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第300話 √α-6 [loading error](終)

妹登場!

 それは暗い部屋。朝でも昼でも陽の光が殆ど入らない厚くカーテンで締めくくられた部屋。

 頼りになるものと言ってもパソコン液晶やテレビのバックライトか勉強机にお馴染みの電気スタンド。

 それは雑多な部屋。無頓着なのかダンボールは無造作に積み上げられ、ゴミこそ纏められているものの全体的に汚い。

 寝るスペース、座るスペース、歩くスペースがギリギリで確保された足の踏み場がかなりに少ない。

 それは黒髪の少女。その部屋の主は一年ほど切られずに伸びきった黒色の長髪を有している。

 洗ってはいるものの髪先は結構に痛みそこにかつてはあったであろう艶やかさはない。

 それは毛布にまみれた少女。まるで何かから逃げるように遠ざかるように毛布を肩からかけて体を包みこんでいる。

 この部屋に長いこと居る割には太ってもおらず、細身で姉譲り母譲りのスタイルと大き目の瞳のある整った顔を持っている。

 それはいつからだろう。おそらくは一年前の時から。

 それはいつまでだろう。それを知るのは少女でさえ出来ない。


 あることが起きてから、少女はこの部屋に閉じこもっている。


 何もかも失った彼女は、失わないように、彼と面と向かうことがないように。

 この暗い部屋で一日を十日を百日を過ごしている。

 彼女自身が家族全員に迷惑をかけていると知りながら。ここに逃げ続けている。


 もう、あの日々には戻れない。



* *



 私はインターネットを駆使して入手したあることに一喜一憂していた。


 もともとお金を使わないことで貰うお年玉やら小遣いは着々と貯まり銀行口座には七桁の数字が並んでいたという。

 しかし中学二年の頃、急激にアニメや漫画にゲームに目覚めた。

 元々は身近な人がやっていたのも有るが、それが相に合って、現在に至る。


 私は断言しよう、美少女ゲーマーだと。


 可愛い女の子が出てくるのが実に良い! ダウンロード販売でパソコンにインストールしたギャルゲなどなどをプレイしては一人静かに身悶えている。

 自分が主人公となって女の子を恋させ惚れさせ――それがなんとも快感だった。

 

 ……状況のせいで私はお金こそたんまりある口座からの引き落としで購入をしている、それも主に宅急便や店頭を介さないダウンロード販売で。


 こうみえても私は引き籠りだ。


 何の告白だと言われそうだが、実際そうであることから表立って出れなくなってしまった。

 いや……”出れなくなってしまった”じゃなく”出たくなくなった”が正しいかな。

 周りの変化に激怒し自分の行動に後悔し後ろめたさで顔を出すことも憚られる。


 私は一人でに籠に入った鳥なのだと。


 そんな綺麗なものでもないのだけど、まあそれで許してほしい。

 本来なら今は高校生活を送っていたであろう私は自堕落な生活を営んでいる。

 

 部屋の外には皆が寝静まった深夜のみ、誰もいないことを確認してからす行水ぎょうすいよろしく風呂を浴びる。

 洗濯ものは手紙で姉にこっそりとお願いして、食事は基本的に水道も電気もあるので電子ポットでお湯を沸かして通販などでごっそり買ったジャンクフードやらサプリメントやバランス食品。

 それでも姉はそれを許さないらしく、風呂を使う前に冷蔵庫に入っている姉のつくった料理を頂いている。たまにお礼の手紙を残すこともあるが基本は何も返さない。

 ジャンクフードやらの食品はダウンロード出来ないだろう……そうなんだよね、本当に食べ物もダウンロード出来ればいいのにね、こうピピッと。

 なので宅急便はそういう生死に関わるものに関しては使い、姉やらに扉前まで持ってきてもらう。


「(悪いとは思ってるんだけどね……)」


 パソコンハードから発するファンの音やらイヤホンから僅かに流れるアニソンのみの部屋で一人ごちに呟いた。


「(……でも今日は)」


 私はある美少女ゲームが気になり、調べて行くうちにどんどんに欲しくなり。ダウンロードは無く、そして前評判の高さから予約をポチり。

 晴れてアマ○ンの発送予定日(konozamaされなかったのが奇跡)に発送状況を調べたところ今日届くことになり全裸待機(という表現で実際は部屋着を兼ねたパジャマ)していた。


