第345話 √1/2/a-OVA3 ミツドモエなラブバトル!(終)
オチ
以上回想。
「……だったな」
「そーそー」
思い起こして、ポケットをまさぐり携帯を取り出して手の平に載せる。
「あのときのっ」
「当分は付けるかな」
ヨーコが気付き、俺が意図したのはヨーコのヘアピンとお揃いの桜の花びらを模したストラップ。
俺の携帯にはそれがぶら下がり、桜も散り始めた四月の中旬の今でもこうして付けていた。
「でも私は付けなーい」
嬉しそうにそっぽを向くヨーコ、これは何かのフリなのだろう。
「……一応聞くけど、なんで?」
「あれはユウとのデート用だからっ! 期待してます」
あぁ……そういうことか。
「前向きにな」
「断言してくれてもいーじゃん!」
「(しかし……)」
思い出してみれば、三者三様と言わんばかりに三股してる上にイチャイチャしてんだな……あの頃の俺は、どうかしてんじゃねえかな?
……でも不思議だ。三人への好意はあれど、今はかなり冷静だ。あそこまでのバカップルはプレイバックするだけで赤面ものなのだが――普通に彼女らに接っすることが出来すぎている。
「(ん……?)」
感じたそれは、違和感。急激に頭の中で過ごした日々が重なってゆく、そして俺は気付いた。
「(タイミングが揃って……!?)」
記憶通りに解釈してしまうなら、俺は交互にマイやユイにヨーコと二人で過ごす日々が──
「(無茶が過ぎるっ)」
マイやユイやヨーコと思いだしたこと以外にも、色々な出来事がある。
しかしそうなると、明らかに重複してしまう時間が出来てしまうのだ。
「(その頃俺はどうしていた? 俺が何人もいない限りでは)」
ドッペルゲンガー? でもこうして三人との記憶もある。
しかし矛盾する行動と時間――
「悪い、ヨーコ電話掛ける」
「え、うん?」
俺は携帯を開くと電話帳を覗いた。そこには登録された友人達の連絡先が載っている。
「(誰にする……?)」
ユキには……聞く内容が悪過ぎる。委員長は接点がない、愛坂や生徒会メンバーにはただ遊ばれる。
じゃあ――怒りは買うだろうが。
「……出てくれっ」
『もしもし』
「マサヒロか? 俺だ、ユウジだ」
『あっ、ユウジ! お前に言いたかったことがあんだよ! 女の子を侍らせてるのは冗談のつもりだったが、股かけてるとか冗談じゃねーぞ!』
なんてイイ奴だ。俺が聞こうとしたことをここまでベラベラと。
「悪い、俺って今どんな印象だ?」
『学園の華ことマイさんにも手を出し! 悪友関係とおも思われたユイにも手を出し、終いには妹もとか噂されてんぞ! 一言で言えば最悪だっ!』
……まあ、そうなるわな。
『てか聞いて初めてしったけどよ! ユイとは十月、マイさんとは十一月に付き合い始めてんだって!? 二人はいいのかよ、そんなこと……して?』
急に言葉を詰まらせるマサヒロ。
「どうした?」
『いや……ん? でも、そんな素振りは見てないしな……いや、それでもお前とマイさんが仲良くなって、ユイが仲良くなって……んんん?』
動揺しているような、思い返して何かの矛盾点を見つけたかのような――リアクション。
「マサヒロ、一つ聞く。俺は文化祭の時に何してた?」
『痴ほう症の前触れか? そんなの――生徒会? いや、カレー当番? んん……確か怪我で――待て、ちょっと待て! 意味が分からん! てか、有り得ないだろうよ!』
「わかった、すまん、ありがとな」
俺は混乱し始めたマサヒロの電話を切った。
「(俺が何人もいたことには違いないみたいだ)」
夢でも何でもない。俺がそれぞれしたことは、確かに存在する出来事だったのだ。
生徒会のせいで文化祭はユイと走りまわされた。とカレー当番は、ホニさんといっしょにしていた。怪我したのは旧マイファンクラブとの闘争の結果だ
「(ただ、今こうして俺は一人)」
もしかして俺は、それぞれ別の世界でマイとユイと……ヨーコとも付き合っていた?
AとBとCのの世界が有って、Aの世界ではマイと過ごし、Bの世界では戦い、そしてヨーコを残してホニさんがいなくなった。Cの世界ではユイと生徒会に奔走し、付き合い始めた。
「(待てよ……?)」
ホニさんが消えてしまうのはBの世界だけ。AとCの世界ではホニさんは居続けていた。ということは――
「ヨーコ、ホニさん知らないかっ?」
「ユウ、ホニさんはまだだよ。でもきっと──あれ? 私がまだ引きこもって……そこにはホニさんは居て──」
「ヨーコの中に、ホニさんはいないか?」
「…………いないよ。でも、私は、本当は!」
ホニさんがヨーコの中にいない。記憶が統合されたのも分かるが、ホニさんが消えた世界と消えない世界が混じったらどうなる?
