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第296話 √α-2 [loading error]

\一週間待ってこれかよ/ \金返せやオラァ/

 時計は深夜零時零分を指した。


「”インターセプション”」


 その何の変哲もない四角いアナログ目覚まし時計の裏の電池カバーを開け、そこから電池を取り出す――そうして時が止まった。


「次ぐ”ダ・カーポ”」


 時計の調節ねじを反時計回りに一回転させる。そして零時零分へと巻き戻る。


「次ぐ”メモリークリア”」


 そして世界は変わった。元へと戻った。真っさらな日常に。



三月二十三日



「うむ、成功じゃな」


 未だユウジらが入学前の時間じゃ。春休み真っ盛りで、ユウジ曰く変わり映えしないメンバーでの進学という。

 この頃はまだ姫城マイや福島コナツの存在も知らず、生徒会も知るよしも無い。それでホニとも会っていない。

 しかし[正史]なのであろうか、ユイが越してくることは無く「元から住んでいた」ことになるようじゃ。

 ユウジからすればわしは妹で、ミナは姉。ユキやユイやマサヒロともクラスメイトといった関係じゃろう。


「……しかし今回はどれほどで進めるのじゃろうか」


 前回は[ユキ事故死]のみで五回[ホニ死亡]で二回[ユウジ死亡]で三回[バッドエンド]で三回じゃった。

 前々回は[ユキ事故死]が七回[マイによりユウジ死亡]が三回[バッドエンド]が三回じゃったな。


 回数が一部被っておるがおそらくは偶然じゃろう、共通点はとくに無いと見える。

 じゃが……な。


「前回は一体なんだったのじゃ?」


 ユウジの記憶が残留したままに[ホニ死亡]の二週間前に戻るなんぞ……今までにないことじゃぞ。

 わしがゲームオーバー時には”ダ・カーポ”と”メモリークリア”が施されるのが常で、そんな例外は有り得ないはずじゃった。

 もちろんゲーム開始から数分にも満たない[ユキ事故死]のみで”メモリークリア”に関しては解除しているものの。

 それ以降のことでのゲームオーバーからの起動は他の者には効いたというのにユウジに”だけ”効いていなかった。ということになる。


「……何か妨害のようなものが入っているのじゃろうか」


 わしの能力ミスの可能性も無いわけではないが……都合が良過ぎるな。



「まあ、この残酷な世界をつくった神も都合が良過ぎるとは思うがの」



 どうせ掌の上でわしは踊らされているのじゃろう。

 ゲームオーバーの度にやり直し、それも元仕様ならば記憶の引き継ぎがあるというからの。


「精神崩壊させる気か」


 わしだって相当にキツい。じゃが様々なヒロインと過ごしたユウジがもしそれらの記憶を覚えていたとしたら……


「とてつもなく辛いじゃろうな」


 好いたヒロインとの日々がなかったことにされ、そしてまた違うヒロインを好いて、そして過ごす。そしてなかったことにされるの繰り返し。

 当事者でないわしじゃからまだいい、主人公であるユウジがそれを覚えていたままだったら――耐えられないかもしれん。

 偽善と罵られてもいいが、今は、今だけはその痛みを重みを和らげたいのじゃ。


「すまぬ、ユウジ」


 それでもこの”異常”を終わらせる為にはどうしてもゲームをクリアしなければいけない。

 ゲームをクリアする為には全てのヒロインを攻略しなければならない、ハッピーエンドに辿りつかないといけないのじゃ。


 しかしこれではまるでゲームのモニタープレイのようじゃな。


 この世界が誰かのプレイするゲームで、わしらはその中の一キャラクター。

 もちろんユウジが主人公なだけでプレイヤーではない、それはあくまで画面内での主人公。


「……わしはそれでもお主をサポートするぞ」


 わしだって何の感情の変化も無かったわけではない。

 ゲームのシナリオ通りだとしても、ユウジの勇気や根性、熱意に愛と気配り。それには何度も心打たれた。わしも変わったと思う。


 いつしかわしの告白が虚実で無くなるほどにはな。


 最初ただわしは与えられた仕事をやっていただけだったようにも思える。しかし今ではわしはユウジ、お主を手伝いたいのじゃ。


「これからも頼むぞ、ユウジ」


 自分の部屋の廊下へと続く扉に額をコツンと付けて、そう誰にも聞かれない言葉を呟いた。

 始まった世界は寝静まった日常。

 深夜零時に聴き耳を立てる者は誰ひとりいない。



* *



 そして世界は七回繰り返された。

 二〇一〇年の三月二十三日から四月二十一日の間を七回。

 二回目からわしはユウジの部屋に”妹”としてでなく”ヒントを伝える者”として現れて、わしが言えることを伝えた。

 プロテクトがかかるように言えないことがいくつも有る中での合い間をくぐるようにした表現。

 そしてユウジは七回目でその意味を理解し、そして世界は進んだのじゃ。


「ふむ、いいじゃろう」


 わしの過ごす時間はどれぐらいになったであろう、一年足らずの物語を最初や途中や最後からやり直して来たこの世界。

 それまでのことをわしは全て覚えている――辛くも有った、悟られないようにでもノイローゼにもなりかけた。

 しかし抗ってやろう。わしの持つ情報が記憶が役に立つことを信じて、誰かが仕向けたこの掌で踊らされる世界を。

 精いっぱいに踊り狂ってやろう。


 そしていつか。


「ゲームを終わらせてみせよう」


 わしがどんなに傷ついても良い。わしのことを考えなくても良い。

 それがわしのここに居る意味であり、意義であり、わしが望んだことなのだから。


「共に歩こう、下之ユウジ」


 共に進もう未来へと。共に向かおう終わりへと。



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