第269話 √2-74 G.O.D.
ここに来て便利要素の「大規模図書館」追加! これからもなんだかんだで使い勝手良さそうな気がする。
「あー……」
思い出すねえ、春のある日に何を思ったかの肝試し。
夏は遠く、夜は昼間の陽の光がないだけで、長袖Tシャツ一枚で事足りるほどにほんのりとした温かさ。
そんな中で「肝を冷やす」ことによって「身も冷やしてしまおう」という誰が考えついたのかがわからない、人の心理やらを利用した夏の名物行事。
夏を快適に過ごす為の冷房が普及した今となっては、涼しさを求めると言うよりエンターテイメントを求め故の通例行事になっていると俺は思う。
エンターテイメントと言えでも、それを何故春に行うのか……当時は企画者発案者であるマサヒロを色々と可哀想な子にも見えた。
だ、としてもだ。結果論で言えば、だ。
「これのおかげなんだよな……」
墓場の入り口で、石畳の道を中心にして様々な形と大きさを誇る墓石が並ぶ光景をみて思う。
この道を真っすぐに進むと僅かだが墓石群が途絶え、木々が生い茂る部分が存在し、それを抜けると今にも屋根が落ちそうな人気の無い神社がある。
その神社の本殿を前に見据えながら右向け右した先には――大きく、綱の巻かれた、一つの石というより岩がそこには鎮座している。
それは神石と呼ばれ、農作物を司る狼の化身が祭られている……というのを実は今日に学校内にある図書館で調べていた。
* *
ケーブル一本と機械仕掛けの箱一つで何でも調べられるこのご時世。各段に進化した情報社会の中でも勝てないものがそれにはある。
「まあ、分かってたけどな」
その地に伝われる御伽話に伝承、少なくともそんな伝説が存在するのは一般どころか世界にパソコンというものが現れインターネットが実現するよりも遥か前のこと。
そんな伝説たちがネット上に存在するのは各個人が調べ、投稿した故だ。
そして、残念なことにインターネット上に「ホニ様」という神様に触れているページは見つからなかった。
現代っ子は打たれ弱い
――と言われがちで、俺も弱い部類には入るが。ことがことだ。
「仕方ない、出かけるか
」
桐にホニさんのことを頼み「もしもの時はアレな?」と言って外へ繰り出す。
手には一冊の新品ノートとボールペンを持ち、俺はもしかしたらとそれを調べるのに適した心当たりのある場所へと向かう。
「(まさかここに来ることになろうとは)」
そこは学校、部活動に躍起になり叫びやら雄叫びをあげる生徒たちをしり目に俺は図書館(通称は図書室)へと歩みを進めた。
この学校の図書館は通常の学業を行う教室とは分離された「文化教室棟」という文館に位置する。
本の取り扱いはあのそれなりに揃う商店街の本屋でさえ打ち負かし、町内一の収蔵量を誇っている。
文化教室棟が三階建てなのに対し、図書館が占めるのは二階分のフロア。
その図書館を中心にして文化系教室が存在するなど、文化教室棟では図書館が主体と言っても過言でない。
それとその収蔵量から土日と長期休暇の間は時間を限定して一般公開されており、土日に訪れれば町内の人が本を読みに来ていることも多々ある(一部書籍は貸出も許可)
情報社会の中での現代媒体と既存媒体の共存とも言うべき、パソコンによる書籍検索も容易で非常に探し出し易い。
例えばこんなキーワードはどうだろう?
