第280話 √2-85 G.O.D.
ここまできてヒロイン死亡という、あまりにも読者をナメた構成に見切りをつけられる悪寒。
クソゲヱ√終盤にありがちな熱血展開?
「だから俺は、この真相を知ったまま戦いのニ週間前に飛ぶぜ!」
そして俺はそのセーブポイントからロードする。全てを最初ではなく、出来るならば途中から。
俺が知り得た未来を持ち帰って、それを生かして俺たちは生き残る。
「ええええええええええええええええええええ」
「え、出来ないの?」
「え、や、えっとですね……その展開は今までになかったものですから」
「で。出来るんだろ?」
「なんで知ってるんですか!」
「あ、当たった」
「山勘!?」
「いや、そうだったとは。そうかそうか」
聞きだす為にはまず誘導、基本だな。
「……うー、そうですね。確かに出来ます」
「なら、それでさせて貰うぜ」
「……でもですね、なぜこの方法があるのに今までのあなたが選ばなかったのか分かりますか?」
俺が選ばなかった……? そんな訳があるか、こんな攻略情報を手放しててたってのか? ないない。
「何か、どうせお前が教えなかったんだろ?」
「失礼な! というかなんであなたは私がそんなことが出来るとそもそも断定してるんですか?」
「え、違うの?」
ここまで話といて、その質問はどうかと。なにせ何度も違う世界の俺を見てきているはずだ。
「いえ……まあ、出来ますよ――はっ、これも山勘!?」
「いや、デジャブを少し思い出してな」
「凄いピンポイントですね!」
「……ああ、あああ。思い出して来たぞ……てか何で俺はそれまでの事を忘れていたんだろうな?」
俺は確かに思い出されていく。今年の夏までの出来事と、殆ど同じこと以前にも経験していた――そして隣にはホニさんが居て。
それが疑問だ、デジャブ程度で深層心理が思っていることぐらいしか何故俺は知れていなかったのか。
そして彼女はまた衝撃的なことを言い放つ。
「それは――あなたが望んだからですよ?」
「……へ?」
これまた素っ頓狂な声をあげてしまう。それは、まさか。というような疑問が大きく含まれていた。
「もう一度言いましょう。あなたが記憶を消してほしい、と訴えてきたからです」
「…………」
俺が、か。まあ、確かにホニさんの殺される場面は覚えていたいとは思えない。
ただそれは逃げているだけじゃないのか? かつての俺は――
「”俺は世界をやり直して、最初から困難を超えて行きたい”って言った時と”俺はこの記憶を持っていたら押しつぶされるかもしれない……だから消してくれ”というようにですね」
なるほどな、俺は。今までの俺は自分の意思でその道を選んだってことか。
「は」
「は?」
「ははははははははははははははははははははははははははははははっ!」
「なっ!?」
俺は爆笑する。
「今は笑いどころじゃないと思いますよ!?」
「ああ、分かってる。これは皮肉だ、自分に向けての嘲笑だ」
「え、それはどういう――」
俺は声を大にして、今度こそ腹から声を出すように深呼吸をして――
「とんだヘタレだな、かつての俺はぁ! 逃げてんじゃねえぞ、このクソヘタレ野郎ぉ! やり直す? 笑わせるな、それは逃避だ敗北だ! この知った事実を何で教えずに次の俺に丸投げってか……反吐が出る」
思ったことを声に出す。それはかつての未来に託す……いや問題を放り投げていったかつての俺への怒り。
聞いただけでふつふつと怒りが募っていく……この世界は気に入らないから、プレッシャーだから止める、と?
