第340話 √1-OVA2 バカップルクッキング!
まさかの
桐じゃ。このような独白はえらい久しぶりな気がするのう。
わしが出てきたのはほかでもない。
ユウジが女を連れ込みおった。
それも散々に警告したストーカー女ときておる。まったくもって不愉快じゃ!
それに登場当初よりもオーラが明るくなってるの、何か不服じゃ! この世はなんと不条理なものなのかのう!
……見ているだけでふつふつと怒りが沸き上がるのが分かってしまうのう。
しかしわしは一応妹キャラで通しておるからの……非常に不機嫌じゃが演技はせねばならぬからな。
「お、お兄ちゃんのお友達?」
いつもの笑顔じゃ。スマァーイルッ!
「ああ、俺の彼女」
淡々と言う事ではないであろう!?
「ああ、これ? スーパーで安かったから」みたいなノリで彼女を見せ付けられる幼女の身にもなってみるがいい!
「へ、へぇ……ユウジお兄ちゃんの彼女さんなんだぁ」
だ、だめじゃ桐。笑顔じゃ、笑顔じゃぞ。コビコビスマァーイルッ!
「ユウジ様からお話は聞いてます……よろしくね、桐ちゃん。ユウジ様とお付き合いさせて頂いている姫城舞です」
こんな幼女相手にそんなどこに出しても恥ずかしくないような礼儀を見せるんじゃない!
「ここが……ユウジ様のお家」
「これで数回目だろ?」
「そうですが来る度、私は新鮮な気持ちなんですよ?」
かぁー、微妙にバカップルっぽくなってきやが……きて! ムカつくんじゃわ。
「じゃあ、上がってくれ」
「お邪魔します」
衝動的に腕を広げてマイを制止した上で生死をさまよわせ……イカンイカン。笑顔じゃ笑顔じゃ、営業スマァーイル零円っ!
「ご、ごゆっくり」
わしは二人が居間の扉を開き入って行ったところを確認すると。
「はぁ~~~~~~~~~」
この可愛いわしから幸せが数年分は逃げて行きそうなほどに、長く盛大な溜息をついた。
この溜息の長さは幼女とは思えない肺活量に違いないじゃろう。
「あれ、桐? どうしたの」
壁に手をついて人生の苦味を噛みしめていると、まさにウケの良さそうな明るく利口で可愛く、ちょっと天然なキャラのホニが現れる。
その明るさは、わしには時折眩しく見えてしまうのう。
「あー……ユウジが彼女を連れて来てのう」
「ユウジさんに女が!?」
「……その言い方はどうなんじゃろうか。間違ってないがの、ホニは一体どこで覚えたのじゃ?」
「昼ドラ! 最近やってる”極楽温泉若女将”で知ったんだよー」
「ホニは昼ドラが好きじゃな」
「うん! 我は昼に誰が見ているのかも分からないドロドロした昼ドラが大好きなんだ」
「……ホニよ、キャラ変わってないかの?」
「うん? でもそっかー、ユウジさんに彼女さんかー」
「そうなんじゃよ……それで今は、台所で料理してるようじゃな」
「そっかー……桐、見に行かない? 我も色々料理のレパートリー増やしたいんだよ!」
う……なんという正当すぎる理由じゃ。ホニはすっかりこの一年で家事マスターしたからの。
わしもやるべきなのじゃろうが……やらないことも一種のステータスなのじゃ!
「……わしも考えとったぞ。行くかの」
「うん!」
しかしホニも溶け込んだものじゃ。わしのげーむの良き相手にもなってくれる……こら、桐は連戦連敗などと横やりを入れるな!
と、いうことで台所へと向かったのじゃが――
爆発すればいいんじゃないかの?
二人台所に立つじゃとっ! 聞いておらん、人の家に土足で……靴は脱いでおるな。靴下で入りこんで、ここまでイチャイチャするなどと!
見せつけおって、何の恨みがあってこんな惨いことをわしにするのじゃ! わしが何かしたか?
ユウジの部屋に毎日侵入したり、ユウジの入浴中に侵入したり、ユウジのパソコンに監視用ウイルスを侵入させたり――
「(忍び込んでばかりじゃ!?)」
ユウジの寝込みに侵入して頬に接吻したり、ユウジの腹の上でごろごろしたり、ユウジと同じ布団に入ってユウジの寝顔を凝視したのも――
「(変態ちっくじゃ!?)」
まて、わしは変態ではない。もし変態だとしても変態と言うなの淑――
「(桐っ! 桐!)」
せめて言わせてくれんかの!?
