第254話 √2-59 G.O.D.
情報量少な過ぎなので後に修正・追加更新しますー
「私は――神から授かりし力で地上の調和を乱す異を消す為の存在”ALLONTSU”の一人」
雨澄は相変わらずの無表情と抑揚の無い声で淡々と言った……ってさりげに凄いこと聞けちゃったんじゃないか?
調和うんちゃらは聞いたけど”アイツら”の総称も”あろんつ”で良くなる訳だし、一番に気になるのは――
「雨澄、今神から授かった力って言ったよな」
「――神から授かりし力」
「いや細かいことは今はどうでもよくてだな……あのな、ホニさんも神様だぞ?」
「――理解している」
「力を授かった神様への反逆行為じゃないのかそれは。なんかおかしくねえか?」
神からもらった力を神様に向かって行使する……それじゃあ行く手も無いループだ、てか神様がマゾ化してしまう。
「――私の言う神は空の上の”神”という存在。地上に降りて世界の調和を崩す神とは異なる」
「……お前らは要すれば空の上さんに頼まれてってことか」
「――大体そう」
…………? えーと、まずはホニさんが神様だ。うん、ホニさんが嘘をついているとも思えないし。
じゃあ雨澄が出まかせを言うかと聞かれればなんとも言えないが、なんというかこいつはそこまで器用ではなさそうだ。
今さっきでも俺の言ったことを馬鹿丁寧にも訂正するところ見ると、だ。
そんで雨澄は空の上の神様に頼まれて……というかそもそも調和を崩すというのはどういうことだろうか。
「調和を崩すって、お前もあんな非常識な戦闘繰り広げれば調和なんて崩れないわけないだろうに」
「――だから私は”虚界”の中でしか戦うことが出来ない」
結界で戦うのをこだわるのはそう言う訳か、桐からも似たようなことは聞いていたがこれで確信出来る。
「言っとくがな、ホニさんは完全に人畜無害だからな?」
無害どころか有益だ。百害あって一利なしならぬ、百利あって一害なし。だってその可愛さは殺人的じゃん? 守ってあげたくなるジャン? それに時を過ごしたというにはあまりに純粋で無垢でとても優しい人だ。
「――ALLONTSUには使命がある。異を消すことで世界の調和を守る――この世界では神であっても人から見れば異質な存在」
そんな判断の仕方も歴史で習った民族差別を思い出す、どうにもそういうのは好かない。
興奮すると耳がはえるのがなんだ? 力を持っていて、自然を味方に付けることができるのがなんだ?
正直俺はそんな細かいことに固執しねえ、馬鹿で筋肉脳なんじゃないかと言われても仕方ないが――一緒に住めば何度も言うが家族の一人だ。それはもう大切な大切な人だ。
「異質とか俺には何の興味もないね」
俺の言ったことは届いたのか分からぬまま、雨澄は話を続ける。それはまるで言い訳を必死でする子供のような……表情からも言動からも読みとれないが、そう思えてしまう。
「――今までに異が存在することによって何千人もの人が死んでいる、それは”神の台本”とあまりに異なった展開」
死んだ、人がか? そんな人数が異のせいで死んだ? ……意味が分からなすぎる。
「――あなたの言うとおりその神様が有害とは認識できない、しかし同じ同種は力を持ったが為に損害・被害・死傷を人に与えている」
まあこのホニさんを見て有害だと言うのならば、俺が三時間に渡ってホニさんの可愛……無害っぷりを力説するところだ。
ホニさんは置いておいても……神様だって色々あるものな。ホニさんは「農作物を司る恵みの神」だったよな?
他にも「厄病神」やら「死神」やらがいるのだろうか。
「――異というのも複数が存在し”地上の神”に”魔女”や”大きく使い方の誤った力を持つ能力者”など」
「神だからじゃないのか」
「――少なくとも異の一種にしか過ぎない」
……魔女と能力者ってどうよ、と思いそうだが。考えてみれば神様も既に雨澄という見かけ能力者がいるわけだ。
ここまで聞いて抵抗や反論を見せてもしょうがないのし、実際には魔女も本当に居るのだろう。そこまで聞いたところで、俺は考えた。
「じゃあお前らは神様に力を貰ったことと、正義感みたいなもので異を消してんのか?」
だとしたら雨澄の言うとおり有害な異と出くわすことも十分にあり得て、今日は俺が相手だったとはいえ命の危機に瀕すこともあるだろう、それなのに?
