第323話 √a-23 彼女は彼に気付かれない
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九月一日
「夏なんてすぐに去ってしまうのよ!」
そんなどんな本でも使わないような格言風なことを無い胸を張って叫んだ。
夏休み明け初めての生徒会はというと少々のカオスを孕んでいた。
未だに夏休みの空気を引きずった生徒会メンバーはといえば、
「会長、なんで浮輪……?」
「ふっふーそれはだねシモノ。これは私の信望が厚いから周り常に人常に囲まれている、ということを暗喩しているのだよっ!」
浮輪のように浮ついた会長に、荒く息を吐くロリコン共に囲まれる会長の図――うわああああああ、規制されるうううううううう!?
「今年もアツかったぜ……ふっ」
「福島は夏休み――ああ、その格好の通りか」
砂埃や土で汚れた野球部のユニフォームを着ていた。
何故か背中にはバットやテニスラケット、腰にはバレーボールとサッカーボールがネットに入ってぶら下がり、野球帽の上には水泳ゴーグルが重ねられている。
……物語るのは分かるとしても、お前その格好で学校に来たんじゃないだろうな?
「そうだっ! 見事に少年野球のウィン●ルドンに行って来たぜ!」
「なぜテニスと結びつけたのかが分からないっ」
「ついでにヨ●校潰して来た」
「それは正当かつスポーツマンシップに乗っ取った手順であることを願っておく……」
それでチサさんはといえば、いつもは妖艶な笑みを浮かべているのだが、今は邪悪が入りつつある。
「ユウ――私、やっちゃった」
「え、えと。一応お聞きしますが何を?」
「性的な意味ではなくてね、もちろん歯向かってきたから、それはもう人思いにやっちゃったわ――」
その時、声に出さなかったが。チサさんはこう続けたのだと思う――ヒ・ト・ヲ。
「…………」
オルリスは横っ面に仮面が提げられている……特に何も言わないが、お祭り楽しんだんだな。
「ユウくんの水着姿二〇一〇、ユウくんの浴衣姿二〇一〇、ユウくんの私服姿二〇一〇、ユウくんのうまれたままの姿に・せ・ん・じゅ・う……はぁあああああああああああああ」
姉貴はテーブルの上にでかでかとアルバムを置いて、ページをめくりながらそんな風なことを呟いていたが俺は五秒で忘れた。鶏の気持ちでね。
そしてユイはといえば、
「テンリたんかわええ……」
携帯を覗いては、時折ニヤッと笑みを浮かべている……うわあ。
「はぁ」
そんな中で、いたって平然を決め込む俺は。そんな光景を傍観しながら頬杖をついていた。
始業日は普通早く帰れるってーのに、この生徒会のせいで――と不満を募らせてもいる。
「今日の議題は、ふゆき服装の意見について……だよっ」
格好こそアレだが会長が一番マトモなのかもしれない。
ふゆきってそんな某宇宙人カエルマンガのオカルトマニアみたいなことになってるけども……冬季って言おうとしたんだろうなあ。
「生徒からこんな意見が出てるのよねー”マフラー付けたいって”」
「会長、それは最初から許可されているじゃないですか」
生徒手帳を見るに、特に禁止はされていない。中学生の時に見た藍浜高校の生徒もマフラーを平然と付けていた。
なぜに今頃、というかなぜにそんな要望を? イタズラなのか?
「あっ、マフラーってあのアミアミのものじゃなくて――ほらバイクとかの」
「それを冬季服装に付けてどうするんですか!?」
「こう、ブルルルンっとね」
これは寒さに震える……ってのに掛けているのだろうか。
「えー……と例えば学ランだったらどこに付けるんです?」
「違うよ? 女子生徒の要望だよ」
走り屋は女性の方でしたかー
「なんかお尻に付けて”まふらー”みたいな感じじゃないかな」
「ネコの尻尾風に付けても絶対に萌えれねえよ!」
スカートを持ち上げて、バイクに使われるような金属光沢を放つ銀色のパイプが覗いている……シュ、シュールだ。
「却下に決まってます。大体風紀が乱れるじゃないですか」
「うーん、少しマニアックすぎたかもね。じゃあ却下」
マニアックというレベルを軽く越えてるぞ、それは。
「あとはねー……”ストーカー”を許可してください」
「はい、アウトォッ!」
もう有無を言わせないからな、それは。ストーカーが生徒会で認められるってどういうことだ?
