第261話 √2-66 G.O.D.
ああ、今度は一日おき更新に落ちついちゃうのか……いやいや! もっと頑張れよ俺っ!
てか書いてて思ったけど鬱っ!? どこがコメディじゃ!
4.23、おもいきし時間帯間違えていたのでラストを訂正。
その時わしは、あまりにも強大な力を見た。
「ホニ……」
その名を呼んでも強い風の中では聞こえない。怒りに身を任せるようにこの世界に広がる自然を震わせある人が傷つけられた男に向かって牙を剥く。
固く少しの隙間から僅かな雑草しか生えることを許さない、アスファルトで固められた地面を突き破って姿を顕わすはこの変色した景色の中で唯一の真緑色の植物。
植物は”成長”の概念を蹴散らしておとぎの物語の中のように驚くべき速さで太く長く成長していく――それは力強さに満ちている。
空は大嵐が突然に訪れたかのように吹き荒れる風と、轟々と音を響かせる雷が地上に襲いかかる――それは怒りに溢れている。
止めようがない、その圧倒的事前の力に、それを操る神の力は――わしの力を以ってしても敵わない。
ただわしはユウジを治療しながら、現れたばかりの敵である男が捻られていく様を見ることしかできない――
* *
ナレーのナレです。桐は治療に忙しいので急きょ私が現況をお伝えしようかと思います――
「な、なっ……!」
『―――――――』
男はその突然の異の暴走に困惑し、それが大きな隙を作ってしまって結果、ユウジの負傷に怒りを爆発させたホニは周囲にある自然を操って銃使いの男を追いやっていく。
手で何かをもつことさえままならない暴風の中、いくら力を持った男でも抗えず持っていた銃を嵐の中に放り出してしまった――それを狙ったかのように地上から何十メートルをも茎を伸ばし空へと向かったそれは男を蔦で絡め取るように締めつけた。
その力を行使するホニは瞳を大きく見開いたまま長く艶やかな黒髪を逆立てて、静かなる怒りを表情に籠めて、男に自然を衝突させていく。
「がっ……お前見たいな異にこんな力があるわけがっ……!」
『――――許さない』
「は……?」
『ユウジさんを傷つけたことを、我は許さない』
「傷つ……けた? あの接続者は……胸を撃ち抜いて殺した……はずだ……何を言う――」
すると蔦の締め付けが少し弱くなり風が止んだ。だとしてもそれは見動きが出来ない程度には保ち喋ることを許すかのようにそうした。
* *
「がはっ……」
『そうだとしても――我はそんな死さえも打ち消すよ、それが大切な人なら絶対に』
「無茶を言うな、いくらお前が異の中でも”神様”に分類されても……それだけは覆せない」
『っ!』
「それに何故お前はあの接続者に依存する? ただ鈍器を普通の人より振りまわせるだけの男だろう」
『あなたには分からない――我がここにいれるのは、ユウジさんのおかげだから』
「まあ、そうだろうな。お前は人を寄り代にして、それでいて自分に理解を示す協力者――接続者のおかげで、ここに居れるのだからな!」
『違う! 寄り代は……認めなければいけないけど。ユウジさんを利用してなんかいない!』
「お前が思っているだけで……あの接続者はお前が少女の”なり”をしていることに疑問を抱かなかったのはなぜか分かるか?」
『それはユウジさんが優しいから――優しすぎるから、聞いてこなかっただけで――』
「違う、それは偽りだ――異がこの世界に平然と居座るためには、そこでは協力者が居る。無差別か意図したかは知らないが指定されたモノを接続者と称して、自分が存在出来ることを簡易にする――それが接続者であり、それは異であるお前自身も行ったことだ」
『それはっ……それはっ!』
否定……出来ない。我はユウジさんに救い出された直後に、我はユウジさんと共に居たいと思った――そして我を連れていって。
ユウジさんはなぜ断らなかったのか、ユウジさんにも家族があって友達がいないのに――我が勝手に入り込んで。
それをなぜ我は疑問に思わなかった? だから我はユウジさんに甘えていただけ?
この男が言う事が本当ならば――我はユウジさんの心を操っていた。
『そんな……そんなのって!』
「そうやって異はここに居座り、危害を与える――お前ならばその寄り代となった少女にだな」
そう、我は少女を――”あの子”を寄り代にしている。その事実には変わりなく、こうして我が戦うだけで傷つくのは”あの子”身体だった。
そして我はユウジさんを、自分がかかわったことで傷つけた。そして心も操って、自分が居れるように――変えてしまった。
『い――いやああああああああああああああああああああああああああ』
我は嘆いた、自分の愚かさに。
知らず知らずに誰もかれも傷つけて、ここに居たいという我儘でユウジさんを大きく傷つけた。
もう、分からない――我はどうすればいい?
ここから消えてしまえればいいの? そうすればユウジさんがこれから傷つくことがないの?
――じゃあ”あの子”はどうするの?
板挟みで、我はどうしようもなかった。
頼もしくて、眩しくて、憧れて、強くて――優しい言葉をくれるユウジさんが今はいない。
それがとても辛い、とても苦しい――とても寂しい。
『ごめんなさいユウジさんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいユウジさん――』
それはユウジさんには聞こえない謝罪の言葉、届くことの無い悲痛の言葉。
「だからお前ら異は、この世界に存在するだけで調和を乱す。それを俺たちは消し去っている――意味は分かるな?」
消されればいい、それで皆が元に戻れるなら――そんなことないか。我がかき混ぜた日常を以前のモノに戻そうとしても無理なこと。
そしてそれは悪魔のように甘い誘惑――まだユウジさん過ごしたくないのか、それなら居座って開き直って、今ユウジさんを傷つけた男を倒してしまえばいい。
自分がやっていたことを棚にあげて――何百年も生きて、やっと掴んだ幸せを逃がしてもいいのか? ――ユウジさんも桐も言ってただろう、一緒にいたいと居てほしいと。
少しぐらい甘えても、バチは当たらないよね――?
その誘惑はとろけるように甘く魅力的で、あまりにも自分にとって都合の良過ぎることだった――我はそうして悪魔の手に落ちた。
「なっ……ぐぐぐぐっ」
『我は諦める――迷惑をかけてでも、ここに居させてもらうよ』
「愚かな……っ」
『愚かな選択なのは分かってる、でもそうしてでも我はこの日々を失いたくない――』
それは女神のように心からの笑みで。
『だから、あなたには今倒れてもらうね』
男は締めつけられる蔦が首までやってきて、呼吸が困難に陥ったところでばたりと力尽きる――そうして世界は元へと戻って行く。
男はぐったりとしていながらも息絶えてはいない、気絶させただけにすぎなかった。
我は悪魔にはなれきれなかったよ。でもきっと、これからは……。
『これから騙すことになっても、ユウジさんごめんなさい――今はこの日々を、ユウジさんを失うのは辛すぎるから、少しだけ。少しだけでいいから猶予をください――』
戻った世界には突然に現れた巨大植物が道路には居座っているものの、空はかつての紺色を取り戻し――今は雲ひとつない星空が広がっている。




