第341話 √1-OVA3 バカップルクッキング!
またコレ
「さてっと」
脱衣所の扉を閉めて、洗面台に汚れた服を投げ込む。
見事に腹部まで染みたオレンジジュースは柑橘特有の香りこそするものの、放置していいわけがない。
と、いうことでシャワーを浴びようと思っていたのだが――
「(はっ)」
な、なんで俺は入浴してるんだ?
シャワーだけ浴びるはずだったのに、流れるような仕草で蓋をしていた風呂を追い焚きしてシャワーが終わると同時に入浴していた。
な、何をいっているかわからねーと思うが、事実そうだった。
「慣れってヤツか……」
もはやその一面の動作が慣れ過ぎて、その行動をしたという記憶もないという。
「マイが来てるってのに俺は何をのんびりと……」
……あーでも風呂気持ちいいわ。長風呂っぽい俺はぬるめのお湯にまったりと浸かる。いつの間にか半時間過ぎてることも常だ。
「…………ふぅ」
落ちつくなあ。
少し声の籠る浴室の中で一人呟いていると、ふに扉越しにある声が聞こえ、擦りガラスの浴室の扉に人のシルエットが映る。
時折桐が来るからな……またか? アイツは凝りな――
『ユウジ様』
マイだった。よく見ればシルエットの大きさからして桐とは思えない。
いやだからといって、マイはスラリとしていてモデルも逆立ちしても勝てないようなスタイルをしているのは分かっているし、胸部がとっても豊かなのも――いや、そんなことはどうでもいいだろう!
「マ、マイ!? なんで、ここに?」
『来ちゃいました』
「来ちゃいましたって……あ、長くなってスマン。もう少しで上がるからさ」
『いいんですよ、ゆっくりでいいんですよ』
「そう? じゃあお言葉に――」
甘えて、あとほんの少しと言おうとしたところだった。
『私も失礼しますね』
まさか過ぎる展開だった。
「え」
おいおい失礼する? この状況でそれは現在絶賛入浴中の浴室に入って来るという解釈しか出来ないよな?
いやいやいや! なぜに!? それに俺が現在一糸纏わない姿(全裸)なのに対して入って来るマイの格好は?
そういえば見えるシルエットが妙に体のラインが現れている――まさかな。流石に裸なわけないよな、おめでたい俺の頭でもそれぐらい分かるさ。
それでも替えの服はないだろうし……
「(下着か……?)」
おい、まて。それ以前になぜにマイが浴室に入って来――
ガチャリ、浴室のドアノブを回す音が聞こえた。
いや、俺は心の準備が――
「…………ユウジ様」
そこには女神がいた。
「……え、マイ。それって……」
ひた隠しにしているけども、どうにも好き過ぎる――
「学生水着です……似合ってないでしょうか?」
もう俺は首がネジ切れるんじゃないかと言う程に首を横に振る。
そりゃもう、マイの学生水着……もといスクール水着姿は素晴らしいに他ならないものだった。
もともと体のラインが露骨に出てしまうスクール水着は、機能的であるものの野暮ったい印象になりがちだ。
着こなせるのは相当に体がスレンダーである必要がある……と、俺は思っている。
マイの場合は制服や体操服からは読みとれないウエストの細さと、ヒップは引き締まっているもののほど良い大きさで、胸はスクール水着は上半身全体を覆いがちながらも谷間が見えるほどの豊かさだ。
足のつけ根から伸びる、抱き枕にしたら至高なんじゃないかというほどの絶妙な大きさの腿といい全体的にスラリと伸びる肢体といい――
「(神様、ありがとう)」
* *
「へくち」
「ホニ、風邪か?」
「ううん、違うとおもう」
「……それでホニは見えるかの?」
「ううん……入っちゃってからは全然見えないや」
「わしの能力は一枚の壁を透かすことしか出来ないからの……くそぉ!」
「き、桐? 今日は何か変だよ?」
* *
「それで、マイはなんで入ってきたんだ?」
「ユウジ様のお体を汚してしましましたから……体をお洗いしようかと」
あー……責任感じさせちゃったか。
「いいよ、もう汚れは落ちちゃったし」
「落ちてしまったのですか……」
え、なんか凄い落胆されてる。
「あ、あー……さっき言い忘れたけど、マイのスクール水着姿。すっごく似合ってるぞ」
「ほ、本当ですか!? 良かったです……以前ユウジ様がお好きだと聞いていたので」
あ、覚えててくれたのか。いや、覚えてしまってたか。
「でも、変じゃないか? こんな地味な水着が好きな俺って」
「逆に私からお聞きしたいのです。本当に私にこの水着が似合っているのですか?」
「それは勿論! というかすっごい嬉しい! あ、いや! きっとマイならどんな服も水着も似合うと思うぞ、うん!」
「……ユウジ様に喜んで頂けるなら、私はどんな格好でも出来まるから、なんなりと言ってください」
「お、おう」