「――――」
今まで「こんなに喋って貰えるとは、なんか悪いなー」とも思うほどにペラペラと喋り教えてくれた雨澄が途端に口を閉ざす。
押し込めるように、それは聞かれたくないかのように微かに口元をぎゅっと結んでいた。
「何か……あんのか?」
「――これは自分個人の問題。これで質問には答えたはず」
言い終わったと同時に俺のみが受け答えをしていたせいで他二人はだんまりを決め込んで聞いていたところを、雨澄は桐の方を向いて言った。
「……ああっ、そうじゃったな。それでは和の記憶を消させてもらうとするかの、あとは少し弄らせてもらうぞ」
「――私は本来なら接続者に攻撃を加えられた段階で死んでいた。何も言わない」
「……いや、すまん」
正直それは言われると、返す言葉もないです。
「――どうして謝る?」
「なんというか、その。仮にも女の子だからな、雨澄も」
仮というのが失礼すぎるほどに、姫城にタメを張れると自分は思う程の美女だ。
「――女の……子?」
「違ったか? まさか女装で――」
「女の子」
良かったー、一瞬ヒヤっとした。
「……ああー、一応女の子のやわ肌を切りつけるのはショックが大きいもんで」
あー、思い出したくない。
「――――」
「どした?」
「――これまでで、そんな言葉を寄こしたのはあなたが初めて」
「そうか? 少なくともお前は俺から見りゃ十分に美人な女の子だけどな」
「――美人」
「あ、そのまんまの意味な」
「――――」
その時の雨澄の顔はほんの少し違う表情をみせていたような……気がしなくもないが、良くは分からなかった。
「じゃあじゃあ、さっさとやるかの。わしの行うのも能力の一つじゃが、まあ催眠と考えてもらえば良いじゃろう」
「ふむふむ」
「ユウジ、五円玉貸せ」
「桐、頭を貸せ」
シリアスを一瞬にしてぶち壊しにする素晴らしきかなギャグをありがとう。
「(……なんじゃユウジ、こんなところイチャつきたいんなど不謹慎じゃぞ)」
「(そうじゃねーよ! なんだよ五円玉って、おいおいあれか? あれなのか?)」
糸を吊るして「あなたはだんだん~」なあれっすか。
「(ベタに五円玉揺らしての)」
「(催眠術バカにしてんだろ、今時アニメでもそんな表現”昭和”扱いされるってーの)」
昭和は言い過ぎでないと思う……でなくともそんな方法は今ではインチキ丸見えだし、食いつく奴もいないだろうに。
「(ふむならば五十円でどうじゃ)」
「(値上げ交渉なんてしてるつもりねえんだよ)」
「(大丈夫じゃ、穴も空いている上に色もレベルアップじゃ)」
レベルアップ云々は金メッキと純銀を見て「金色だしこっちが高いっしょ」と金メッキを堂々とっていくような感じに勘違いしているんじゃないだろうか。
少なくとも重量と色が変わるだけで「意味の無い行動」には変わりないと思うのだがどうだろう?
「(やめろやめろ。ただ醜態さらすだろ――)」
「あなたはだんだん記憶がなくなーる」
「おいーっ」
……ええと、結果的に記憶が本当に消えました。
その後は意識を落として「記憶を弄って、戦闘中にユウジに逃げ切られた。という設定に変えたからの」と言って最後に俺が治癒の為に運んだ草むらのところまでワープ(桐チートの一つ)して草の上に寝かした。
周囲には未だに俺のか雨澄のかは分からない血痕が飛び散っていて、確かに戦いが有りここで治療を行っていたことを思いださせられる。
にしても桐曰く「あやつは”逃げられた”という感想しか抱かないはずじゃ」と言うが……本当に大丈夫なのか?
こうして、これほどにもあっさりと命を賭けた戦いは終わり。アイツら……いやALLONTSUの行動理由も、法則性も少しは理解できた。
雨澄の記憶を消した以上は、今後も襲いかかって来るのだろう――だが俺はあきらめはしない、また今度は逃げ切ってやるつもりだ。