第327話 √a-27 彼女は彼に気付かれない
あれ、ユウジクソ主人公化し始めてね?
どうもナレーターです。お久しぶりですね、え、お前なんかどうでもいいって?
ナレーター術でサウンドオフにしてやりますよ(訳、声帯もぎ取るぞゴルァ)
さてさて前回気になる引きで終わった――え、気にならない?
ナレーター術でアフレコしますよ(訳、お前の人生をレコーディングしてやるぞウラァ)
もういい加減進めさせてくださいって。え、もうさすがにいいですよ。
でなきゃナレーター術で殺しますよ(訳、相模湾の鳥の餌にすんぞフワァ)
前々回から現れた井口とかいうモブっぽい女生徒がまさかのユウジに告白。
その経緯には――過去ログ担当ユミジ協力の元、説明させて頂きます。
* *
ここはとある学校……というか藍浜高校の教室です。そこにいる学年色を見るに一年生のようですね。
そんな中、前髪を大きく伸ばした小柄な女子生徒こと井口が、数名の女子生徒に囲まれるように座っていました。
周りを囲むのは気の強そうな女子達で、おとなしめの性格の井口が囲まれていると、何か勘違いしてしまいそうですが――この子たちは友人同士です。
「いーちゃん、どうだった?」
「……な、なにが?」
井口の”井”から来たであろう愛称が気の強そうな一人の女子生徒の口から出ました。
私も台本を見るだけでは半信半疑でしたが、どうやら本当に友人同士のようです。
「愛しの王子様との文化祭準備はどうかなって」
「お、おうじさま!? 下之君はそんなんじゃっ!」
いつもはとぎれとぎれの話し方も。今の否定ではとにかく饒舌に喋ります。
「下之ねえ……顔も悪くないし、あの生徒会に入れるぐらいだから結構なヤツだよね」
この学校の生徒会は完全に組織が出来上がっていて、内部の推薦なしでは役員になれることはない――らしいんでよね。
半分独裁っぽくなってません? どこぞの国……あ、とっても身近な国みたいですよ。
するとその女生徒の隣にいる、平凡そうな顔立ちの女生徒も口を開き、
「アイツ結構モテてるよね……篠文と姫城に愛坂とか」
「うっわあ、そのうち二人は学校の一年組みツートップじゃん……あまりに凄過ぎて嫉妬すら出来ないもんね」
「あ……そうなんだ」
「知らなかったの? 篠文はもう、どっかでモデルやってろよっていうぐらい美人で、姫城は一年であそこまでクールっぽくなれるかってぐらいの美女だね」
「……そっか」
「あとは長身の女友達もいた気がするわー」
「てか下之って副会長の弟らしいよ」
「マジで? もうなんてーか、すげえなアイツ」
「…………」
あれ、ユウジってこんなに株高かったでしたっけ?
ユウジはこう傍観してると鈍感ヘタレ野郎で……ま、まあでもマイファンクラブとの喧嘩とかマイを追いかけた時とかホニさんの時の戦いのときは、すこーしだけカッコ良かったかもしれません。
う、嘘です。やっぱ、違います。
「だ、ダイジョブだっていーちゃん! いーちゃんだってすっげえ可愛いもん」
「そうだよ、いーちゃん最近下之と話せる機会増えてるみたいだし、チャンスはあるよ」
「……でも……同じ役員の眼鏡の女の子と……仲がいいみたいだし」
「それって巳原?」
おや、ここでユイの話題が出るんですね?
「……うん、たしか」
「そりゃ女友達だよ、あの眼鏡じゃそんな関係にはなれないって」
「てかあの眼鏡、誰も言わないけど、いいのか?」
もう教師の暗黙の了解なんでしょうかね、謎すぎます。
「……女……友達。私はまだ友達にも……」
「いやいや、話せてる時点で友達だって! 下之もそう思ってるって」
「……だと、いいけど」
「そういや下之って彼女いんの?」
「学校のツートップとは話してるの見かけるぐらいで、そんな関係じゃないっぽい」
「……いない、って」
「え、いーちゃん下之に聞いたの!?」
「う、うん」
「脈ありジャン! 告白しちゃいなよ!」
「で、でも……」
「大丈夫だって、いーちゃん可愛いから」
「…………本当に、大丈夫なのかな」
「大丈夫だってば、ね、ほらいってみよ」
「え、え……今から!?」
「勝ちが決まってる試合なんだから、さっさと言っちゃお、な?」
「…………うん、わかった」
そうして告白する為にユウジの教室へと向かうわけです。
* *
掌に人の字を書きながら、昼休み時間中学校のゆっくりと廊下と歩き。
一年二組の札を見たところで、井口は息をのむ。
「あ、あの……下之君いますか?」
「下之? ……おーい、下之呼んでるぞ?」
「あ、俺? ……おー、井口じゃん。どしたの? 文化祭関係?」
ユウジはといえば、変に律儀なのでそんなことに結び付ける。
……まあ、鈍感だから分からないんでしょうね。
「ううん……ちょっと話したいことがあるの」
「俺にか?」
「うん」
「……分かった。じゃ、ちょっと俺抜けるわー」
といって昼食を終えて談笑していたいつものメンバーに向かって手を振る。
いつものメンバーはといえば、どこか怪訝そうな表情で「あの子誰だろう」といった視線を向けていました。
教室から離れて、またここです。
確かに人気はないですが、ここは何かのポイントなんですかね? ――そう、以前ユウジがマイに告白された地下倉庫前です。
「え……えと、下之君」
「ん?」
この男は……表情で汲みなさいよ!
「私と付き合ってくださいっ」
今まで出したことの無いような大きな声で、そうユウジへと告白をした。
それを受けたユウジというと。
「え……え、それって――」
聞くなんて野暮ですね。ナレーター術ではたき落としますよ(訳、特大のハエ叩きの網目でトコロテンにしてやりますよ)
「好きです……下之君が、好き……です」
それを聞いたユウジは固まります。
なんで、井口からそんなことを? いやいや、俺はそんな好かれるようなことなんてしてないって。
同姓同名の誰かじゃなくて、俺? いやいや、俺が女にモテるはずがないじゃん。超平凡――ああ、心詠を試してみましたが思った以上にイライラしますね!
でもあと少しだけ――でも、俺は井口のこと知らないんだよな。好意は嬉しいけど……あまりにも突然過ぎる。
なるほどですね……そしてユウジは顔を引き締めて、思い切りに辞儀した。
「っ」
「ごめんっ! 井口とは……付き合えないっ」
フッた……?
「そ、そうですか……」
先程までの紅潮していた井口の顔が青ざめて行くのが分かります。
「いやっ、嬉しい! 嬉しいけど……俺は井口のこと何にも知らないんだよ、だから分からないんだ」
「…………そうですよね」
「だから……さ、出来れば友達から……頼む」
「……はい……ええと、私と友達になってくれますか」
「もちろん。よろしく」
「……ありがとうございますっ」
その時みせた井口の顔は涙に濡れていながらも笑っています。
その表情をみたユウジは悪いことをしてしまった、というような顔で井口を見ていました。
しかし、翌日から井口は学校に来なくなってしまったのです。