第255話 √2-60 G.O.D.
※ほぼ続きません
俺たちに自分の存在を明かした雨澄はそれからも襲撃を続けた。
もちろん未だ存在を知られていないという前提の上であちらは戦っているようで、ただ淡々と戦うだけ。
一週間置きにやってくる雨澄の結界から戦いながらホニさん達を逃がして――戦いは終結する。それが何度も何度も繰り返されていくのだ。
ここだけの話、俺は雨澄の記憶を消して良かったのか数日、否数週間経った今でも未だに考えている。
雨澄には聞けなかっただけで、きっとあのアロンツにいる理由もあるはずで――もしかすると彼女が望んでやっていることではないのかもしれない。
それにホニさんを有害とは思っていないような発言などからも、彼女は感情の変化が乏しいだけで悪いやつではないのだろうと思う。
あの時無理にでも聞いていれば、何かを知れたかもしれない……お節介根性丸出しだがどうにも気になってしまったのだった。
きっとあんな雨澄と戦いの場以外で話せる機会は俺が雨澄にまた致命傷を与えて治癒して家に連行することでしかないだろうし、俺はそれを望まない。一回限りで十分だ。
とんだ甘ちゃんだと、実に薄汚い偽善者とも言われても仕方ない――それでも人を傷つけるのには大きな抵抗がある。それには慣れない自信もある。
ただこの「茶番」のような戦いが慣習化しているのは事実で、いつまでこの状況が続くのだろうか――そう思ってしまう。
予測推測通りに事が運ぶのはこの上ないが、どうすればこの戦いは終わるのだろうか?
雨澄を傷つけたいとは思わない、でもそれが要因でこの戦いが終わることがないというのなら。俺は一体どんな選択をすればいいのだろう?
俺はどうすることで出口を見つけることが出来るのか……何も分からないまま時が過ぎて行く。
戦いの日々と平穏な日々を渡り歩く俺とホニさんは、そうして季節を歩いて行く――
五月三一日
どうにかテストを乗り切って安堵の息を漏らす今日この頃。
五月は終わっても六月が控えるだけの間夏までは日付だけ見れば程遠いとも思えるこの時期というのに教室は窓を開けなければ低温サウナ状態だった。
汗っかきな方々や暑がりな方々だけでなく簡易団扇の決定版ことプラ製下敷きで悔し紛れの心身冷却を試みる生徒が現れ始まる。
それを見るだけで、今はひどく暑いのでは錯覚してしまう……視覚効果とはまったくもって恐ろしいものだ。
「体育祭の季節です」
金曜のロングホームルームではいつもは担任がやる気なさげにいつも通りの時間でホームルームを終わらせると直ぐに教室を直ぐに出てしまうので実質は他の曜日よりも長い授業前の休憩時間になっている。
担任がログアウトしてからはクラスは完全無法地帯であり、いつも通りのぺちゃくちゃがやがやわいわいなクラスが展開される――
しかし例外としてロングホームルームというクラスメイトが全員揃う場であることを生かした、役決め等を行う場合がある。
入学直後だと席決めやら委員長決めやらをまずは担任主導で行い委員長が決まった途端に担任はと言うと係決め進行を委員長へと丸投げして教室端のパイプイスに足を組んで座っていたことをなぜか思い出した。
そうして今日に限っては体育祭が数週間前に迫るこの時に種目決めをやることになったらしいのだが――
「体育祭って言うと、マナビヤで行われる体を動かす運動の大会のことだよねっ!」
お決まりの好奇心駄々漏れの夜空に輝く星達とタメを張れるほどにキラッキラに瞳を輝かせるホニさんがいた。
少し高校生平均よりは小さい背と椅子と背もたれに髪を挟みやすいので座るときに除けて背もたれ後ろにたれさせる長く艶やかな黒髪。
薄茶色の瞳は大きく、どこか小動物を連想させる愛くるしいオーラに可愛すぎて生きるのが苦しい。
”ロリ”と言われれば間違いではないが、それともまた違ってその長い長い黒髪と思いのほか出るところの出た、スタイル良しな体で色っぽさと幼さを兼ね備えた罪な容姿をしている(超絶的な褒め言葉)
見てるだけでご飯三杯と水十杯はいけるその可愛らしさに俺はもちろんのことクラスが総じて夢中であり、一年ニ組のマスコットとして定着していた。
正直女子生徒にも嫉妬されそうなほどに頭も良くスタイルもほどよいのに、可愛さで全てを相殺どころか上乗せしてかなり愛されている。
男子生徒は以下略、わかりきったことを聞くんじゃない。
「ユウジさんユウジさん! 借り物競走ってなにかな? 彼は大事なものを借りていきました……それはあなたの心です――な競技だったりする?」
「いやいや、某泥棒は大変なモノを借りたんじゃなくて盗んだんだから。というかホニさん違うから」
借り物競走の概要を説明すると神妙そうに頷いて。
「そうだったんだー、好きなモノって書かれてたら好きなモノを連れてくるってことだよね?」
「そうそう……って連れてくる?」
まて、物じゃなくてそれは者なのか!? ホニさんに連れて貰えるなんてウラヤマ……妬ましい、誰だ出てきやがれ。そいつになりすまして俺がでちゃうぞ。
「ホニさんは連れてくるって……誰を?」
「それは……もちろんユウジさんっ」
「「(ギロッ)」」
あー、すんごい嬉しいけど。そう言って貰えただけで天にも昇る心地だけども。涙でるぐらいに感激だけども。
……クラスメイトを敵には回したくないんだよなあ、だって体育祭とか下手すりゃ無法地帯だし。
その俺へと敵意を向けるのは殆どが男子生徒であり、その中に混ざるマサヒロはうろ覚えの読唇術によれば――
「(ば・く・は・つ・し・ろ)」
だが断る――そう言って鍛錬で地味に鍛えられた腕で思い切りシャー芯をブン投げた――五メートルは離れているのにマサヒロの右腕を射止めた上にぶっすりと刺さった場面はスルーしておこう。
「はーい、下之くん殺しは後でいいですから。さっさと決めますよ」
まてやゴルァ、委員長が同調した上に焚きつけたら終わりじゃんかよ!
だからもっと正統派で真面目な委員長だったよ、中学時代だったら。それが今は淡々とワラエナイジョークやらを言う変なノリの良さを身に付けて……あー、地味に強敵すぎるからな?
そんな訳で、喧騒にまみれる中で委員長は黒板に競技を書き出していく――