第339話 √1-OVA1 バカップルクッキング!
マイアフターです。ダイジェスト√1-99辺りの試食会が番外編ですー
ラブレター事件。前時代的でも手書きに勝るものはないんだよ、とユキにも熱弁された気がする。
あの後も呪いの手紙とラブレターは続いて……何故か今でもたまに下駄箱に入っているものだから関心してしまう。
「色々あったもんだ」
「そうだな、もう五カ月になる。ア、アタシ的には……その後にあった出来事の方が――」
何かユイが言いだそうとしたところでチャイムが鳴り、
「も、戻るぬ!」
と、言い残して去って行った。まあ授業だしな。
放課後を迎え、いつも通りに生徒会に出向し、辺りが暗くなった辺りでお開き。
そうして帰る道すがら。
「(少し商店街寄ってくか)」
欲しいコミックが入荷しているかも、と家への足取りとは反対に、校門を出ると商店街方面へと向かった。
「(相変わらず活気あるのなあ)」
商店街の様子は俺が来た時と変わらない。地方というのにこのシャッターを下ろした店舗の少なさはテレビで見るシャッター街の現状を見せられてもピンと来ないほどだ。
この町唯一の商業区画で、それなりの人口とそれなりに若者もいるという、少子化とは無縁とも思える光景である。
そして商店街を抜けた、すぐ近くにこの町唯一で品揃えは太鼓判の本屋へと向かう。
「(そういやマイとのデートも商店街廻ったっけ)」
色々な所縁のある場所を廻って、二人過ごしたあの日を思い出す。
そんな風に思い出に耽りながら道を歩いていると、
「ユウジ様?」
目の前には買い物袋を提げて、俺の名前を呼ぶマイの姿があった――
「ユウジ様もお買い物ですか?」
「ん? そーだな」
コミック物色も立派なショッピングだ。
「マイのそれは夕食か?」
「はい。今日は食事当番ですから」
そうやって、買い物袋を持ち上げてアピールする。
「マイ、覚えてるか? 新レシピ試食会のこと」
「勿論です。楽しかったですね……また今度しませんか?」
「いいねえ、マイの肉じゃが美味しかったし」
「それでは新レシピではないですよ」
クスリと笑う彼女は、可愛らしくつい見惚れてしまう。
「ユウジ様……?」
「な、なんでもないぞ。でも、俺はマイの肉じゃが美味しくてさ……それでも俺が作るとなんか違うんだよなあ」
「新レシピ試食会とは別に、肉じゃが御馳走会開きましょう」
「なんだそれ」
談笑しながら少しの道のりを歩いて行く。
そういや、あのときは――
* *
「ユウジ様、あーんです」
「え、ああ……あーん」
ちなみに学校のお昼時の光景である。
清々しいデレモードに突入したマイとは、こんな風に人目もはばからずバカップルだった。
「あのさユウジ……そういうの見せ付けるならここは止めてくれる?」
ショートカットにした髪も少し伸びてセミショートまでになったユキが、不機嫌そうにそう言った。
「ユキさん、見せ付けてなんかないですって……あ、ユウジ様口元に」
「おお、さんきゅ」
「…………」
ユキがこめかみをピクピクとさせる様子が傍からも分かる。
怒ったユキは怖い。だからといって止めてというと「お嫌いになったのですか」と半分からかいに行ってくるので八方塞がりだ。
まあ、これも恥ずかしいがまったくもって嫌ではないので。続行したいのはやまやまだが――
「あ、マイ。じゃあ移動しようぜ」
「え、移動ですか? ユウジ様がおっしゃるなら良いのですけど……」
そうして弁当を一度片付け、席を立つ。
「(すまん)」
とユキに心の中で謝りつつも、俺たちは教室を後にした。
まあ、それからが大変なわけで。
食べるスペースがあんまりないという。
屋上に行けば、
「な、なんだよ! ここは私の場所だカップルでくんな!」
と何故か屋上に一人いた福島が怒りながら追い出し、学食に行けば、
「……混み過ぎだな、他にしよう」
「はい」
生徒会室でこっそり食べようとすれば、
「カップルはだめ!」
と会長が何故か昼時なのに居て怒られ、外に出てもベンチは埋まっている。
陰謀さえ感じさせる程にだ。
「……ユウジ様、どうしましょうか?」
「時間は……まだあるし――」
そこで思い出す。そういえば学校の隣には公園があって、本当に間近な距離だったはず。
「マイが良ければ隣の公園に行こう」
「公園ですか……懐かしいですね。ユウジ様との初めてのデート場所ですよね?」
「ああ、だな」
まあ、それも狙ったんだけどな。
「行きましょう、ユウジ様っ」
そうして俺たちは上履きのまま校門を出て、公園へと向かった。
その公園は、相も変わらず人気がない。
なんの遊具もない殺風景な公園は、この春先ではほんのり暖かい。
「ここにしましょう」
と言ってベンチを陣取り、そして再開。
「あーんです」
「ごちそーさんでした」
「おそまつさまです」
弁当の風呂敷を包みなおしながら嬉しそうにマイは言ってくる。
「今日も弁当ありがとうな」
「いえいえ。ユウジ様のことを想ってつくるお弁当も楽しいですし、こうして一緒に食べられるのがなによりも嬉しいですから」
「じゃあ、明日は俺が作るな」
「期待してます」
「いや……プレッシャーっすよマイさん」
「いいじゃないですか、ユウジ様お料理上手なんですから」
「そうでもないだろ……」
マイの毎回手の込んだ色とりどりのお弁当を見せられたは、こっちのレパートリーの少なさが惨いことになる。
すると風呂敷包みの弁当箱を自分の横に置いてから、改まるように
「あ、あのユウジ様」
「ん?」
ほんの少し、緊張しているようにも思える。
「ユウジ様のお宅にお邪魔しても……よろしいでしょうか?」
「え」
まさかマイの方から来るとは。いやあ、やっぱり嬉しいね。彼女が家に来てくれるってのは。
「……そうだ」
「?」
「一緒に新レシピ試食会てのはどう? マイの料理勉強したいし、俺も教えられるレシピあったら勿論教えられるし」
「一石二鳥ですね。もちろんですっ! ということは……お邪魔しても?」
「もちろんだ、じゃあ……次の休日ってのはどうだ?」
「は、はいっ!」
隣にみるマイはご機嫌で、見ているこっちも笑顔になってしまうのだった。
そうして今度の休日にマイが俺の家へと訪れる。