「ちょ、下之ユウジ! キャラが変わっていましてよ」
「ああ、キャラは変わった。いままでのヘタレで終わらせてたまるか! 確かに俺の死ぬ間際の記憶は消し去りたい、だがな。それまでの大切な思い出までも消してることに気付かねえのかな、クソみたいな俺は! 全部投げ出したら楽にはなれる、だがそれで世界を物語を繰り返してどうなるよ。過ちを繰り返してどうすんだよ!」
「………………」
一人語りを一旦止めて、俺は俺の突然の発狂ぶりに呆気を取られている女生徒へと向き直る。
「だから、いいか。俺はこの悲劇を惨状を繰り返さないからな。だから俺はさっき言った通りに、二週間前から始めさせて貰うぞ? 出来るよな?」
「……はい、あなたが望むなら」
「よし、じゃあ早速行かせてもらう。今度は絶対に死なないし、死なせもしない。違う未来を進んでやる!」
「……分かりました。記憶はそのままでいいんですね?」
「ああ、この楽しく辛いホニさんとの記憶は絶対に消さねえ」
……今まで俺と同じようにはならない、逃げない。
決意を思い出す。俺自身を守り、ホニさんを守り、日常も守る――未来をカンニング出来た今では、そんな未来には辿りつけるはずだ。
「……前回の物語のあなたとはまた違いますね、ここまで熱血だとは」
「ホニさんの可愛さの為なら俺は死ぬ気……いや生きる気で全て守り抜いてやる」
「日本語とキャラ間違ってますよ」
「確かに今までの逃げてた俺からしたら間違ってる――だが、これからが。今の俺が正史になってやる」
「……ビックマワスですね。負けてまたここに来た時は恥ずかしいですね」
「たしかにそれは恥ずかしいな。でも俺は何度繰り返しても、この記憶を消すつもりはない!」
「……あなたが心変わりしなければ、そういう決意をするあなたは私のタイプです」
「いや、いきなりそんなこと告白されても」
「まあ、下之ユウジを私は気に入ってますから。言うでしょう? 好きな子ほど苛めたい」
「少し同意しておくが……俺は今まで苛められてたんだな」
「まだ序の口です」
「……過去の俺はお前のせいでヘタレたんじゃないだろうか」
「まさかとんでもない、元が駄目だったからどうしようもないですよ」
「……相変わらずに苛めるなあ」
「えへ」
「褒めてはいない」
「……それでは二週間前ですね? 一応二週間の理由を聞きたいのですが。前日でも一か月前でも戦闘後以外なら私は戻せますよ?」
「ああ、思い当たる節があってな。二週間ぐらいあればなんとか十分だ」
「……そうですか、じゃあそこに寝て下さい」
「ああ、俺の席な……座り慣れてる」
「じゃあ、今度こそは――」
「過ちを繰り返さない、次の俺に託すつもりは滅法ない。俺は未来を目指す」
「……良い顔です。それでは」
「おやすみ――」
意識は遠のいていく、そして闇の中で時は遡っていった。
一日、二日、五日、一週間、そして二週間。
俺はその悲劇の、最悪の結末を知りながら、世界を戻る。
「さあ、これからが本当の闘いだ。がんばれよ、俺」
そして意識は覚醒し、瞳には強い日差しの光が差しこんで来る。
それは朝、いつもは調子の悪かった夏休みの朝。
携帯ディスプレイを開けば、そこには――
七月二九日。
* *
「……ふぅ」
なんというかいきなりに嵐のような人になりましたね、下之ユウジは。
「でも」
今までの”逃げ”の彼よりは何百倍もマシです。
「正直今回も消すんだろうかと」
思ってましたから。ヘタレて全てをやり直し、何も知らない自分への丸投げ。
「でも」
あなたが死ぬ未来だけではないことを、下之ユウジは気付けていたでしょうか?
「少なくとも、あの戦いで生き残っても」
結局はバッドエンドを迎えてしまっていたのですが。
「桐の言ったことを、覚えていると良いのですけど」
『ホニに力を使わせるな』と。桐は念押しのように言っていましたね。
「でも……今回の彼は大丈夫でしょう」
今まで”十回”ほど、この物語を繰り返す下之ユウジを見てきた私が言うのだから間違いないです。
「頑張ってください、下之ユウジ」
その意気で、未来に突き進んでください。次の物語に進む為にも、この世界をやり直すことがないように。
「……あの子がそろそろ、私に気付く頃ですから」
――その響く声は途端に途絶え、その人影は消え失せる。空虚な教室には誰もいない、ただただ空の机が並ぶのみ。