 すると扉まで近づく音。いつもならば「これおいとくね」と声をかけて姉が持ってきてくれる。


「(あれ)」


 細かいと言ったらそこまでだけども、足踏み音が違う。きしりきしりがきっしりきっしりなような。

 そしてとすとダンボールが置かれる音、そして――


「(もしかして――)」



『ミユ、ここに置いておくぞ』



 その声の主には聞き覚えがあって、それが当たり前で……そして遠ざかる足音。

 私は飛びあがるように座った姿勢から立ちあがっていた。その主が誰か、おそらく推測がついたから。

 私はそうして扉を開けその顔ほどの隙間から覗いた。


「…………おはよう、か?」


 そこには推測の主が居た。


「…………」


 私は声が出せなかった。


「一年振りだっけか、顔を合わせるのは」


 言いたいことも、たくさん有ったはずで。 


「…………」


 それでも声も少しなら出るはずなのに。


「まあ、置いておくからな――」


 そうして背を向けて去って行く。

 ……ああ、また。逃がしてしまった。これがもしかしたら最後だったのかな、と遠のく背中を見て思う。

 一言でも言えれば良かったのに。


「ご……」


 めんね。



「ユウ…にい



 それは誰にも聞こえない。 



* *



 何故ユウ兄は来たのだろう。今まではミナ姉が来ていたのが殆どだった――

 いや、でも私は寝オチしていた時もあったし。もしかしたらユウ兄も届けてくれていたのかもしれない。

 

 ……ああ、私はもう。

 

 気を紛らわす為に私はダンボールを開封した。そこには私が欲しかったゲームのタイトルの踊るパッケージがビニールに包まれている。

  

 そのゲームは『はーとふる☆でいずっ!』という恋愛シミュレーションと呼ばれるジャンルの美少女ゲーム。

 レビューを見る限り前評判のハードルを軽く越えた良作になっているという、というか絵が私好みだった。


「(美少女ゲーで思いだしたけど)」


 そういえば廊下から桐の声が聞こえたのだった。それほど大きいこともな桐の声を偶然換気に開けていた扉から聞きとった。

 そして桐は言っていた。


「(ゲーム――させぬぞ)」


 その二単語だけを私は聞きとった。そういえば桐とも一年会って――


「あ……れ?」


 思わず声が出てしまうほどに、疑問に思った。


「(桐って一年前はどれぐらい(の背)だっけ?)」 


 今の背は小学生のそれなのだが……一年でどれほどに成長した?


「(それに……させぬ”ぞ”?)」


 桐はそんな喋り方したっけ? もうちょっと明るくて活発で――おかしいな、覚えているはずなのに。


「(まあ……いいか)」


 何故か急にどうでもよくなった。本来ならそれは考えるべきことなのに、私の意識はそこから離れてしまった。

 ……それよりゲームだ! ユウ兄と遭遇したのは予想外の展開だったけど……私はゲームをするっ!

 ユウ兄も気になるけど、ゲームも気になるのだ。


「(そうにゅー)」


 立ちあげているパソコンにゲームのディスクは吸い込まれた。そして


「!?」


 突然の事態に私は目を見開いた。ゲームが立ちあがる寸前でウィンドウがダイアログに浸食されていった。


「(もしかしてバグ?)」


 そういうの凄い困るって……ヒッキーの私はどうすればよいのかと!

 そのダイアログにはというと「環境のスキャン」という謎の言葉が表示されていた。


「(なによ)」


 しばらくしてダイアログの言葉が一斉に書き換えられていくのを目の当たりにする。

 そして目の前の一番トップに現れたダイアログにはこう書かれていた。


 『スキャンが完了しました、このまま作業を続行する場合”OK”をクリックしてください』


 隣にある「キャンセル」を押しても反応しない……というか更にダイアログが10個ほど増えた。

 喧嘩売ってるよね、このゲーム!

 結局OK押すしか選択肢ないじゃないの! それに電源ボタン長押ししても……強制シャットダウン出来ない!

