ、そうだったよね」
表情が硬直して、明らかな動揺をしながらホニは答えた。
「それがかなりわしにとって不愉快なのは確かじゃ――しかし、今はそれを抑えておくとしようかの」
「!」
ホニは桐がユウジを好きなのを知っていて、その嫉妬を抑えてまで離す事柄が――どれだけ重大なことなのか容易に想像できる。
「この……世界のこと?」
「うむ」
一言でそう答えるが、桐は顔を渋くする。
「ユイとユウジの付き合うまでの過程がそっくりなのじゃ……ルリキャベの一部シナリオと」
付き合うまでの過程。春の肝試しに生徒会も、夏の肝試しに――
「え、ルリキャベってのは我達の元になったゲームで……ということは、ユイはヒロイン!?」
以前に自分の存在を正体を知ったホニさんは直ぐに理解した。
桐の言う事が本当ならば、同じシナリオを進めたということは、ヒロインの可能性があるのだと。
「しかしそれは間違いじゃ。少なくとも、ユイはヒロインでない。ヒロインは既に一人を覗いてユウジと接触が有り、決定しておる。ユイは間違いなくユウジと友人関係にあった人物じゃ」
「それじゃ……なんで」
「ホニ、覚えておるか? 四月に刻が戻ったことを」
強制リセット。四月のある日、ユウジの妹ことミユが「はーとふる☆でいずっ!」のゲームを起動したことで「はーとふる☆でいずっ!」が現実に展開された上で、時間の四月一日へのリセットが実行された。
「覚えてるよ。我は本来なら神石で過ごしている時期なのに、我はユウジさんの家に居て」
「そうじゃ――あの時に、ユウジ達の現実とルリキャベというギャルゲーが混ざった世界観に、違うゲームが更に混ざったということじゃ。そしてそれもおそらくギャルゲーじゃろう」
「ぎゃるげーって……我達みたいに女の子の出るゲームだよな」
「そうじゃ。そしてわしらが出ていたゲームの”ルリキャベ”のヒロインに、わしらに直接関係はない”違うゲーム”のヒロインが入ってきたことになるが――現状、ユウジの周りに新たに増えた人物は殆どない。考えられるとしたら……ユイが違うゲームのヒロインに書き換えられた、ということじゃ」
つまりはユイに「はーとふる☆でいずっ!」のヒロインの誰かの設定に書き換えられたということ。
「で、でも! ユイは何も変わってないよ! そんな、他のヒロインになったようには見えないよ……?」
ユイは本当に変わっていない。性格もそれまでのものを踏襲していれば、違和感がそれほどはなかった。
「ヒロインになったことには変わりない――しかし、その”違うゲーム”のヒロインがユイに類似していたら、どうなる?」
「違和感がないように、合わせたってことなの?」
「それにな……わしは、色々と口外するには規制が働いたのじゃが。ホニの前では例外のようじゃ、それでルリキャベのヒロインはの――」
桐はホニの耳元で、あることを耳打ちする。聞いているホニさんの顔が青ざめて行く。
「……それじゃ、まるで……我たちは」
「掌の上なんじゃろうな」
「それで、ユイは書きかえられたとして……ユイだけなのかな?」
「そうなのじゃ。ユイだけとは限らぬ、ユウジの周りにいる”女子”という共通項がある以上はのう」
「……どう、なっちゃうの?」
「予測不可能じゃな……ルリキャベと違うゲームが混ざったことで、また何かが起ることも考えられるからの」
「…………」
要約すれば。
ユウジ達のいた現実に「ルリキャベ」のシナリオやキャラクター設定がスライドしたいたのが√2までとすると、√aには、更に「はーとふる☆でいずっ!」が混ざったことになる。
端々としたことしか聞こえなかったけども、この世界でヒロインになれるのは”ユウジの周りにいること”で、そうしてまずはユイが「はーとふる☆でいずっ!」のヒロインに書き換えられた
しかしユイに変わりは無く、ヒロインにユイのキャラが合わせた訳ではなく……ヒロインがユイのキャラに合わせたということも考えられる。
更に「ルリキャベ」のシナリオがユイの√では踏襲されていて、それじゃ「はーとふる☆でいずっ!」のシナリオは? ということにもなる。
「はーとふる☆でいずっ!」混ざり合ったことで”現実”と”ゲーム”のバランスが崩れた、と考えられるのが妥当かと。
――ユイが「ルリキャベ」の流れでユウジと付き合うのは異常ということでもある。
そして先程までが十月の中旬のこと。
時は流れ、年度が変わる直前の春のこと。
* *
二〇一一年
三月三十一日
二十三時五十九分
以前と同じように桐の部屋にホニさんが来ていた。
「ホニ……マズいことになった」
「何が起ったの?」
それは深夜のことで、もうすぐ零時に近づいていてもいてホニさんには睡魔が迫る。
「バグが生まれて、世界がリセット出来ないのじゃ」
*月#%日?時
零時を迎え世界は――止まり、やり直される。
零時引く三十分。
二〇一一年
三月三十一日
二十三時三〇分
何かの異変を感じ取ったホニは辺りを見渡し、目覚まし時計を持った桐に話しかける。
「えっ、えっ……何が?」
桐はというと、時計を持って震える。
「何かが……ユウジの中で起っておる!」




