第303話 √a-3 彼女は彼に気付かれない
なんか上手くいかないなあ
小説を更新すると評価が下がる。ふしぎ!
「笑われればいいと思うよ」
「はい?」
話している最中に突然に立ちあがりそう叫んだのは珍妙な挙動行動でおなじみな他ならむユイだ。
ちなみに今は授業合い間の休み時間。授業が終わると同時にちびちびと俺の机を囲うようにしてメンバーが集まった。
最近メンバー入りを果たした(らしい)姫城さんはどうやらお手洗いなどで来ておらず。ユキとユイと良く分からないオカルト男と俺の四人で集まって話している内のことだった。
「な、なぜに新番組リスペクトなんだよ」
「新番組? マサヒロ今期のアニメとかなんかか――」
「”あけりる”スタッフ――いや”ひがしけ”スタッフの送る渾身のゆる女の子アニメだったかな」
「よつどもえのスタッフでもあったような――」
あー、俺は今期にそのリスペクトしたアニメがあるのか聞いただけなのに。
「アニメ版は下ネタでだいぶ敬遠されちゃったからなあ、下品な方の生徒会ほどふっきれれば良かったぬだけども」
それは原作ファンがブチギレるから止めとけ。てか下品な生徒会アニメとはジャンルがまったくもって違うだろうに。
というか絵が違いすぎ、なんであんな潰れ饅頭みたいな代物に変わらないといけないのかと。
「そういやユイ、生徒会の流れで思い出したけどさ。ユウジとお前生徒会に入ったんだっけ?」
いやいや、その話の流れが強引だろう。なにか未知なる強制力を感じざるを得ないぞ?
「ぬ」
「……頷いたから肯定でいいんだよな?」
「それにしてもユウジとユイが生徒会かあ」
まあということで俺とユイは生徒会に入ったのだった。ちなみに俺にとって、それは。
「不本意だけどな」
「このゴミユウジ、なにが不本意だばかやろう! あんなに美人に囲まれて不本意とは目が肥え過ぎているようだなあ!」
俺をすげえ見下した名前で呼んだ上に意味不明な程にこめかみを痙攣させてガチギレしているマサヒロ。
「いやいやいや良いもんじゃないって、唯一の男子役員のの俺は弄られっぱなしだし」
「弄ぶ……!?」
「すごいな読み方を変えるだけで意味が大きく変わった気がする」
ザ・日本語マジック。
恍惚の表情を浮かべて妄想世界へダイブし始めたマサヒロは、どさくさに紛れて怒りも消えうせたようなので俺は邪魔しない。
するとユキが俺の肩をツンツンとつついて聞いてきた。
「ねーユウジ、生徒会って忙しい?」
「うーん、そうでもないぞ」
ちなみに俺の生徒会に入ったことの経緯はというと――色々と省略すると拉致られた。
姉貴主導による拉致作戦に見事引っかかった俺はロリ会長に謎の質問を受けた後に強制的に入れられた。
その後にユイがその拉致の様子を目撃していて「入れてくださいお姉さま!」といったところ採用されたそうな。
更に生徒会ではある人物との再会を果たしてしまうしさ。
……ユキはなぜそんなことを聞くのか薄々分かっている。生徒会入ることで総合的に見ていつものメンバーでいる時間が少なくなるのだ。
特に生徒会は放課後活動が多く、会長も気まぐれなのでおおよそ毎日有るよう構えておいた方が身のため。
すると必然的にユキと下校できるタイミングを失うの――くっ、やってくれたな生徒会。俺の至福の時をいとも簡単にブレイクしやがって。
そうして妙な悔しさに唇を噛みしめていると。
「……それにしてもユウジも女の子に沢山囲まれるようになったよね」
「不本意だけどな」
ちなみにこの頃からユキが少し俯き気味になったのに、悔しさのあまり気付けていない俺。
「意図してなかったの!?」
「出来ないって! そもそもそこまで囲まれたいと思わないから」
俺の家は何故か女系家族で、姉一人妹は(義妹と拾った神様とエセロリを含む)四人に母子家庭(だが姉貴がほぼ家事全般)となっており。
日頃から女に囲まれている生活なので正直ウンザリだ。家族の場合は桐はうっさいし、ユイは微妙で、姉貴は荒ぶってるし、ホニさんだけが唯一の良心だ。
そんな個性豊か……悪く言えば濃すぎる面子の中にいるので嫌でこそないが疲労する。
「……ねえ、ユウジ。姫城さんの胸は柔らかかったですか?」
「だーかーらー! あれは姫城さんに無理やりに……」
俺ははっとなり、ようやくに気付いた。敬語になりつつも遠回りな非難を繰り出すユキの虫の居所は悪いようにして、機嫌がかなりに悪くなっていることに。
