第312話 √a-12 彼女は彼に気付かれない
原作神みぞ面白過ぎて爆死
そういうわけで生徒会だ。
と、いっても生徒会室で議論を交わすわけでも「生徒会役員」とデカデカと書かれた腕章を見せ付けながら校内を闊歩するわけでもなく昨日と同様に体育倉庫を訪れていた。
連日駆りだされてほとほとウンザリしているのだが、それでも俺は今日も体操着に着替えて来てしまっている。
「シモノー、これどこにやればいい?」
反省したのか俺とユイと共に来た会長は「重いー」と眼を><みたいな感じにして律儀に体育用具を運んでいる。
その最中のことだった。
「これはですね――って会長が分からないんですか?」
するとしまったと言わんばかりに口元を引きつらせるものの、平静を装って、
「っ、ふふ、ふ分かっているに決まってるじゃない。ほら試したの、体験版よ」
ちなみに会長は演技ベタなので平静なんて装えているわけがない。
そして案の定訳のわからないことを言い出す始末。困った時の会長の常套句といううか、なんというか。
「あの、会長意味が分からないっす」
「私にかかればzipフォルダも数秒足らずで解凍よ!」
「……それはパソコンの性能のおかげかと、って何の意味があるんですか!?」
といってよくお世話になるパーソナルコンピュータを擁護しておく。
「うう……じゃあrar.」
「誰も拡張子変えろなんて言ってませんよ……で、分かるんですよね?」
「――ここね」
「あ、そこはハードルが置いてある場所です」
「……と、見せかけてからの」
もしかして会長は面倒のあまり時間稼ぎをしているだけなんじゃないかと思えてくる。
「はぁ」
「ここね!」
「会長、それは屋根ですよ?」
「!?」
ガチで分かっていないようだった。まったく、その自動連結器とジャンパ詮(注※主に鉄道車両の部品で飛ばないものを指す)は屋根から取ってきたものだと言いましたのに。
……とまあ良く分からないノリで行われる体育祭で使用する用具の掃除。
俺がホースを構えてビニールシートに広げられている土のこびりついた用具を洗浄し、会長は洗い終わって渇いた小物を運ぶ。ちなみにユイは渇いたものの中で会長が持てなそうな物を運ぶ。
洗い終わって昨日は外に放置したのもあり、舞いあがった砂がこびりついているものあるが、それはもう仕方ない。まあ以前の状態よりは幾分もマシだろう。
「ありゃ」
「どしたのシモノ」
会長がてくてくと声をあげた俺に駆けよって来る。まあ大したことでは……あるのだけども。
「いや、ホースの水の勢いが突然に落ちまして」
さっきまでと比べると格段に落ちていた。
百円が地面へと落ちる速度と某配管工の地面へのヒップドロップ並みの速度の違いだ。
「シモノ、分かったわ! その犯人がっ」
「人害なんですかこれは」
もし悪戯だとして、水詮を締めたりしたってことか……しょぼいなあ。
「犯人はこの水よ! ”俺は流されない人間になりたいんだぁ!”と流れる水道水が抵抗した結果なのよ!」
「ファンタジーだけど言ってることが微妙にシビアだな!? って、会長それはないですって」
「――そしてその水はフェイクよ」
「ああ、そうなんですか……ってええ!?」
「そう、真犯人は――ホースよ! ホースが”男は黙って水汲みバケツだろうがあ”と――」
「擬人化した癖して自分の存在を全否定してる!? このホースは何がしたいんだっ」
この水色のホームセンターで数千円で購入可能なゴムホースの内部ではそんなことが……!
「おうい、ユウジに会長遊ぶなら破けたホース取り換えた方がいいんでないかい?」
「「はーい」」
まあ、実際はユイの言った通りなんですけどね。
単なるゴムの劣化で穴空いただけという。少しぐらい楽しんだっていいじゃない、役員( になっちゃったん)だもの。
「おー。ユウジ、ホース見つけたからこれにしとくか?」
「ああ、ユイ頼めるか?」
俺は一応はちょろちょろと出るホースを構えて垂らすように用具に水をかけていて手が離せない。
「おっけー、取り換えてくるぜー」
そういってホースと何か他の物(どこか掃除機っぽい)も抱えてユイは駆けて行った。
数分後、えらい時間かかるもんだなあと思いながら水流の弱いホースでやっていると水が突然に止まった。
おそらくはユイがホースの取り換えをしてくれたのだろう。
そして後ろからユイの歩いてくるのが分かり、振り返ると――
「ユウジ、ほい」
「え」
持たされたのは太さこそさっきと同じようなものの、妙に固く黒光りしている。ちなみにこれは蛇ではない。
そして先端には掃除機の操作部分のようなノズルが付いていて……
ユイはといえば水道の位置まで戻ってから叫ぶ。
「じゃあ行くぞ」
「おう」
と、答えた瞬間だった。
手元に衝撃が走りブシャアアアアアアアアというような水音とは言えないようなものが聞こえる。
これって、まさか――
「ぬわっ」
少しでも手を緩めただけでホースが宙を舞う、とっさに掴むことは出来たが辺りに鋭い水を撒き散らす結果になっている。
「にゃああ!?」
すると傍から女の子の声の悲鳴が聞こえた。
「あ、会長サーセン」
「シモノ! 痛いし冷たいし、なんなのよ!」
「いやあ、俺もさっぱりわからんす」
「いやいや! その持ってるホースから水出てるんだよ!?」
「いやあ」
「その返しはないよ!」
いがみ合っている内でも水はブシャアアアアアアアアアアと水を吐き出している。
それをなんとか器用にも用具にぶつけると、なんとまあ汚れの落ちること。
これ完全にテレビショッピングで見たことある高圧洗浄機ってヤツだわ。
「ユウジ調子はどうだー」
「大惨事だよ! なんで普通のホースにしなかったし!」
「いやー、その方が綺麗に落ちると思って」
「少なくとも予告はしてくれー」
心の準備ってのは必要なんだな……
「じゃあ普通のも、渡すわ」
「は」
更にホースを手渡される。
ちなみにさっきまでのホースはトリガーノズル式で、先程渡された高圧洗浄機もトリガーノゾルで特に違和感無く手に取っていた、ストッパーを付けたままだからトリガーノズルのスイッチの意味がないけども。
そして今渡されたのは至って普通なホースで、間抜けにも大きな口を開けている――
ちなみに高圧洗浄機のストッパーは壊れていて外せない、そしてもう一つのホースには水の来る気配。
辺り一面水浸し。
そしてまさかのサービスシーン。
続きはCMの後で。




