第306話 √a-6 彼女は彼に気付かれない
ジャンルを三日間だけ:ファンタジーに変えてみる試験
2-5から2-12までを修正してみました
『下之ユウジはですね……今はプレイヤーになっているのです』
「プ、プレイヤー? ああ、あのアドバンスソフトの形をした音楽ソフトの」
『プレイやんですか? えらく懐かしいものを……まあ言うなればゲーム関連では有りますが』
「まさかユウ兄がゲームのプレイヤーなんて言わないよね?」
『なぜ分かったのですか』
「…………」
そういえばなんで私画面に話しかけてるんだっけ?
そもそも桐って言う妹だけど妹じゃない子がやってきて帰ったと思ったら、突然にCGポリゴンの女性キャラが出てくるんだもん。
あ、ゲームのキャラって言うのは昔ユウ兄と共同で攻略したゲームの主人公のことでそこにユウジの”ユ”と”ジ”私の名前ミユの”ミ”を組み合わせてつくったプレイヤー名の。
「ユミジ……」
『はい、ユミジです』
当時やったゲームは初代プレスタの初期ソフトなだけにポリゴンポリゴンしたゲームキャラクターながらも、様々な種類のキャラから主人公を選べるなかなかに面白いRPGモノのゲームだった気がする。
ユウ兄とコントローラーを取り合いながら攻略していったのが印象深い。
「それでユミジはどうして私のパソコンに?」
『それはですね――ゲームを起動したからですよ?』
「いやいや、プレスタのゲームなんてパソコンに挿入してないから」
挿入したのは私がサイトで見つけて、ダウンロードを諦めてでも買いたかった美少女シミュレーション――
『いえ”はーとふる☆でいずっ”というゲームを起動したからです』
「え」
『それは作られた当初は至って他のディスクと同じものだったのですが、下之ユウジの起動した”Ruriiro Days ~キャベツとヤシガニ~”というソフトに入っていた”リミックスプログラム”と同じものが偶然に入っていたのですよ』
「へ? ユウ兄の起動したソフト? リミックス?」
『”リミックスプログラム”が発動することで、そのゲーム内容は現実に投影されます』
この画面の中の人はさっきから何を言っているのだろう。
『……分かりにくいですか?』
「はい」
『そうですね……下之ユウジがゲームを動かしたことで、ゲームの中の登場人物が出てきて、今は下之ユウジがハーレムということです』
「???」
『……分からないですか。それではこちらの映像を――』
「……え」
パソコンの画面に突然何かのソフトが立ち上がり、少しノイズが入るものの何かの光景が映し出される。
いや、これは――
「私の家だよね」
『はい。そしてこれは桐の部屋です』
「桐……っ!」
そうだ。妹だったはずなのに、妹じゃない。突然桐という女の子を妹と認識できなくなった。
さっきは凄い剣幕でやってきた女の子だった。
「桐って子の他にもいるようだけど……?」
『その方はホニさんです。神様です』
「かみ……?」
神様ってのは比喩表現でなく……いやいやいや。
『ホニさんは下之ユウジの攻略ヒロインの一人です』
「攻略、ヒロイン……もしかしてユウジが起動したのって」
『いわゆるギャルゲーですね』
それを言わないから分からないと思う!
「ユウジがハーレムってのは。お、女の子に囲まれてるってこと?」
『そういうことになります――と言いたいところですが、今の状態では全員揃っていません』
「……何人いるの?」
『Ruriiro Days ~キャベツとヤシガニ~だけならば隠しキャラと複数人格を含めて十人でしょうか』
「じゅう!?」
……ユウ兄はそんなに女の子に囲まれてるんだ。
『しかし今度の”は~とふる☆でいずっ”を加えることで、なんと十四人に』
「ええ!?」
『キャラクター指定はすんでいるのですが、今公表することは出来ませんね』
「……それじゃ本当にハーレムじゃないの!」
『はい。それでも同時攻略は基本的には出来ないのですが』
「…………」
ユウ兄。女の子に囲まれて嬉しいよね。でもねえ、それでいいの?
