第002~003話R 1-2 プロローグのプロローグ
R版差し替え
四月二十一日朝
「ユウジー! おはよー!」
窓の外から、俺の部屋目がけて俺の名前を呼んでいる。
しかしその声の主に心当たりがない俺としては、状況がいまいち飲み込めない。
「誰……なんだ?」
声だけなら相当可愛い……その声の主がどんな容姿をしているのか気になってしまうほどに。
とりあえず百聞は一見にしかず、見てみるか……と俺は窓に歩み寄ると、カーテンを慎重にめくっていく。
「っ……」
カーテンから覗いて見えたのは――藍浜高校の制服を着た女子だった。
少しだけ栗色がかった髪色でピンクのヘアゴムで束ねたポニーテール、少しだけおでこが見える前髪などが活発そうな印象を強くする。
パッチリとした透き通った大きな目に、背丈も高すぎず小さすぎず、一瞬で見えたスタイルに関しても女の子らしいもので――総じていれば美少女に違いなかった。
それはまるで理想のような女の子、ゲームから出てきてもおかしくないような。
そんな俺の名前を呼ぶ女子が超可愛いんだけど……なにこれどういう状況?
やっぱり状況が飲み込めない。
ただ俺は、しばらく忘れていた感情を思い出すのだ。
とあるキッカケで俺は意識することをやめていた、諦めていた、出来るだけ目を逸らすようにしていた、異性と言う存在を――現実における女の子というものを。
だから一瞬でも俺は思ってしまう、この子と付き合えたら俺は幸せ者だろうか、と。
「いやいやいや」
何を考えてるんだ、それじゃまるで一目惚れみたいじゃないかと自分を諭す。
落ち着け……とりあえず今の状況を整理しろ……見知らぬ美少女に名前呼ばれる、それも自宅前で一緒に登校しようとする佇まいで、だ。
「とりあえず……」
身支度しよう。
どういう訳か女の子を待たせてしまっているらしい、もっともユウジという名前で呼ばれて出てみれば「あ、違うユウジっていう人なんですけど」と言われた日には引きこもりまっしぐらなのだが。
それでも”俺はどうやら彼女と登校”すべきな気がするのだ。
しかし何か引っかかる、彼女の容姿をどこかで見たような気がするのだ。
とはいってもそれは俺の見知った人物ではなく……テレビで見たとかそんな具合なのだろうか。
そう考えつつも俺は制服に着替えて学校鞄を持ち部屋を出ようとしたのだ
「痛っ」
カツ、と何かプラスチック製のような固いものに足がぶつかり足先にちょっとした痛みが走る。
そしてぶつかったものはといえば地面を滑り、少し目線を移した先に留まって落ちていた。
そのぶつかったものに文句でも言ってやろうと思い――なんともゴチャゴチャと絵が描かれているソフトケースを拾い上げる。
「……基本片付けてるはずなんだがな」
整理整頓そこそこ好きな俺が何か物を落としたままにするだろうかと、不思議に思いながらケースを手拾い上げる。
しかしそのケースのパッケージを見た時、俺の脳に電流が走ったかのような衝撃が走った――
「っ!」
そのパッケージに描かれていたのは、透き通る大きな目に、ゴムでまとめた黒髪のポニーテール、額が少しだけ覗いた前髪がチャームポイントで。
そして現実とは違って、派手派手ピンク色のセーラー服を着た女の子。
「……え?」
そのパッケージの子は窓の外に居た、俺の名前を呼ぶ女子と瓜二つの容姿だったのだ。
「い」
一体どういうことなのかと、脳内で思考が渋滞を起こす。
ゲームのパッケージに描かれたキャラクターと同じ容姿の女の子が俺の部屋の窓から外には居る。
そしてさっきは俺の名前を呼んでいたのだ、今でこそ呼ぶのをやめたがまた窓越しに覗くと塀に寄りかかって待っているのが見える。
……これなんてギャルゲ?
……まさにこれは男の夢の実現だが、どうしてこうなった。
もしやこれは夢の延長線上なのか?