「(数ならばホニさんがいなくならない世界が勝っているはず)」
それで、どうしてヨーコの中にホニさんがいない?
考えてみろ――パソコンで「新しいフォルダ」を保存しようとして、重複したらどうなる?
保存を諦めるか、上書きか、それとも名前を変えて保存のどちらかだ。
「(考えられる可能性としたら――)」
それは重複。つまりはヨーコと別にホニさんがいる可能性。
俺はその時に瞬時に立ちあがって駆け出していた――それで俺は目指した。今ではヨーコの部屋で、かつてはホニさんが使っていた部屋を。
「ホニさんっ!」
扉をばたぁんと開けると――
「っ……あ、ユウジさん?」
ホニさんが居た。
「ユウ、どうして急に駆けだしたり……え、私? いや……もしかしてホニさんか?」
「うん、我だよ」
にっこりとそう微笑むのだ。ヨーコと同じ容姿なのに、その笑い方は――ホニさんのものだ。
「あのね、ユウジさん」
「ああ、ホニさんもしかして――」
言いかけた。でもホニさんの方が速かった。
「我は覚えてるよ?」
その時何かが壊れる音がした。
――世界の色が失われていく、色づく世界がモノクロの写真のように変わって行く。そうして時は進むのを止める。
「ヨーコ!? どうした、なんで止まってるんだ!?」
更にはヨーコが石像になったかのように固まり色を失った。
しかし見渡すと俺とホニさんだけが動けて、色も元のままだった。
「我は覚えてるんだ、知ってるんだ……ユウジさんが戦った日々も、ユイと付き合い始めたことも」
どこか悲しそうに、呟くように。
「ホニさんは一体どの世界の……」
言い終えて、何を言っているのか分からないことに気付く。それは俺の推測の中のイメージで、通じないはずで。
「我は、ユウジさんと付き合っていた世界。我が消えちゃって、ヨーコちゃんとユウジさんがいる世界――それから我は全部覚えてるんだよ」
ホニさんはマサヒロと何か違った、今挙げたことは俺の言うBとCの世界だけなのだ。
「ユウジさん、もう目を覚ましてよ」
何かが突き刺さったかのような頭に、強い痛みを覚える。
「この我がユウジさんと会えるのはこの妄想の箱庭だけ、前になんか進ませない、偽りの季節、もしもの世界なんだよ」
これが……妄想?
「でも、今までのことはっ!」
「全部本当にあったことだよ。でもね、今こうして三人と付き合っている世界は偽物なんだよ?」
思い当たることがある。整合性の取れない記憶や、俺のような人間が三股なんてする勇気がないことも。
「ユウジさんも疲れたよね? 同じお話をぐるぐるぐる。でも――進ませないとだめなんだよ」
包みこむような柔らかいもの言いに懐かしさを覚える一方で、頭の痛みは増していく。
「ねえ、ユウジさん。我のとのことは忘れちゃっていい、恋人同士になんかなれなくてもいい――でも言わせてね、ただユウジさんの傍に我がいることを許してほしい。そして進んで、ユウジさんは主人公なんだから」
主人公という単語が衝撃だった。そうだ、俺は主人公だったのだ。最初の頃こそ覚えているが、次第に時が進むうちにその自覚がなくなっていって――
「ユウジさんが主人公で、我たちがヒロインで。今までの物語は、きっと誰かの掌の上なんだと思う。それでもユウジさんは思うままにやり直して! ここで立ち止まらないで、進んでっ!」
「っ!?」
ホニさん言葉を聞いた途端に痛みが引き、視界が黒く染まってゆく。
ホニさんの必死に訴えかけてくれた顔を最後に、俺は闇の中へと落ちて行く。
主……人公。
掌の……上で。
やり直す?
俺は、立ち止まっていたのか? こうして”もしも”の夢をみて、進んだ季節の妄想をして。
わかったよ、ホニさん。ありがとう、ホニさん。優しいホニさんは、厳しくも優しい言葉で俺の背中を押してくれたんだね。
ああ、俺はこれからも主人公で居続けるよ――
全てを進ませる為に。
* *
「もしもユウジが止まることを願い、現状で”世界を凍らせる”ことを望んだら」
これはそんな四つ目のユウジの”イフ”の話。
OVA編。ただの番外編かと思ったら大間違いですよ? 都合のよいことばかりではないものです。次回からは√aの続きですが√3の始まりです。この世界の本当の異変とは? 乞うご期待ですー




