第297話 √α-3 [loading error]
「……あれが正解だったのか」
俺は人生で人が過ごす中でもおそらくは奇異なものを経験した。いや、している途中だ。
「にしても、なあ」
知っていたとはいえ、いつの間にか忘れかけていたことを思い出させてくれるとは。
「ユキ達はゲームのヒロインなんだよな……」
三月のいつ頃か、俺はあることを急激に自覚した。
それは幼馴染に篠文ユキという人がいるということ。それとともに彼女が幼馴染であり”ゲームのヒロインである”ことも理解していた。
何故かはわからない。しかし記憶ではそうなったいるし脳内でもそうしっかりと位置付けられているのだった。
それでいて違和感など漂わせず、彼女もそのことについては全く口に出すことはなくまるで以前からいて、それを俺だけが忘れていただけのような感覚だった。
実際にそれまでのユキの記憶が存在するのだ。俺は中学の頃から少し知り合っていて――ん?
そこだけに大きな違和感というか、コレジャナイ感が表れるがすぐに消える……なんなんだ?
俺はユキとも”アイツ”とも仲は良くて、それで三年を迎えてユイやマサヒロと出会って――?
何かが激しく矛盾するような気持ちの悪さがある。しかしそれもすぐさま消えうせた……本当になんだろうな。
しかし、でも――
「まああんなに可愛いからなあ」
思い出すだけで人には見せられないニヤケ面になってしまう。
あんな可愛い子が幼馴染なわけが無い! しかしそれは事実で、更にはそれなりに仲も良好なのだ。
「桐も、ねえ」
そしてそれとほぼ同時に桐への自覚も出来た。自分の妹で有りゲームのヒロインである、と。それもまったく違和感のないことでそれまでの思い出もしっかり存在した。
思い出を辿るが、そこでまたユキと同じような気持ちの悪さが表れる。何か記憶に紛らわせるものの、浮いてしまうような。水に油は溶けないような……何を言っているのか自分でも分からない。
「他にもヒロインはいるってか」
俺は知りえないヒロインがまだ居るという。それが一体誰で、いつどの状況で会えるのかは分からないが、それは会うことが決定されたことだと――桐は言った。
俺が目の前でユキが事故に会うのを目撃し、その直後にそれが夢オチのように俺がベッドで目覚めた際に桐は色々なことを話された。
自分やユキがゲームのヒロインで、このままだとユキの事故に逢ってしまう四月二十一日の同じ時間を繰り返すと。
俺は色々思考錯誤した。時間もずらしたし、道も変えた。
しかし毎回それは結果は変わらないのだ。決定された事項のように”轢かれた記憶を持たない”ユキは車に、タクシーに轢かれてしまう。
何度も、そのユキが宙を舞う姿をみて、それからユキが息絶えていく様も何度もみせつけられた。
しかし桐の言うような答えは見つからず……七回目を迎えた時、俺はユキの手を引いて走り抜けた。
たったそれだけの答えだと呆れた半面安堵もした今日の朝のことを思い出す。そして今はその夜で、こうして時は進んでいる。
「まあ、いいか」
俺はベッドを跳ね起きた。このまま寝落ち寸前だったが急に尿意を催した。
部屋を出て廊下を歩く、そして俺は何故かわからないがある部屋で立ち止まった。
「……ん?」
その部屋は誰も今は使っていない、物置同然の空室だった。
しかし俺は何か、違和感を覚えた。
「(ここって空き部屋だったけ?)」
俺の脳内にそんな疑問が駆け巡った。その”空室”の事実を知っているのにそれを疑問に思ってしまっていた。
それはユキや桐に感じていた感覚とも良く似ていた。そして考え込む前に俺はドアノブを回していた――
「だよな」
そこには限界まで積み上げられているダンボール群が広がっていた。その場所に人が過ごすような気配は何もない。
「気のせいか」
思い過ごしだったと理解して俺は歩を進めようとして、ふいに近くというかこの階で水音を聞いた。
何かがこぼれたわけでも、あふれたわけでもない。水道管を水が通り抜けるような音。
それはたまに聞くことがある。二階にトイレはあるのだが俺は今は使っていない……誰かが使っているかと言えば姉貴も桐も使わない。
「……トイレトイレっと」
トイレを連想することを聞いてしまった為に尿意が増した。よし、急ごう。
「ふぅ……」
決してこれは何も意図を含んでいないことを弁解しておこう。あくまで排泄を終えた解放感からくるものだ。
「(ちょうど降りたことだし、茶でも飲むか)」
面倒臭がりなのかジジ臭いのか分からない理由で茶の間を過ぎてキッチンに向かおうとする。
「ユウくんー」
「ん? なんだ姉貴?」
「呼んでみただけー」
「…………」
「えへー」
「へいへい」
たまにこんなことがある。意味も無く俺の名前を呼んで答えが返ってるくと本当に嬉しそうにするのだ、
ちなみにシカトした場合にはションボリされた上に続けざまにした場合には泣きだされたので、今は一応は答える。
それに姉貴は身内ヒイキ無しでも美女なので、微笑まれて不快になるようなことがない。
しかし俺への溺愛が深すぎることは否めなく、若干ひいてはいるけども。
「お茶ぁっと」
麦茶ボトルを傾けてコップに注ぎぐいっと一杯。
「ぷふぁ」
飲みきり口元を腕で拭い、満足した俺は自室へと戻って行く。
「あ、ユウくん」
「なんだ?」
「呼んで――」
「同じギャグは繰り返さない方がいいよ」
「ギ、ギャグじゃないよ! そしてそれは冗談で」
「……どこからが冗談?」
「もう、いいの! 伝えたいことがあったから、明日お姉ちゃん早く行くからね」
「あいよ、月曜は弁当でいいんだっけ?」
「うん、腕によりをかけて。過去最大級の美味しさを提供しますっ!」
「ハードル上げるのは自由だけど無理はすんなよ?」
「えへへ、ユウくん優しい」
「どうも優しい弟です」
「ふふ、ありがとね。ユウくん」
「こちらこそ毎度ごちそうになります――」
そんな知ってしまった、思いだした事実があっても変わらないこともそこにはある。
これは姫城舞というヒロインの一人に殺されかけて姉貴の策略による生徒会に入れられて肝試しをした際に出会ったホニさんが家にやってくる数日前の出来事。