もう俺はマイのスク水姿見れただけで成仏しそうだけどな。
「……それで、もう上がってしまうのですか?」
「ああ、マイとの料理も途中だしな……だから、悪いけどさ、その」
これじゃ出れないんすよ。俺は今浴槽にいるから隠せているわけで。
「だから、浴室を出てくれな――」
「……すみません。ユウジ様、私はこれだけじゃダメなんです」
「え?」
「ユウジ様と同じくお風呂を共にするまでは……!」
「あの、マイさん? 何を言っているか分かってます」
「分かってます、ユウジ様との混浴です」
「いや、そうだけど! この風呂はそこまで広くないぞ!」
「体と体を密着させれば大丈夫なはすです!」
「それがマズいって」
「……失礼します!」
「失礼しないでえ! ……のわっ」
俺は緊急事態だと悟り、近くにかかっている綺麗なタオルをブン取りお湯へと沈め、俺の見せらられない部位を隠した。
その次の瞬間にはスクール水着姿のマイが入ってきて……一メートルないであろう目の前にマイの顔が近づく。
「……すみません」
「あ、ああ」
水を浴びたことで肌にぺったりと水着がくっつき、各所にシワが出来、色が濃くなることでマイのスクール水着姿はよりいっそう艶やかさを増す。
よく色気マンガの主人公が鼻血を出す場面を見るが、これに至っては感動のあまり俺は吐血しそうだ。
「ユウジ様と今までで一番近くにいます」
「そう……だな」
近すぎ。
てかさ、こういうのって相当に恥ずかしいと思うんだが。
「マイは……そのさ、こんなことして恥ずかしくないのか?」
言い方がかなり失礼な気がする。溺れろ、俺。
「……恥ずかしくないわけないですよ」
「っ」
すると俺の手をマイは取り、自分の左胸へと押し寄せた。
「ちょ!」
「……分かりますか?」
その手には、八百万の神に感謝したいほどの絶妙な柔らかさと弾力と温かさをもつ手の平から溢れる豊かな胸があった。
以前にもマイの胸に手を埋める(埋められた)ことがあったが、あくまで制服越しで、ここまで殆ど直の感触とは全く異なる。
しかしその感触と別に、何かが伝わってくる。
それは鼓動。
「……想い切りましたが、緊張してるんですよ? 本当にドキドキです」
「……ああ」
マイだけじゃないぞ。
「恥ずかしいですけど、ユウジ様には見て貰いたかったんです――この私の体を」
「…………」
以前にマイは自分の背中の傷がトラウマで、そのことで俺とマイは離れてしまった。
でも俺はそれを、醜いとも思わない。汚らしいとも思わない。たとえどんな姿でも、どんな傷があっても――俺が好きになったマイだ。
今はこうして、俺の手を胸へと押しつけながらもほんの少し赤みがかった顔を俯けている。大胆な行動も挙動もするけれど、マイは結局は至って純情で普通の女の子なのだ。
「綺麗だよ」
「……これじゃだめ、です。全部見せますから」
俺の手を抑えつける左手とは別の手を動かし、水着の肩紐部分に指を滑り込ませて摘まむ。
そしてそれを肩から腕に落としていく。
「――――」
俺はその様にくぎ付けで、するすると右腕を滑って行く。
これは、スクール水着の脱げる動作の初歩で。それをマイは自覚があってやっていることだ。
そうか、マイは本当に俺に見てほしいんだ――
「そこまでぇっ!」
その時、浴室の扉がばぁんと開かれ、怒り心頭とも言えるべき姉貴が息を荒げながら顔を出す。
姉貴は友人と買い物に行っていたはずで――
「ユウくん、マイちゃん――上がりなさい」
マイが水着を着直し、姉貴の方へとぐいと体を向けた。
いままでにない気迫で、史上最大の怒りで。俺とマイは浴室を出らざるを得なかった。
そのあとこっぴどく叱られたのは言うまでも無い。
俺のことを溺愛する一方で姉でもある、姉貴はその不純な行動を説教した。
俺もマイもただ身を縮めこめて聞くことしか出来ないわけで。
「――ということだから、ユウくんがお姉ちゃんと入ってくれるなら許してあげる」
「ふざけんな」
やってること同じじゃねーか!
と俺は反撃ののろしを挙げる。大体姉貴は、いつもいつも――
「でも、昔は一緒に」
「今は違います」
「お姉ちゃんは変わってないよ!」
「ああ、悪い意味でな!」
説教返しが終わる頃には俺と姉貴双方疲れてしまっていた。
「ごめんなさい、ユウジ様」
「いやマイのせいじゃ……」
ない、か?
「ユウジ様にどうしても見て貰いたかったんです」
俺が好きな水着の姿と自分の体を、と続けた。
「また、今度ですね」
舌を出して悪戯っ子っぽく言うマイに呆然とする。
え、その意味って――
「ユウジ様、試食会再開しましょう?」
「あ、ああ」
これからもそんな感じでマイと俺の日々は続いて行く。
そしてこれは幸せな春の手前のある日こと。