 電源抜いたら私の集めた愛の結晶(=美少女ゲーム)が消え失せる可能性もないとは否めない

 それでもこのままダイアログばかりは嫌だなあ……うん、仕方ないから”OK”押そう。


「(ほい)」


 OKを押した途端にダイアログが消えてゆく。

 次第にかつてのデスクトップの壁紙の色が見え始め、ダイアログはといえば最後の一つを残して消えた。

 しかしその最後のダイアログは今までとは全く別の言葉が表示されていたのだった。


『世界浸透化の準備が整いました、よろしければ”スタート”をクリックしてください』


 そこにはその文面と”スタート”というスイッチの描かれたダイアログが。


「……なんだったんだろ」


 世界浸透化? え、ん? 事態がまったく分からない、ダイアログが一つになったのでそれを除けてしまおうかと思っていたのだけど…………戻ってくる。磁石のように中央に戻ってきて邪魔で仕方ない。 


 ……嫌なプログラムだなあ。


 スタートを押さない限りは消えないってパターンか! ……仕方ない。これ以上なにかされても困るしなあ。

 そうして私は不用心にもそれをクリックした。



「うわっ」



 パソコンから突然発せられた白い光、それに私を含む部屋全体が包まれていた。光を見る機会に乏しい私にとっては目が潰れんばかりだった。

 眩しすぎて辺りの状況をまったくもって把握できない。しばらくすると光は弱くなっていくものの――



 私に見える風景はかつてと違っていた。



* *



 PCへのデータインストール――完了。

 プログラムの展開35%――67%――98%――100%完了。


 プログラムと環境の解析開始。

 プログラムと環境の互換性――あり。

 プログラムの環境への適合化準備。


 阻害する危険因子――1件。

 危険因子を解析中――解析に失敗。

 現状プログラム及び環境への大きな影響見られず、危険因子を無視し作業を続行。


 error.

 code223プログラムの重複を確認。

 ”アナザーデータ”、”アナザープレイヤー””アナザーキャラクター”、”アナザーサブキャラクター”などが既に存在。


 ”アナザーデータを検索――該当一作品。

 「Ruriiro Days ~キャベツとヤシガニ~」”アナザーデータ”への当データ「はーとふる☆でいずっ!」の介入”アナザーデータ”との混入を確定。



 ”アナザーデータ”により”リミックスプログラム”の発動。 


 

 プログラムと環境の誤差――修正開始12%――89%――100%完了。時間誤差、空間誤差、設定誤差の修正が完了。


 バックグラウンドデータ――”アナザーデータ”によって適合失敗。”アナザーデータ”準拠に再構成――統合。

 

 タイムテーブルデータ――適合失敗。”アナザーデータ”準拠に再構成――統合。


 ナウプレイデータ――情報不足により適合失敗。”アナザーデータ”準拠に再構成――統合。


 環境内で別のプログラムを実行中、既プログラムに破損を発見。

 既プログラムの修復――失敗。

 既プログラムへのプログラムの互換化開始35%――66%――87%――99%――100%完了。


 環境とプログラムの整備が完了。

 環境の時間情報、空間情報、設定情報を更新78%――100%完了。


 拒絶反応なし、作業続行。

 人物の情報更新37%――86%――100%完了。


 拒絶反応なし、作業続行。

 環境にプログラムの投影を開始67%――100%完了


 拒絶反応なし、作業続行。

 プログラムの環境への浸透89%――100完了。


 プレイヤーデータ――適合者なし。”アナザープレイヤー”に混入することで対処。


 メインキャラクターデータ―― 

 適合する人物No.1「神楽坂かぐらざか 美咲みさき」の検索――該当1件。移植・書き換えの実行。

 人物の適合化に失敗。次シナリオにて再実行。

 適合する人物No.2「近江おうみ 由子ゆこ」の検索――該当1件。移植・書き換えの実行。

 人物の適合化――実行中21%――49%――78%――100%完了。

 適合する人物No.3「高坂こうさか 実沙みさ」の検索――該当1件。移植・書き換えの実行。

 人物の適合化――実行中18%――37%――93%――100%完了。

 適合する人物No.4「木山きやま 麻名まな」の検索――該当1件。移植・書き換えの実行。

 人物の適合化――実行中23%――57%――71%――100%完了。


 サブキャラクターデータ――適合を一部に限定。

 

 人物No.1に限定した大幅書き換え――準備中につき、開始シナリオは現状維持。シナリオ終了と共に書き換えを実行。

 

 

 ”リミックスプログラム”の発動により”リセット”が実行。



 適合・修正作業終了。

 プログラムの実行を開始――



* *



「もしもユウジの妹が”ある一つのゲーム”に触れてしまったら」

 これはそんなミユの”イフ”の話。




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