第262話 √2-67 G.O.D.
盛 り 下 が っ て ま い り ま し た !
「はっ……」
目覚めるとそこは教室――って、まあ大体予想はつくようになってきた。
「居るんだろ? な?」
「はい、いますよ」
ここは夢の中の世界、何か自分が意識を落とした時によく見る夢。
そこには一人の女子生徒が居て、それ以外は誰もいない見慣れながらも空虚な教室だけがそこにはある。
「そっかー、俺撃たれたんだっけか」
ホニさんのことで動揺させられたとはいえ、なんとも情けないというか申し訳ない。
撃たれた部分が心臓だったからきっと俺はもう駄目なんだろうな……なぜか俺は自分の死をあっさりと受け入れようとしていた。
それも日々の鍛錬で何度も何度も死ぬ思いをしていたことで、死への恐怖が薄れてしまったからなのかもしれない。
「あなたは死んでませんよ?」
「え、そうなの?」
「はい」
素性を知らないであろう深緑色で前髪で表情の隠れる女子生徒は何を根拠にしては分からないが堂々と言い放った。
「胸撃ち抜かれた気がするんだが……」
「それはもう桐のチートで」
……もはやなんでもありだな。
しかしここに来てから妙に頭が冷えた……さっきの男が言ったことは本当なのだろうか、と思うもののこの教室の景色では考える気力さえ沸かない。
妙に心地よい温かさの教室で喋るのも面倒に思えてくるが、それでも俺は気になり聞きたい事がらがあった。
「てかお前は一体どこまで知ってんだ? ここに俺が来ては意味深な発言ばっか残すけどよ」
冷静に聞くがコイツは実はゲーム内でのキーキャラなんじゃないかと思えてくる、表情を見せない不思議感といい、その知っている情報といい。
こうして俺が倒されるタイミングも……姫城さんの告白とか棺桶登校の日とか――どうにもアブノーマルな展開の中でこの特定の夢をみてしまうようだ。
それを図ったかのように一見無駄情報に見えて、実はかなりのキーワードを放っていそうな前髪彼女の口にすることが時折気になるわけで。
「うーん、そうですね。少なくとも……あなたのスリーサイズまでなら」
「ボケはいらんから……てか何だその誰得情報」
誰が喜ぶんだそんなもん……いや、一部に需要あるとか耳で囁かなくていいから、誰かは知らないけども。
「とりあえずは”あなたの知らない”ことまでは知っています」
「……えらい抽象的だな」
抽象的以前に俺が知らずに、この女が知る事柄ってなんだよ……
「まあネタバレ禁止ってとこですかね、怒られます」
「誰に?」
「それもネタバレですからノーコメント」
「……お前ってなんだろな、夢見る度に会うけども」
「それもネタバレ……ですが、強いて言うなら”桐と同じポジショニング”ですかね」
桐と位置づけ的には同じ? そりゃどう捉えればいいのやら、決してコイツはロリキャラではないだろうし、変な喋り方もしないし……たまにワケワカランこと言ってくるけども。
ということは、何か見透かしたかのような事を言ってくることを考えると――
「あれか、チートキャラってヤツか?」
「まあ一種のチートではありますが……というか下之ユウジ、チートが万能だとは思っているんじゃないですか?」
「は? いやいやお前はどうせ知ってそうな感じだから言うが、桐は万能チートキャラだぞ? 強化に防御、瞬間転移とか多彩な力が有る時点で万能だろうに」
「では聞きましょう、ではなぜ桐はチートであるのに攻撃には参加せずに防御や味方の強化に努めているのですか? ――分かるでしょう、桐も使えるチートは限られていて、得意不得意はあるものです」
…………あいつに限ってなあ、出し惜しみとかな気もするけどな。
「それに、それへ頼っていてはだめですよ?」
「分かってるよ、俺は自分の力で彼女――ホニさんを守るつもりだ」
それは一度決めたこと、俺が神様ということでホニさんに惹かれているだけだったとしても――俺は守りきる。
信じないわけじゃない、でもホニさんが俺を騙していたとしても、少なくとも今まで過ごしたホニさんの日々は掛け替えの無いものだ。そんな時を過ごせただけで俺は文句なんて言う訳ない。
ホニさんが思っていなかったとしても、俺はホニさんを家族だと思っている。それは――揺るがない。
「じゃあ、俺はそろそろ戻るには――」
「寝ればいいんです」
「いや、知ってるよ。耳にタコが出来るぐらいに聞いた」
……気がする。って、あれ? 本当に何度も何度も聞かされて、何度も同じ動作を行った気がする。
「眠る前に一つヒントというものを」
「ん……なんだ?」
その女性はどこかクイズのネタばらしを楽しそうにする子供のような無邪気な声でそれを言う。
「これで会ったのは四回目――この世界に限ってのことです」
「…………は?」
「それではおやすみー」
「いや、だからなんでこう気になるところで――」
そうして教室に居た俺の意識は途絶えて、少しの沈黙と暗闇。三十秒を待たずして閉じる目の中にも僅かな光が入ってくる――
「おお、ユウジ起きたか」
「ユウジさんっ!」
いつの間にか自室部屋のベッドで寝ている形の俺へ身体をぐいと寄せて顔を覗きこむ、なんとも平然とした貫禄さえある桐の顔と、涙目で今にも崩れそうな哀しみの表情を見せるホニさんの――小さな二人の視線が俺には向けられていた。