というかもう服装関係無しにただの要望っぽいものに……果てしなく歪んでるけども。
「シモノ、頭ごなしに批判はだめだよ? だからマスコミは腐っちゃったんだよ」
「会長、マスコミについては同意ですが。その結び付け方は雑すぎるかと」
「とにかくね、ストーカーって言っても画期的なものなんだよ?」
「いや、それは学校公認でストーカー出来たら画期的どころか狂気的ですから」
「シモノ、もしかして勘違いしてるでしょ? 尾行とかするストーカーだと思ってない?」
「え……いや、違うんですか?」
「自動給炭装置だよ」
「分かるかっ、そんな専門用語っ!」
「要望によると”ストーカーを木炭ストーブに付けてほしい”って」
「いやいやいや! 木炭ストーブに木炭を自動で給炭する装置を付けて下さいって言えばいいだろうに!」
「要望だとね”ストーカーっていうのは蒸気機関車で使われた自動給炭装置で、作業の効率化と簡略化を図れた凄い装置なんだよ”とのこと」
「完全にテツな方じゃねえか!」
てかこの学校って石油ストーブじゃなかったのか!?
このご時世でも未だに木炭とかすげえな……いいのか? 雪国でもなければ、平成のこの世にだぞ?
「まあ、渡された設計図は簡単そうだから話してみるねっ……と、承認」
「はぁ、いいですけど」
「それでは次のお題」
お題って言ったよね? この会長。
「”学ランもふもふもふもふもふもふもふ”」
「え、あ、はい?」
「”もーふもーふもふもーふもー♪ ふーもふもふもふーもふー♪”」
「で、電波な要望だ……」
「天才会長の私なりに解釈すると”学ランをもっと柔らかくしてください”」
「うん、今については会長凄いと思ったわ」
どっかの粒子バラマキ水色の髪をした引き籠りが布団を被って歌った結果のようなものを翻訳するとは。
もし本当ならば、ね。
「ゆ、湯煎すればいいんじゃないかな?」
「そんなチョコみたいにしたら繊維壊れるだけでしょう……構造変えてくれってことですかね」
学ランってそれなりに整ってていいんだけども、どうにも動きには向かないんだよなあ。
まあ一学生が不良に囲まれたり、能力者とバトルを繰り広げることなんてなく、勉学に勤しむだけだからそこまでの機動性は必要かほんの少し疑問ですけど。
「スカートって寒いし動きづらいんだよねー、男子が羨ましいよ」
「俺から見ても寒そうですよ」
「下着見えちゃうし、なんでスカート……いっそドレスにした方がいいと思うよ」
「それだと、更に動きづらくなるんじゃないですか?」
「大丈夫大丈夫、クジラ骨ドレスだから形は崩れないね」
「スカートを踏むことはないけど、機動性ダウン、機能性皆無!?」
「えー、だってあんな感じにふわっとしたドレスはいてみたいなあ」
「学校ではく必要はあるんですか……?」
「……ないかも、却下――ふぅー、仕事したぁー」
ああ、これで終わりなんだ。
てか議論に参加してたの、俺と会長の二人ってどういうことだ!?
「これにて今日の、生徒会終了」
「「つかれしたー」」
何もしてないのにやる気なさすぎだろう!?
……もう、思えてくるわ。俺って真面目なんだなあって、会長もそれなり――
「アスちゃん、ありがとね。じゃあ今日の会議進行のお礼」
「わーいっ、うたマロだ~」
「今日は話題を振らないでくれて、ありがとうね」
「うんっ、面倒だったけどシモノに主に方向性決めさせて終わらせた」
俺のツッコミが利用されたぁぁぁぁぁぁぁっ!
不本意ながらもいつもより早く終わった生徒会は、いつもよりけん怠さに満ちていた。
……なんか俺ってば虚しくなってきたよ。