学校でも社会的抹殺一秒前の姫城さん執行による逆セクハラや「前向いてなくてごっつんこ、ふいにぶつかった女の子の胸をもんじゃった☆」というマンガ系統にありがちな展開ながらも実際は罪悪感に満ちている。感触を味わうような余裕なんてないわけで、役得を罪悪が上回っている感じだ。
そんな当人と生徒会で鉢合わせされてしまう上に非公式新聞に目を付けられるというのだから悲惨たるものがある。カンベンしてほしい。
確かに事実ではあるのだが、弁解させてほしいところだ。というかユキに嫌われたら俺はショックで数日学校を休む自信がある。
「……男の子だもんね」
じとーっとして見つめるユキさんはきっと立ち絵で見たら卒倒モノの可愛さがあるのだろうけど、いざ顔を合わていると申し訳ない上に変な汗が顔を伝う。
まずいな、これは好感度で言ったらグイグイ下がっている途中だぞ。
「誤解だって……」
「五回も!?」
「なんかその返し前もあった気がするぞっ!」
いつかは覚えていないけども。その後はユキは沈黙してしまった。
……ヘコむわあ。そんな最中にマサヒロが質問してくるものだから、どうにもテキトーな返しになる。
「そういえばゴミ虫ユウジ質問だ」
「誰がゾンビだ」
「その返しは殆どの人が分からないんじゃないか?」
「で、なんだよ。はやくしないとお前の頭の中に仕掛けた爆弾が爆発するぞ」
「お許しください! ……まあ、なんだ。生徒会ってどんなことしてんの? っていう健全な疑問だ」
「け……」
「け?」
「健全な質問をマサヒロがしただと!? みんな逃げろぉ! あまりの不自然さにこれは本当に爆発しかねない」
今までマニアック要素だけで通して来たようなキャラのマサヒロがまるで、普通の友人のような質問を繰り出す――まさしくこれは重要なファクターであり危険因子だ。
「わー(棒)」
「逃げなきゃー」
「ユイもユキも乗るんじゃねえ! じゃあ”生徒会の女の子スリーサイズって知ってる?”の方が自然ななのか?」
「うぬ」
「かな」
「だろう」
「返しがさっぱりしている上に全て同意見……っ!?」
なんか引き延ばしが過ぎたので、てか面倒になってきたので。まあ答えてやるか。
「まあ再来月辺りの体育祭の計画ね練ったりとか、アンケート集計したりとかさ。そんなところだぞ?」
「やっと疑問の答えが――ちなみにスリーサイズは分かるの?」
「……副会長に限り、な」
ちなみに意図して知っているわけではない、姉貴はなぜか身体測定を終えた当日の家でマジマジと報告してくるのだ。
その報告も一度だけでなく、当日中は何度も駆け寄ったり鼻唄にして俺が近くにいる時”だけ”言ってくるわけで、耳を塞いでもメールで来るので避けようがない。
なぜその自分のスリーサイズを俺に教えることに固執するのかまったくもって理解できないが、覚えてしまっている理由はそんなところである。
と、いうことで二〇一〇年四月現在のスリーサイズを答えることが出来てしまう。
「身内だからか! やってくれたよこのシスコン野郎」
「うん、なんか否定できない!」
俺は結構に姉貴に甘く、妹軍軍勢にも甘いのだった。桐とか一応数秒はコントに付き合ってやってるし、ホニさんは可愛いから正直その疑問なんて些細なことだけども。
「……ユウジは誰狙い? ミナ姉、桐ちゃん?」
「なんかすげえ選びたくない」
ちなみに俺の狙いはさりげなくそんな質問をするあなたことユキさんと我が家のお神さま。ことホニさんですよ。
「まさかユウジ……仮想の妹が狙いって言わないよね!?」
「そんなこと――」
言えちゃうんだなあ。事実を知ってると、うん。
俺はつまりゲームのヒロインのことを好いているからなあ。
「――妹は否定する」
「仮想は否定しないんだ!」
ああ、ここで告白したらどうなるだろうか。ユキさん好きです!! って、さあ。
……いやまあ、今の俺にそんな勇気も無ければ、別にこんな風に和気あいあいと話せてればいいんじゃないかとも思えてくる。
「男の子だもんね」
「女の子もいるぜえ!」
ユイがここぞと言わんばかりに手をあげた。
「ユイも一応女だろうに」
「そんなことは些細だぬ。可愛ければアタシはなんでもいい、特に仮想の女の子はカワイイ……」
……ごめん、異を唱えることは出来ないっす。
「「否定はしないな」」
「ユウジとマサヒロがシンクロしてる!? ああ、皆現実に帰ってきてー」
そんな訳で日々は続く、続く、続く、と。
* *
「久しぶりの出番ね」
「そうだね」
生徒会室に二人、凸凹コンビとも言える身長差が数一〇センチもあるであろう女子生徒が時を同じくして呟いた。
……あれ、今放課後でもなんでもないはずなんですが?