忘れちゃったの? あの子のこと、ユウ兄はあんなに――
「ちょっとまって、ユウ兄はゲームを起動したからそんなハーレムになったんだよね?」
『はい、そうですね』
「それなら”は~とふる☆でいずっ”を起動した私が主人公になるべきなんじゃないの」
もしそうなら同性愛になっちゃうけど……だからってユウ兄を好きになる女の子が増えることなんて。
『あなたは女性じゃないですか』
「そうだけど」
『そのゲームの主人公は男性ですから。既にゲームを起動することに成功している下之ユウジは”リミックスプログラム”からしたらリスクが少なく確実性を考えて結果的にプレイヤー経験のある下之ユウジにプレイヤー権が移っただけのことです』
「だけって……」
『そして今までのあなたや下之ユウジの現実と、下之ユウジが起動したゲームと、あなたの起動したゲームのキャラクターやストーリーが混ざっているのが今の世界なのです。そしてその世界のプレイヤーは下之ユウジ』
本当にユウジがゲームの主人公になったってこと? 現実と二つのゲームが混ざっている?
「ねえ、今私の家族はどうなってるの?」
『下之家に居る方々のことですか? あなたの居た現実と比べて大きな変化を遂げていますね。父親が巳原隆弘、母親が下之美咲。長男に下之祐二。長女下之美奈、次女下之美優、三女下之桐。義妹巳原柚衣、居候下之ホニ』
「ちょーっとまって」
え、なにこれ。確かにミナ姉から再婚したとは聞いたよ? それで娘のユイっているのは分かる。でも居候下之ホニって、それに桐が三女に?
『下之家の現在の状況です。ちなみに下之ユウジと交際関係にあるヒロインはいません』
「……そうなんだ」
何故かほっとする私がいた。どうにもユウ兄が女の子に囲まれてるって聞いた途端にむかむかしたから、それがすっと晴れ――は、しないけど。
『下之ユウジの交際関係になる可能性にあるヒロインは――幼馴染に篠文由紀、転校生にオルリス=クランナ、妹に下之桐ほか数人です』
「えっ」
その事実を聞いて、明確な名前を聞いてしまったことでより衝撃を受ける。そっかギャルゲーのヒロインと付き合えるんだ。なんて羨ましい――ユウ兄が。
『”リセット”発動によって今後の交際対象から外された以前に交際関係を築いたヒロインは――ヤンデレの姫城舞、神様なホニ様です』
「え、交際関係を築いたって、えっ?」
それってユウ兄とその子は付き合ったってこと? それも二人って……どちらかを捨てたのか、それとも二股――!?
『世界は何度もリセットされていますから。一度の物語で付き合えるのは原則一人です』
「それでも付き合ってたんだ……」
ああ……なんというか、うん。ショックだ。
『おそらくこの世界は約三〇回目になるでしょう』
「え、三〇回目? 何が?」
『あなたも下之ユウジも気づきはしませんが――世界はやり直されてきたのですよ。それもゲームのように』
「……ええー」
ユウ兄が色々女の子を囲っていたのもショックだけど、色々なことを一気に聞かされて意味が分からなくなってきた。
「ユウ兄はゲームの主人公、じゃあ私はなんなの?」
『起動者ではあるのですが……どうなのでしょう。今のところはなんとも、でも言うなれば現状態では傍観者ですね』
「傍観者?」
『下之ユウジが築く恋物語を何回も眺め続ける、手出しの出来ない第三者』
「こいものがたり……っ」
……それを何度も見せられるって? 何も言えずに。
「なんか……やだな」
『干渉出来ないことはないですが、そうすることで攻略に失敗して繰り返す回数が増える可能性があるだけで無意味です』
私はこれからそれを見続けるって言うの……?
「じゃあ、あなたはなんなのよ。私の好きだったゲームのキャラの顔をしたあなたは――」
『私ですか? 私は主人公をサポートする為のプログラムのようなものです。あなたは主人公ではないですが、これからもサポートさせていただきます――ユミジと申します』
サポート……?
私はさっきからずっと画面と話すようにして独り言を呟いた風に傍からは見えるのだろうか。
それよりもそんなことを聞かされて、私はどうすればいいのだろう。
ユウ兄はこれからどうなるのだろう。私はこれからどうなるのだろう――