第329話 √a-29 彼女は彼に気付かれない
シリアスかと思った? 残念っ!
「えと……はい?」
「だから、お前のせいでいーちゃん傷ついたんだからな?」
どうもユイだ。なぜか見知らぬ女子勢に囲まれて、アタシのせいでいーちゃんが傷ついたんだと言ってきた。
その中のつり目の女子生徒が続ける。
「あなたの存在のおかげで……いーちゃんは心の傷を!」
「あの、いーちゃんって誰?」
次にはモロお穣さまですよ的なキャラが出てきた。
「いーちゃんさんを知らないとは……本当にこの学校の生徒ですの?」
さん付けしてるけど、いーちゃんって名前なの? イーチャン? 外国の方?
「いぐっちゃんはですわね……」
「あのー、呼び方変わってますよ」
「お黙りなさい! ともかくあなたがいぐっちさんの片思いの相手である下之ユウジの近くにいるせいで!」
「ちょっとまって……ユウジ?」
「ええ、そうですわ。ちなみに下之ユウジ様の隠れファンも兼ねてますわ」
「ユウジの……ファン?」
それと少し前までただのフルネームだったのに……今は様付け?
「殆どの生徒が成れないという生徒会役員な上に、顔立ちも悪くなく、それでいてお姉さんはあの下之副会長!」
「あー……そうなんだ」
「当初こそストーカー行為をゼロナンバーと行っていましたが、今は遠目に見守っていますのよ! しかしゼロナンバーは今では下之ユウジ様の近くにポジションを確保出来るとは……流石一年ツートップの片方とも言えますわね。しかしゼロナンバーも一度好き過ぎて殺しに――」
ユウジってモテるんだ……本人は全く自覚ないようだけども。
アタシが知り合ったのは去年だけども、なんというか複雑だ。こうもやもやーっとした気持ちになるのはなんでなんだろうな?
てかさっきからゼロナンバーってなに!?
「それに下之ユウジ様は中学校時代にいぐっちゃんを救っておられるのですよ」
「ユウジがいぐっちゃんを救う……?」
少なくとも、ユウジとの一年間はただただ過ごして来ただけなんだがなあ。
「しかし下之ユウジ様はあの事件のショックで――おっとこれは隠れファンでもシングルナンバーしか知らないことですね」
何桁あるんだよ!
「……しかし今は、いーちゃんファンクラブメンバーとしての働きですわ。巳原ユイ! あなたのせいでいーちゃんは下之ユウジに振られてしまったのです」
いーちゃんの話題に移ったからユウジの様付けは止めるのね、なんというか律儀というか――って、えええええええええええ。
ユウジにいーちゃんとやらが告白!? それもユウジはフッただって!
「ど、どゆことだ……ユウジがだなんて」
「ええ、そしてその要因はあなたなのですわ!」
「え、え? アタシ?」
「下之ユウジは最近、長身の眼鏡女子生徒と仲が良いといーちゃん情報が、いーちゃんの友人兼ファンクラブメンバーのシングルナンバーの釣子さん(釣り目の女生徒)からメールマガジンで配信されましたの」
なんだその芸能人も真っ青な本格的ファンクラブは!
マイさんとユキが有るのは知ってたが……いーちゃんとも有るなんて。
……って、長身の眼鏡女子生徒。アタシの知る限りなら――
「アタシ?」
「そうなのですわ! 一体下之ユウジ様……下之ユウジとは一体どんな関係なのですの?」
一瞬ユウジファンクラブに戻ったな。
「いや、友人かと」
「それではあなたは下之ユウジをどう思ってますの?」
「ア、アタシ?」
ユウジは……いい友人だと思うぞ?
オタ会話も十分話せるし、面白いし、困った時は助けてくれるし、それなりに頭も切れるし、まあまあカッコいいし。
……いいヤツだよなあ、ユウジ。ただただ鈍感とヘタレっぽくなるとこが無ければ最高なんだがなあ。
「友人だよ?」
「嘘おっしゃい! 顔にかいてありますわよ……あなた恋してますね」
「嘘らっしゃい!」
「その返しの意味は分かりませんわ!」
「それで、いーちゃんとやらがフラれたのがアタシが原因だとして……どうなるんだ?」
「それは――明日を楽しみにすることですわ」
九月二十九日朝
アタシはいつのメンバーで学校へとつく。
「……うお、本当に」
机を見ると「しね!」「殺す!」とかでなく――よく分からないアートが書かれていた。
しかしその見え方が凝っていて、ある一定の方向からしか見えないというこだわりよう。
「どしたー、ユイ」
「な、なんでもないずー」
ユウジの位置からは見えていないらしい。
「作……サクヤ?」(※藍浜中学校より出張お絵かき、ただ絵をかいただけです)
なに、この”あの画伯”一歩手前のアート溢れた絵は。
黒と赤の線が交わったり、ぶつかったり、弾けたり、スパークリングしてる(?)
更に水性だから持ってきたお茶をぶっかけてティッシュで拭いたら普通に落ちた。
「机の中は……と」
そこにはパンが――腐っていない至って小奇麗に袋詰めされたパン。
「(賞味期限が昨日か)」
もしかして、そこがポイントなのか?
「あとは……」
吊るしてある教科書が入ってるビニール袋が反対側に掛け直されている。
「しょ」
しょっべえ!
なにここまでのソフト演出。何かに規制されたの? もしかしてスタッフの琴線に触れたとかそういう系!?
「(うーん……お)」
机の中を探ると、見慣れないノートが現れる。
「(えーと……)」
”これは自前で用意したノートに書かせて貰っただけですわ”
なんてーか、とことん良心的なイジメだなあオイ。
”ここから先は罵詈雑言に溢れていますわ、それでもよろしいですの?”
だからそのR指定のサイトの入場の年齢確認バリの良心的設計はなんでなのかと!
ちなみにアタシはエムっ気があるので、何を言われても大抵は快(自粛)
「(まずは……と)」
ノッポオタク。
「(お、おう)」
ノッポグルグル。
「(う、うん)」
ノッポスタイル。
「(なんかジャンル別けされてんの?)」
仮面オタク。
「仮面ねえ……」
これは、字面よりもグサっとくるもんだな。
確かに……アタシがオタクを始めたのだって、それほど自然なものでなく――狙ってやったものだからな。
「はぁ」
「(……なんかユイの奴元気ないな、どうしたんだ?)」
遠目に見ながら、ユウジはそんなことを思います。
「(井口はあの後学校に来てないみたいだし……やっぱ俺は不幸にしかさせないんじゃねえかなあ)」
なんかユウジがネガティブだと気持ち悪いですね。
しかしユウジは、体育倉庫事件辺りからずっと気にかけてるんですよね――え、誰をですって?
分からないなら、読み返してみるといいかもしれませんね。
まあこれが推理モノだったら、書くの止めちまった方がいいと思う程に稚拙ですけど。