第328話 √a-28 彼女は彼に気付かれない
軌道修正に失敗……なんというか、本当に申し訳ないです
俺は井口に告白された。
しかし俺は彼女のこと知らなさすぎた。もっと時間が経って、もう少し親しくなっていれば――そう思ってしまう。
俺が付き合って彼氏でいれる自信がない。
井口は性格はも良くて、良い子だけど……俺にはどうすることもできないのだ。
この告白を断る行為が彼女を傷つける行動なのは理解している。それでもこの一回だけで済むように、何も知らない俺が付き合ってから何度も傷つけてしまうぐらいなら――
* *
九月二十八日朝
昨日井口に呼ばれたように、学校へ来ると気の強そうなつり目の女子と三白眼ながらもどことなく普通ない印象の女子生徒が一年二組の教室の前では待っていた。
その女子達には僅かに見覚えがあった。
「おい、下之」
「なんだ?」
「鞄下ろしたら、ついてこい」
この二人は井口とよく一緒にいる女生徒二人だ。井口の性格からして正反対の彼女たちだが、仲は悪くなさそうだ。
おそらく友人な彼女たちに呼ばれた意味を理解し、俺は頷いて。
「……わかった」
いつのメンバーに少し待っててと、昨日と同じように言うと女子と共に廊下を歩いて行く。
人目のつかない空き教室の多い廊下辺りまでやってきて、立ち止まったかと思うとつり目の女子が口を開いた。
「下之、呼ばれた意味が分かるか?」
「……井口か?」
「そーだ、わかってるじゃん。で、なんで私たちが呼び出したかは分かるか?」
上から目線で、そしてどこか怒っているようにも見える。
それならば俺だって低い姿勢の必要はないだろう。
「俺が彼女の告白を断ったからだろ?」
「なにサラッと言ってんだよ! なんでだよ! いーちゃ……井口はそんなに悪い女だったか!?」
俺の返答が気に入らないのか、大きな声で彼女は怒鳴る。
「悪い子じゃないのはわかるけど……俺は彼女のことを知らないんだよ」
「はぁ!? 付き合ってから知ればいいじゃん!」
まあ、そういう考え方もあるんだろうな。だがな、
「俺はなりふり構わず付き合うつもりはないからな」
「その言い方はないと思うんだけど!」
俺は臆病なんだ。
きっと井口と付き合ったとしたら……井口は絶対に不幸になる。
「悪い、俺は何も知らない彼女と付き合って、傷つけないでいる自信がないんだよ」
「……傷つくって、自分が傷つきたくないからなんじゃないか」
その返しにはズキリと来るものがある。
まあ、そうだな。俺のせいで傷ついた人を見たくない――そういうことなんだよな。
「こんなヘタレな男よりも、もっといい人はいるだろうから――」
そう、こんな男に固執する意味なんてないだろう。
「そんなんで……そんなんで納得するわけないじゃん!」
「どうせそれも、傷つけたくないから――ってな、要らない気遣いなんだろ!」
否定は出来なかった。
「じゃあ、お前たちはなんでそんなこと俺に言うんだ? 井口がそうしてくれって言ったのか?」
「そ、それは……私たちの意思だよ!」
こいつらは本当に井口のこと気にかけてるんだな。
「少し話した程度だからうるさくは言えないけどよ、井口はそんなことされて喜ぶか?」
「…………」
「俺はクラス外での話相手がいなくてさ。だから井口と放課後時々に話せて嬉しかった」
「それなら!」
「だから……いい話相手でいてほしかった」
「……あんたの考えだけじゃん。井口のことは考えないのかよ」
「悪い、もう話しは終わりだ。とにかく俺は井口とは付き合えない――」
「ちょ、ま――」
* *
ユウジのあの返しは……どうなんでしょうねえ。
ユウジは鈍感ですから、気配り出来ずに傷つけるってことは有り得そうですね。
見切り発車のように、よりにもよって文化祭準備に途中に告白させたのが、タイミングが悪かったんじゃないですか?
あとは……そうですね。口には出さないけども、ユウジに気になる女子が居た――とか?
「下之のヤツ!」
「あんなヤツだったとはね」
「……たしかに私たちがけしかけたけどよ、付き合っている人いないし、大丈夫だと思ったのに」
「知らないからって……まあ急かし過ぎたのはあるかも」
二人冷静になりつつも、自分を省みる。
しかしそんな時、釣り目の方が気付く。
「知らないからの一点張りだったけど……もしかして好きな人がいるんじゃないか?」
「っ! あるかもね、じゃあ誰?」
「一年ツートップは……あれだけ近くにいるのに何にもないし」
まあ、アプローチはかけてないですが。据え膳ですよねえ。
「そういえばいーちゃんが言ってた。下之の教室で話してる聞いたって……確か」
「好きなタイプは気軽に話せる子だって」
「それに最近は同じ役員の眼鏡の女の子と仲がいいって言ってた」
あ、それってまさか――
「……まさか巳原か?」
やっぱりユイでしたか。
「いやいやいやあの眼鏡だぞ?」
「いやでも、もしそうだとしたら……」
「あんな奴のせいでいーちゃんフラれるとか……意味わかんねえ」
「腹たってきた……むしょうにな」
「私もだ」
「行くか?」
「だね……アイツらも黙ってないだろうし」
二人はそう言って教室を出ます。なにか嫌な予感がします。
友人の為にとはいえ、お節介の過ぎる彼女たちは――
そして翌日、ユイの机にはマジックで大きく落書きがされていました。