それとも愛に飢えた俺が見た幻か……そもそも今までのが本当に現実と言えるのか。
断言出来るのか? 否、出来ない。
もしかしたら俺は空想世界の住民で、今まではあまりに平凡であまりに並みの生活を送っていたのも自分がゲームやマンガで言う主人公ではなく友人A的立ち位置で――
「まあ……いいか」
短絡的な俺はそんな細かいことは放り投げ、部屋を出る。
誰もいない居間のテーブルに置かれた「手抜きでごめんね」と書かれた姉貴のメモをちらり見て、心の中でいただきます&ありがとうとお礼を言ってからハムエッグの手作りサンドイッチをくわえる。
玄関へと辿りついて靴を履き替えると、俺は玄関戸を勢いよく開けた。
「あー、遅いよユウジー」
そこには天使がいた。
窓越しで見るよりも、というかゲームのパッケージの何割増しで可愛いと思う。
そんな彼女は一瞬花開くかのようなぱぁっとした笑顔を見せるが、今度は不思議そうな表情をしてそう言った。
「ユウジ、何でユキの顔じろじろ見てるの? 何か付いてる?」
顔をぺたぺたと不安げに触り始める彼女、そんな仕草ですら可愛く思えてしまう……いよいよ俺の幻覚も重症か。
しかし夢かはたまた幻想か分からないが、彼女はユキというのか……いい名前だ。
全女子高生が羨むような白い肌と、身長も程良く俺の顔分ほど小さく、それでいて出るところが出て引き締まるところは引きしまる俺の眼から見れるスタイルは抜群で、大きくくりっとした茶色の瞳のある小さな顔に、長い栗色の髪をキュッと束ねたポニーテールが表情豊かで活発な彼女にはよく似合う。
でもって、首を傾げる描写まで花がある……正直好きです!
「いや、なんでもない(棒)」
いかん、大根役者も鼻で笑う棒演技になってしまった。
演技だと考えず、自然に……そう、俺が知らなかっただけでこんな幼馴染が実はいた的な。
俺の名前を呼んで、登校前に待ち合わせする関係性から、親しい間柄と見ていいだろう――例えば幼馴染のような。
忘れてしまった本当の幼なじみとの会話のピースを手繰り寄せながら、彼女に話の雰囲気を合わせることを試みる。
「待たせて悪かったなユキ、いやぁ目覚ましがストライキしててさ」
「単にセットし忘れてただけだよね、二つなかったっけ?」
「さらに一つは電池切れだった」
「もー、ちゃんと確認しといてよ?」
「へぇーい」
なんだこのリア充的一連は、こんな可愛い女子と気さくに話せる時代がきたとは……俺は嬉しくて涙が出そうだ。
夢ならもっと見ていたい、あの華やかさも欠片もない現実には戻りたくない――それは半分冗談として。
「あっこんな時間」
ユキは制服のポケットから取り出したガラケーに表示された時計機能を確認して呟いた。
俺が待たせたことで登校時間的には結構ギリギリになってしまったらしい、こういうとこがダメなんだぜ俺。
「急ごうっ、ユウジ!」
「あ、ああ」
それにしても――女子と駆ける通学路。
前には――フリフリ揺れるポニーテール。
これはもしや――人生で一番のピークでは?
『しかし、そんな時間は長くは続かなかったのじゃ』
そう、誰かが呟いた。
通学路に居た誰かだろうか、それにしては幼い声で、喋り方も変だった。
何かの聞き間違いだろうと結論付けて、俺はその声を気にも留めることはなかったのだ。
「ユキっ早いから」
「ユウジが遅いんだよー♪」
こちらを振り向いてべぇーと舌を出しながら指を目もとにあてて言う彼女、そんな挙動ですら可愛らしいのは反則だろう。
まさに彼氏彼女か、やたら仲の良い男女の幼なじみがするようなじゃれ合いの一種。
マンガで見たような「まって~、捕まえてごらんなさ~い」という構図……はっ、やっぱりこれは夢なのでは!?