「(なんじゃ、ホニ)」
「(幸せそうだね……)」
「(う、うむ)」
テンプレートも真っ青な幸福オーラに愕然じゃのう。
じゃがわしは嫉妬の炎で即席麺一食分のお湯が沸かせそうな気分じゃ。
「(我はユウジさんの笑顔を見てるのが一番好きだな……)」
…………否定氏はしない。
あやつは妙に嬉しそうな顔をするかの、時折優しいしの。スパイスのかけ加減が絶妙なのが憎いのう……
「!」
「(どうしたの、桐?)」
今、スパイスと発言した時に何か人の顔が浮かんだのじゃが……気のせいじゃな。
いくらライターが付けた余計な設定で”辛い物好き”とあったヒロインでも、ここまで来ないじゃろう。
「(くんくん……これは肉じゃがかな? 美味しそうな匂いだねー)」
「(ホニは和食全般上手いじゃろうに……むう、確かにいいにおいじゃ)」
食欲をそそられるのう。
目の前にはエプロン姿で小皿に少量の肉じゃがの具が載せられ、それ箸でつまんでマイは口へと運ぶ。
『……うん、美味しい』
『マイ出来たのか? ……味見していい?』
『もちろんですよ』
「「(!)」」
その時わしとホニは見逃さなかった。マイの使った箸をそのまま持ち、
『あーんです』
『あーん』
ユウジの口へと。
「(桐! あーん、だよ! すごい、新婚さんさながらだね!)」
「(……ユ、ユウジ)」
「(ユウジさん?)」
あやつ、何の躊躇もなく受け入れおった!
ま、まさか慣れておるのか!? わしの攻略データは、重要なイベント以外は無いせいで、こんなこんな――こちらの方が重要であろうが!?
い、意味がわからぬ! 取捨選択で、これは重要なシーンじゃろうに!
「(ま、まさか)」
恒常的過ぎて、もはやイベントでもなんでもないと!
「(……目眩がしそうじゃ)」
「(この新婚さんっぷりは、目眩がしそうなぐらいに微笑ましいねー)」
あー……ここまでいちゃいちゃ振りを見せられると、わしの猛アタックがひどく虚しく思えてくるの。
そして募る怒り。なんでわしは、アレ以上にアピールしたのにここまで差があるのかのう?
なにか、歳か? わしがこんなに可愛らしいロリっ子じゃからいけないと申すのかの?
それとも何か、やっぱり胸か! マイはヒロインでも最大級の巨乳じゃからのう!
性的変態ユウジ! わしだって……脱いだら凄いんじゃぞ!
「(……規制がっ)」
「(さっきから桐はどうしたの? 気分でも悪いの?)」
「(な、なんでもないのじゃ。ただ今はこうして黙っていられるわしの辛抱強さに感動しておるところじゃ)」
「黙って……? 辛抱?」
?マークを浮かべるホニはどうでもいい!
『ユウジ様、口元についてますよ』
『お』
『……ここです』
……説明するのにもブチ切れそうじゃ。
つまりは、ユウジの口元についていた肉じゃがのカスを自分の口へと運んだのじゃ――マイは!
「(わぁ……ベタだね。でも、なんかいいなあ)」
「(よ……よくない……よくないのじゃあ!)」
「(き、桐?)」
わしの怒りで今年は暖房要らずじゃな! ……怒ったのじゃ! ブチ切れじゃ!
見せつけおって――わしの二十ぐらいの能力の一つ”サイコキネシス”じゃ!
『きゃっ!』
『うおっ!?』
近くにあったオレンジジュースをマイにかけてやろうと思ったら……手が滑ってユウジに。
透けユウジ、なんかエロ……くはないぞ! け、結果オーライじゃ! どちらにも怒りを感じておったからの。
『ごめんなさい、肘が当たったかもしれません』
くっー! お主の肘は掠りもしておらぬわ! この今すぐ嫁に言っても文句のつけどころの無い嫁さんが!
『別にいいぞ……でも、結構染みたな。悪いマイ、ちょっとシャワー浴びてくるわ』
『は、はい』
……まぁ、こうなるがの。
するとマイはガスを止め、辺りを見渡すと、台所から動く――
「(隠れるぞ)」
「(う、うん)」
わしとホニはマイから見えない位置に移動する。
『……』
すると持ってきた鞄を取り出し、そこから出てくるのは――
「(ス……!?)」
いや、なんでアレを持っておるのじゃ!?
それはこの時期にそぐわないばかりか、持ち運びなど殆どしないものじゃぞ!
『……♪』
ユウジを、追ったじゃと!?
マイが”それ”を持っては居間から退室し――
「まさか……のう」
「彼女さん何処行ったんだろうね? ……桐?」
それは、色々と――おかしいじゃろう!
「っ!」
更によく見れば残された鞄からは――よく汚れが落ちると巷で話題の洗剤や、漂白剤が覗いていた。
もしや、もしや! もともとマイはこのような状況を画策していた……じゃと!?
「あ、あやつは黒いぞ! 何がどこに出ても、嫁に出してもじゃ!」
真っ黒じゃ! とんだヤンデレさんじゃっ!
「……あぅ、なんか今日の桐は変だ」
続いちゃうそうな。




