第298話 √α-4 [loading error]
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「ホニの様子がおかしい」
あやつ本来ならばユウジに連れられ帰る際には数百年の内に変わった風景に辺りを盛大に見渡すというのに。
「というのに……」
ホニはユウジと出会ってから、ずっとユウジをみておる。
家に来てからも変な事象があった。部屋掃除が終わって案内もなしに二階に上がろうとしたり。
家事手伝いが変に演技しているようで、結局はちゃんと出来ておるし。
そしてやっぱりにホニはユウジを見ておる。
それもどこか懐かしむように、幸せを噛みしめるように笑顔で。
「……まさかの」
前回のシナリオは確かにホニ√じゃった。しかし姫城舞はホニ√の際ではユウジへみせたルート時のデレデレな態度を見せていなかった。
ホニはというと、
「まるで好きだった頃の記憶を残しているようじゃ――」
何かの偶然か、わしの思い過ぎか? しかしでも前回シナリオの[ホニ死亡]の二週間前からコンテニューした上にそれまでの[ホニ死亡]の記憶も持っていた。
そして今回はホニ。
「……何かわしを妨害する者がおるのかの?」
それはわしを踊らす神か、それとも――
* *
ああ、ユウジさんかっこいい。
見惚れてしまうその好きな人の顔をついつい見つめてしまう。
我は覚えているのだけど、明かすことでユウジさんが混乱してしまうのではないか――それを考えて今は演技をしている。
演じることをそれほど得意じゃない我は少し変に見られているのではないかと、不安に思うものの。
「ホニさん、洗濯干すの上手だなー」
と褒められて、かなりに喜んでしまった。こうしてユウジさんの隣に居れるなんて、本当に夢のようで。
自分の部屋が懐かしくてベッドに思い切り飛びこんだり……色々と思い出が蘇ってくる。
自分を好きといってくれたユウジさん。実を呈して守ってくれたユウジさん。
「守ってくれたおかげで、我はここに居るよ」
またこの家に、またこの場所に。ユウジさんが朝起きた時に、学校から帰ってくる時から会える。
「我は幸せだよ……」
でも本当に誰も覚えてないんだね……そう考えると我一人だけで残されたように思えてしまう。
今まで我は一人だった……でも今は皆がいる。
ユウジさん。もし我が手伝えることがあったら何でも言ってね。
ユウジさんが我を守ってくれたように、今度は我が――
もしこれが我に与えられた役目だとしたら。
ユウジさんと過ごした日々も、それまでの日常も、繰り返される日々も。
それを覚えていてほしいから、我に記憶を思い出を残したなら。
いつか役立つといいな――そして我はどこまでユウジさんの隣にいるからね。
* *
「……そうか」
桐はドアの前にきき耳を立てて、そしてユウジに良く使う”心詠”を使った。
「わし以外にも記憶を残す者が現れたということじゃな……」
しかしホニ。その記憶はユウジを惑わすだけじゃ、それは混乱を呼ぶだけじゃ。
「ゲームを終わらせる為には円滑なゲームプレイをする――」
わしがユウジに助言できないのもそんな意味があったからじゃろう。
それならば、
「ホニ、邪魔はさせぬぞ」
ドア前から立ち去り、そう呟いた。
その声は言葉誰にも聞こえない――
* *
はずだった。
「……今の声って、桐?」
それは暗い廊下の先から、偶然に僅かに開いたドアの隙間から覗く。
その声は小さいものだったが少し高く大人への過渡期のような女の子の声。
「ゲーム?」
誰もいないはずの、誰も聞こえないはずの廊下で。
一人その声を聞いた。