そう、夢ならどんなに良かったかと思うのだ。
「っ! ユキ! 前っ前!」
「え」
次の瞬間鈍く耳をつんざく様なタイヤのゴムがアスファルトで滑って削れ擦れる音。
けたたましく鳴り続けるクラクションと聞き辛いブレーキ音。
「…………」
何が今起こったのか、理解するのには数十秒かかったと思う。
だから俺の初動はまったくもって遅れた、かといって素早く動けたとしても――無意味に違いなかったが。
それはあまりにも衝撃で、あまりに突然で、あまりに残酷だった。
「っ!」
余所見をしながら俺に目を向かわせながら走っていたユキは交差点へと差し掛かった。
しかしその同じ交差点へは車が向かっていたのだ、車道側にミラーの設置が無く見通しの悪い場所だったのも確かだった。
そして次の瞬間、ユキがはねられた。
傍から見ればユキが飛び出して行った、そして車は勢いよくユキに衝突した。
だがそれはあくまでも法を犯さない制限速度程度であり、きっと時速二、三十キロほどなのだろう、
それでも、見通しの悪い交差点で一時停止をしない車側に問題があることは目撃者の証言から分かることだろう。
そんな冷静に考えるよりも、誰かが悪いかを探すよりも、ともかく人と走行中の車が接触したらどうなるかを想像してみれば。
その車にユキは弾き飛ばされ、その華奢な体は宙を舞った――
固いざらざらとしたアスファルトの地面へと、衝撃とともに叩きつけられたユキの体は大きく歪む。
白いセーラー服が皮肉にも染み出る血の多さ示し、アスファルトに着実に流れ出る鮮血と口元からも血がしたたり落ちる。
あまりの出来事の前に、俺の最初の行動はすべてにおいて遅すぎた。
「ユキ!」
俺は思わず名前を呼んでユキへと駆け寄っていた。
細い体でなくとも、その金属の塊がぶつかってくる衝撃に耐えることが出来なかったのは当然のことと思う。
「ユウジ……ユキばかだね」
「何も話すなっ!」
「ユウジともっと……話したかった。ごめん……ね」
眼は閉じ、俺の顔に近づけようとした左手は地面へ落ちた。
そしてユキの力尽きて、身体の力が抜けるようにして彼女は動かなくなった。
――それは彼女の命尽きる瞬間だった。
「ユキっ! ユキ!」
名前を呼んでも、答えは返らない。
次第に生気の抜けていくユキの体に触れながら俺の意識は堕ちていった――
「!?」
目が覚めるとそこは見慣れた自室で、俺はベッドに寝ていた。
汗をびっしょりとかき、目元には涙と思われるものが線を描いていた。
それは悪い夢から起きた直後のような感覚。
「今のは夢……だったのか?」
あまりにもリアルで、とても恐ろしく怖い夢、最高に気分が悪い。
記憶は鮮明に残っている。
今でも思い出すだけで、ユキの死に絶えて行く姿や血を溢れさせるユキの姿を思い出すと寒気と吐き気が同時に襲いかかって来る。
「ぅお……」
必死で吐き気をこらえながらベッドの下へと目を落とすと――
『Ruriiro Days』
そんなタイトルのソフトが落ちている。
「嫌な夢……だったな」
きっとあの幼馴染キャラのユキが出たのも夢の話なのだろう。
少し残念に思う反面、あんな最期を遂げるというなら出てきてほしくない気もする――気分の悪さもあるが、彼女の扱いが残酷すぎるのだ。
「ああ……」
いつまで過ぎ去った夢を思っていても仕方ない、俺はベッドから足を下ろし腰を上げる――
しかし、窓の外から声が聞こえてしまったのだ。
「ユウジー遅刻するよー」
「!?」
あのさっき息絶えたばかり彼女の身体に結びつく――声が。
もしかしてさっきのは夢、じゃないのか!?
でもユキはあの時――
『お主よ。その訳を知りたいか?』
その時声が聞こえた。
「え?」
ふいに部屋へと響く声。
それは小学生の女の子のような高い声だが、喋り方が少し変だった。
まるでイタズラに老婆のマネをする少女のような――
「誰かいるのか!?」
『わしじゃ。ほら、すぐ近くにおるじゃろう?』
「え」
声の主へと目を向けると、パソコン机の前にその声の持ち主がいる。
「おはよう、主人公」
目の前には幼児体型な、茶と栗色の中間色の髪を左右でツインテールに結った幼女が仁王立ちしていた。