『民間伝承』
それだけで何千冊もの本の検索結果が露わになる……ここの図書館はケタ違いの収蔵量があるのだ。
田舎なこともあって土地に余裕のあるこの学校は図書館スペースだけで約七メートル×約九メートルの教室が二十個以上はあるらしい。
そこまで図書館が優遇される理由が。この学校の元が図書館だった、又は初代理事長が本好きだったとも言われているが定かではない(マサヒロ談)
とりあえず俺は本は読んでもライトノベルやコミックで「それは読書に入らん」と言われがちの娯楽を主としたものしか読む機会がない。
読書に入らなくても、図書館だから本に関するものは揃っていて、この学校のライトノベルやコミックスペースにはいくつもの書架が並び出版社別に分かれているというからこの図書館の本の揃いっぷりには恐れ入る。
だとしても入った最新刊は即刻貸し出されてしまうことや、まとめ借りもしていく輩がいるのであまり読もうとは思えないわけで。
入学して数日はラノベコミック探索に出かけていたが、今では諦めた。シリーズモノな場合、続刊が途切れていたりすると萎える。
……特に一巻の次の二巻だけが欠番していて三巻以降が平然と揃っている場合は非常にイラっとくるね。
大いに話題が逸れてしまったが、俺がここにきたのは他でもない。
ホニさんのことを聞けるだけのことでなく、調べられることがあるならば調べておこうと思ったからで。
『民間伝承 神 藍浜』
その三つのあまりにも限定的なキーワードに期待はしていなかったが
『検索結果一件 ”○○市民間伝承”<内容に”神”と”藍浜”を含む>』
「お、おお」
この検索エンジンの優秀さに俺は感嘆の声を漏らした。
てかなにこのチート検索エンジン、内容まで探り入れるとかさ……確かに俺も”細部検索レベル”なんてあるものだから”レベル7(最高)”に設定したとは言え、な。
「細部ってレベルじゃねえ……」
図書館の検索エンジンは化け物か。スーパーコンピュータも擦りよってきてもおかしくない。
この学校の本に対する執着心は凄まじいものがあるな、教室にもそういえば本棚がどんと置かれてたし……なるほどな。
いや、でもこの詳細検索に至っては内容まで網羅しているんだよな……?
「……もう電子書籍にした方が早くね?」
それでもこのパソコンには「検索」しかないわけで……なんというか、微妙に残念な感じに思えてくるのはなぜだろう。
「えーと、○○市民間伝承はっと……」
『二階F-31-56棚』
すげえな、ここのの所蔵量が棚の数字みただけで凄まじすぎる。
さてと、じゃあ行きますか
* *
そこで本を見つけ、その場で内容をパラパラと見ると”伝説”の章に藍浜町の藍浜神社の傍に祭られた神様――というあまりにもピンポイントなところを見つけ、この本で内容は間違えないことを確信し借り事が確定する。
少しばかり古い本だが、この学校生徒に限り貸出が許可される類らしく「貴重な本だから」と誓約書のようなものを書かされた。
その紙の記述に「紛失・欠損の場合は――」なんということでしょう、諭吉一枚が飛ぶ結果になるという。これは返さざるを得ない。
地味に通常教室には無い冷暖房完備の涼しいこの環境で読んで内容をノートにまとめようとも思ったが……ここにいると、どうしても帰りつらくなる。
快適さによる気分的に。
もう俺は断腸の思いで本を借りてその素晴らしい空調関係のもとを出て、学校の廊下へ出ると現実に押し戻される。
グッドバイエクセレントスペース、日本語読み英語よろしくのガチガチで使わなかったノートと借りた本を持って家へと帰り、朝に電話がかけられ「今日早速肝試しな」とマサヒロの伝言を思いだしてそれまでは部屋に籠ってこれを読みふけることにした。
そしてその本の記述には――
* *
「おーう、ユウジ。はやいな」
「まあな」
なんだかんだで楽しみにしていた俺がいた。ちなみに俺はホニさんを相手にご指名する予定だ。
「またくじ引きか、でも俺は引かねえぞ」
「ん? どしたユウジ、まさか誰か一緒に行きたい相手でもいるのか」
「「それはどういうことですか(かな)」」
マサヒロが
「お、おう!?」
「なっ」
草むらから幽霊よろしくの突然に姿を現した藍浜高校のアイドル二人。
「……ユキに姫城さん、おどかすなよ」
流石の俺も飛び退くからな、それは。
てかマサヒロもビビってるし……おいおい一応肝試し主催者なのに俺はまだしもその反応はいいのか。
「ユウジ様、一緒に行きたい相手というのはどういうことですか!」
「そうだよユウジ! だ、誰かいるってことなの?」
興奮気味にそのお美しい顔を近づける双方から逃げるように俺は答える。
「あ、まあそうだな……あー」
まあマサヒロや二人の意図することではないとは思うが――話したい、一緒に行きたい相手はいる。
「あ、ユウジさーん」
「おお、ホニさん」
そう、今日の目的は――
「ああ、ホニさん。ちょっと話したいことがあってさ――」
俺とホニさんを何度も見返して何か考える二人の姿があった事を俺は知ることはなかった。
そうして俺とホニさんの初めての肝試しという名の下に――二人の時間を作ったのだった。