第343話 √2-OVA2 ユウジ×ヨーコ
ヨーコアフターでもあるけれども、この√ではもういなくなってしまったホニさんのことも時折
「お待たせユウ、待った?」
ヨーコらしくしおらしい感じで覗きこむように聞いてきたが、俺はそんなのお構いなしだ。
「待った」
「もー、そういう時は、嘘でも違うっていうもんだよ」
「てー、言われてもな……」
家の前で三十分待たされるってどうなんだ? 俺が自主的でもなんでもなく、ヨーコに家の前でと指定されたのだ。
それで半時間待たされたとあっては、家の中でもう少しゆっくりできたじゃないかと思ってしまう。
「それで……その格好と」
「ま、迷ったんだから仕方ないじゃん」
……迷った挙句のセーラー服。恐ろしく似合ってくることには違いないが、本人自称のデートに着て行くものなのかと。
「じゃあ、行くか?」
「うんっ、私にオマカセっ!」
「で、商店街なあ」
「まず一つのポイントだよ」
「一つって、目的地がいくつかあるのか?」
「まあね、とりあえずデートデート♪」
そう言って二人歩いて行く、そういえば二人で出掛ける機会ってのはなかったな。
姉貴や桐が一緒にいることは有れど、ヨーコと二人きりというのは初めてだろう。
俺は至って地味な私服で、隣には女子中学生――変な勘違いとかされないといいけども。
何か話題を切りだすとするか……
「そういやヨーコ、髪伸びてきたな」
「そう? あー、そうかも。でも、当分はいいかな、今は切りたくない。どこまで伸ばせるかもやってみたいし」
もともと床につきそうだったのが、今では括りあげてやっと。
だから今は持ち前の髪も束ねても凄まじく長いポニーテールになっている。
「髪洗うの大変だろうに」
「まーそうだけどね……って、今想像したでしょ。私の髪洗うとこ」
すると適度に距離を取って威嚇するように言ってくる。
大丈夫だ、ヨーコの入浴シーンなんぞ想像したら――引っかかるからな。
「ぢゅらぁんって貞子状態にはなりそうだな、と」
「ぢゅらぁん? い、言いにくいし……本当にそれだけ?」
「ああ」
「そ、そう……」
そう答えると距離こそ戻すものの、元気がなくなった。
正直どうやっても怒るか落胆の二択しかなくないか?
「でも、切らなくてもいいと俺も思うぞ? ポニーテール好きだし」
「ええっ、そうなの!? ああ、そうなんだ……ふーん」
今度は微笑みやがる。なんという百面相というか、表情に飽きないな。
ホニさんも笑顔とか驚愕とかのバリエーションが多かったけども、ヨーコとはだいぶ違う気がする。
そうだな……ヨーコはミユっぽいかもしれん。
「……今他の女の子を考えてた?」
「まあ否定はしない」
「だ、誰?」
「妹のミユ」
「ああ、妹ね……って誰!?」
「話してなかったけか? ああ、ミユはな――」
何故かこの家に居るのに、教えるのを忘れている。
俺の家のもう一人の同居人で、俺の妹ことミユだ。
ここ一年顔見てないし、どうしてるんだろうなあ……と同じ屋根の下とは言え思う。
それ程に、交流は断絶してると言っていい。
「そう……なんだ」
「まあ、そういうこって。まだ学校に行ってた頃のミユに似ててさ」
「ふぅん……」
台詞こそ興味なさげにも聞こえてしまいそうだが、ヨーコの聞く際の目は真剣だった。
妹の話題はここで止め、今度はヨーコから話を切りだす。
「たまに買い物に来てるけど、毎日何か違うよね」
「この商店街はとにかく活気に満ち溢れてるからな、日によって人の種類も違うんだろ」
「ミナ姉にもユウにも買い物する日を指定されたりするけど、あれって特売日とか?」
「そそ、その折にヨーコに頼んでるわけだ」
「なるほどねー」
ヨーコは居候させて貰っているという自覚はしっかりあるらしく、家事に熱心だった。
ホニさんのように直ぐ覚えてちゃちゃとは出来ないが、着実に出来るようになってきているのも事実だ。
「……てか本当にいいのか? 商店街歩いてるだけだぞ?」
「いいの、私が来たかったんだから文句言わない」
「文句じゃねえって、もっと遊べるとこの方が良かったんじゃないかって」
「ううん、こうしていつも歩いているところや、歩いていたところを再確認したいんだよ」
「……んー?」
言っている意味がイマイチ分からないな。
「そうだ、じゃあこれでよくないっ!」
「ええっ、ここにきて!?」
「歩く場所はここでいいけど、問題は……これじゃただの兄妹のお出かけっぽくなっちゃうこと」
逆に兄妹のお出かけっぽくない風にするにはどうすればいいのかと。
「それで?」
「て、手を繋ごう」
……それも変わらなくないか? 兄妹でも小さい頃は普通に手を繋ぐぞ。
まあ、ミユには小学校の高学年ぐらいには拒否られたけど。じゃあ、繋ぐか。
「はい」
「っ……い、いきなり繋がないでよっ!」
はたかれるように手が離された。なんか理不尽じゃないか?
「どうすりゃ、いいんだよ……」
「私から繋ぐから……うん、ちょっとまって、呼吸整えるから」
ヨーコ落ちつきないのなあ……でも桐ほどはイラってこないんだよな。桐は口調も大分影響してるんだろう。
「……じゃあ、はい」
「ああ」
またもや小さな手が俺の手の中に収まる。
「……どした? (歩き方が)ぎこちないぞ」
「な、なんでもないよ」
声も震えていれば顔も赤くなっている。
「恥ずかしいのなら止めればいいのに」
「だ、だめ! これは譲れないんだから」
顔真っ赤にしてジト目で見られても怖くもなんともない、逆に。
「可愛いなお前」
「なっ……いきなり何言うのさ!?」
「いやー、いつもと以上に表情豊かで見てて楽しいし、可愛いな、と」
「す、ストレートに言うよね、ユウって……」
まあ、その照れ表情見たさに狙ったんだけどな。今回ばかりは。




