第301話 √a-1 彼女は彼に気付かれない
どうも、ホニだよ。
ええといきなり聞かされて我自身も驚いているのだけども……
ユウジと同い年でミナよりも年下で桐よりは年上の妹がいるようで。
同じ家に居るはずなのに知らなかったということがまず凄いんだけども。
うーん……そっかあ。ということはユウジさんの周りの女の子が兄妹とは言え我の中では増えたことになるね。
「……女系家族?」
それはいいとしても、どうして妹さんは出てこないのだろう?
何か事情があるのかな……?
* *
どうも、ナレーターです。
お久しぶりですね。なんというか都合の良い時だけ駆りだされる緊急要員みたいになってきましたね。
というか私要らないんじゃないですかね? スタッフさん。
……え、これから必要になるって? またまた、御冗談をー
ユウジに桐にホニと来て、またイモウトっぽいキャラも主人公各になりそうじゃないですかぁ。
本当に私要らないんですよね?
え? そんな一話からネガティブ発散させないでって……わかりましたよー
ということで駆りだされた私としては今起ろうとしている世界の異変をナレーションする為にですね。
あ、もうそろそろですね。
えーっとなになに……
『一つの暗い部屋で――』
* *
一つの暗い部屋の中でパソコンは突然に光を発した。そして世界は真っ白へと変貌を遂げて多くの文字列がその空間に映しだされた。
そこには『――適合』などが次々とかなりの速さでキーボードを打つようにして虚空に現れその量は何行にも及んでいく。
その様をなんの術もないまま見つめているのが――このかつて暗かった部屋の持ち主であり、そして下之家の次女こと。
下之美優はそれを何が起ったのか分からんばかりにただ呆然と立ち尽くしている。
「……え」
ようやく声を発した頃には全ての文字が打ち終わったかのごとく文字の海が止まり、そして最後に一行「リセット」と描かれた。
その直後に視界がテレビが寿命を迎えて力尽きる風体でブラックアウトし、
「――――っあぁ」
声に出せないバッドで頭を強打して三秒後のような痛みというか重みが頭を襲い、ミユは頭を抱えてしゃがみこんだ。永遠に続くかのように思われたそれは実際のところは数秒程度で収まり、気付いた頃にはバックライト付き液晶を持つパソコンの光がうっすらと部屋を照らしていた。
「な、なにが……」
痛みも収まり、部屋も代わり映えしない――かは暗くて分からないので思いきって電灯を点けた。
「……っ」
先程の白さに目をやられたのでそれほどでもないが、やはり暗い世界にいるとその突然の証明には驚いてしまう。
「かわって……ない?」
微妙に散らかっているその周りも、モノもおそらくは無くなったものは確認できない。
買ったばかりのゲームソフトのケースも座ってちょうど目の前に来る高さにあるパソコンの前の低い卓袱台に広げられていた――
「あ……れ?」
パソコン画面を覗きこむ、そこには好きなアニメの壁紙が張られていてアイコンが羅列されている。
そんな中で、一つだけ足りないものが有った。
「(インストール出来なかったはずだけど)」
それでもディスクは入っているはずなのに、どうにもその表示がない。
[コンピュータ]を確認してもディスクは入っていない。
「(どういうことなの……?)」
パッケージはここにある。取説も――
「(なにこれ)」
説明書を拾い上げて絶句した。書かれているヒロインの顔がマジックで塗りつぶされたというより背景の色などをの残して消失していた。
名前や設定も一部だけが残って、あとは明らかに日本語ではない文字列が並んでおり文字化けしたようになっている。
「…………」
消失したヒロインが気になるもディスクがない事実に気付き、インターネットで調べ公式サイトを探した。
「……な、い?」
いくら探しても『はーとふる☆でいずっ!』というソフトはゲームは存在していなかった。
「なんで……?」
途方に暮れながらも、しばらく彼女はパソコンの検索画面を見つめていた。
* *
「あ、あぁぁぁあああああ」
我は突然に頭に激痛を感じた。それはかつて我が感じた「日がリセット」される際の何か頭にズシンとくる衝撃に良く似ながらも、強さではこちらが圧倒的に上だった。
「いや。いくらなんでもここから戻されるのは――」
八回目はここでされてしまうのか、せっかく出会えたのに。せっかくここまで来れたのに。
……そんな思いが我を巡る。でも――
「あれ?」
収まった頃には辺りを回してもそれは我の部屋だった。特に変わることの無い部屋。
「……でも時は遡ってる」
置かれたでじたる時計の日付を見て理解する。
我が出会う以前に、時はなっているのに――我がこの時に出会い、いることになっている?
「なにが起ったの……?」
* *
その頃桐は。
「うぐ…………」
桐やミユと同じくして頭を抱えていた。こらえてこそいるけれども、痛みは相当なものだったらしい。
「はぁはぁはぁ……」
痛みが止まる頃には息が荒くなってしまっていた。
「何が起った」
桐は辺りを見渡すも大きな変化がないことを理解、そしてすぐさまホニと同じ行動を起こす。
「四月一日じゃと……!?」
その瞬間に桐は部屋を飛び出した。そしてある部屋へと廊下を駆け走る。
「入るぞっ」
その扉が開けられた先は――
* *
「き、桐!?」
「どうして今ホニがここにおる!?」
僅かな廊下でも一気に駆け抜けたように息を切らして問う桐の表情は蒼白になっていた。
我はそれに驚いた一方で桐の言ったことを咀嚼する――
「どうして、って?」
「分からぬのか! いや、わかっておるじゃろう! 前√のホニ!」
「っ!」
気付かれていた事実に我は冷や汗を流した。いつ知られたのだろう、いつに――
そもそも何故桐はそのことを知っているのだろう。記憶を有しているのは我だけ……じゃなかったってこと?
「それは今はいい! それで何故ここにおる!」
ここにいる理由……?
「わからない……この時はまだ神石にいたはずなのに、何故かユウジさんの家に」
「分からぬのか……そうか――いや、待て!」
桐は何か思いついたのかすぐさま背を向けて。
「前√云々はあとじゃ! 失礼する!」
と、言って駆けていく。我は呼び止めようとして手を伸ばすもその頃には桐は部屋を飛び出していた。
* *
この[環境構成用]に出される電波はユウジのパソコンのものではない!
まさか、まさか他にもおるのか……プレイヤーがっ!
鼻で追うようにその電波の元を辿り、辿りついた先には――
* *
「ここかっ!」
「ひっ……」
毛布を被って画面をみつめていたミユが扉へと振り返った。
「だ、誰じゃ」
「お、お前こそ!」
二人は初めて出会い、そんな言葉を互いに交わす。
――そう確かに何かが変わっていたのだ。この日常はこの世界はこの道化の箱庭は。
様々な要素が躊躇することなく考えることなく混ざり合う――それはリミックス。