第268話 √2-73 G.O.D.
地味ですがユウジが足を一歩踏み出しますー、主人公はそうでなくては
七月三十一日
俺は未だに蒸して、今にも蒸し饅頭が出来上がりそうなほどに熱せられた部屋の中で悔し紛れに団扇で自分を扇ぐ。
ただただ熱い空気をかき混ぜるだけだが、正直やらないよりは気分的にだいぶ違ってくる。
そんな時にふいに携帯の着メロが鳴りだし、バイブレーションで机の上を震わせる。
「はい、もしもし下之ユウジです」
「俺だマサヒロだ! なあなあ、今日はとびきり熱いなー。ユウジはどうしてるか? どうせ部屋でインターネットでもしてるんだろ? だからな俺が何を言いたいと言うとだな――そんなことより肝試しやろうぜ!」
俺は律儀に黙って聞き続けたマサヒロの弾丸喋りをなんとか試しという言葉を最後にして電話を切った。
インターネットをやって何が悪い、それにどうせなんとか試しってのも――
「…………」
なんとも無表情に画面をみつめている、また画面の端で着メロと震動を五月蠅くする携帯が――
「オフ」
俺は画面を開いて「マサヒロ」と表示された携帯液晶とスピーカから僅かに聞こえるマサヒロの声を無視して俺は静かに通話切りボタンを長押し――まあ言えば電源を切った。
「こんな暑い中に電話かけてきやがって」
俺は今日に限ってかはわからないが無気力だった。海水浴は楽しい半面疲労も訪れた、それから数日が経った今。
夏休みだからとインターネットをしてみるが、どうにも頭に引っ掛かることがあるせいで楽しめもしない。
その要素はと言えば――
「ホニさん……」
何者なのだろう、海ではしゃぐ姿は本当に神様とは思えないほどに好奇心に満ちた子供らしかった。 可愛い、そんな感想が姿や挙動を見る度に思うが――それは本当のことなのだろうかと、疑うようにもなってしまった。
それもあの戦いから、雨澄との戦いはあれどあれ以降は姿をみせない銃使いとの戦い。
あの時俺は完全に敗北し、ホニさんと桐に命を救われ助けられたのだ。
「…………桐は何か他にも知っているのだろうか」
知っているだろう。俺は自問自答した。きっと桐は知っている、あいつは攻略情報を持っているのだから――ただ必要以上にそれは引き出せない。
桐が話したがらないだけかもしれないが、核心に触れる部分は殆どと言っていいほどに聞きだすことは出来なかった。
雨澄を連れ込んで聞きだした情報も桐は知っているのだろう――銃使いの言っていたこともおそらくは。
「俺自身が見つけださないといけない……」
ってか。
ホニさんの本当の姿を俺は知りたかった。ホニさんのことをもっと知りたかった。
ホニさんはどうやって生まれ、どうやって過ごし、どんなモノに出会ったか――これまたホニさんを突き動かす感情の一つである”好奇心”が俺にもあるのだ。
そして俺は――
「俺はどう思われているのか」
俺は言い張っているが、ホニさん自身は俺を俺達を家族と思ってくれているのだろうか。
それさえも俺は知らなかった――聞くことが俺は怖かった、それを確かめることで。以前に俺は気持ちを確かめる言葉が全てを壊してしまったから。
それでもいつまでも立ち止まっていてはいけない。そろそろ足を踏み出す頃合い……いや、遅すぎるぐらいだな。
「俺はホニさんを知りたい、そのためには――」
本人から聞きだす。その方法しか俺にはなかった。
なるほどな……一応これでも俺は主人公だしな。それぐらいしないと何のためにいるのか分からないだろう。
「機会があると良いんだが……」
機会と考えて思いだす。俺はホニさんとどこで出会い、どこから始まったか。
始まりの場所、その時俺が訪れなければ出会うことはなかったであろう――
「肝試し……か」
そして見計らったかのように電話のベルが鳴る――しかし電源が切れ沈静化した携帯ではなく、二階に位置する俺の部屋から階段を降りた先にある居間の電話。
俺は自分の部屋を出た、階段を駆け下りた。
一階に居る姉貴が電話の受話器を取ってところで俺は居間へと辿りつき――
「ユウくん、マサヒロくんから電話――」
「姉貴、ありがと」
受話器を手に取りスピーカを耳にマイク部分を口に。
「もしもし、俺だユウジだ――」