第257話 √2-62 G.O.D.
六月十七日
「ユウジ、ホニ行くぞ」
「了解っ」
「うん!」
俺たち三人は家を飛び出した。そうして変わり果て大きく色を変え印象を変え雰囲気を変えた世界を走り出す。
「今回の”虚界”範囲はどこぐらいだ?」
「ふむ、このようじゃと一番最初と同じように商店街を抜けた方が良さそうじゃの」
「分かった」
「――重量制御。人物指定男一人、綿毛のような軽さへと――書換追加申請、重量制御を指定した人物への一任。制限時間二三分五秒」
「よしきたっ!」
整備が数年は行われていないであろう、少し古くなり始めて小さなひび割れが見受けられるアスファルトの地面を大きく蹴って――跳躍。
空へ空へと近づくように、俺は上へと向かい。地上から十メートルの地点で静止してからぐるりと辺りを見渡す。
その刹那に空気を裂いていく軽快な音と共に、自分の顔スレスレを飛んでいく一本の矢。
「――今日こそは」
相変わらずの単調な言い方で、弓を構え矢を射る雨澄。俺は負けじと右手に持つ鉈を構えてその次々と襲いかかる矢を弾いていく。
「今日も逃げ切らさせてもらうからな」
ゲームのような表現はかなり悪いが、大きな傷は負わないことは勿論のことでも全勝中だ。
それだけ逃げ切ることが出来続けている。
雨澄に長髪するように言った途端に、雨澄は体の方向を変えて地上を逃げて行く桐たちを矢の先端は捉える――
「おっと、そうはさせないぞ?」
「――――」
雨澄が既に射っていた矢も静止した世界からの離脱――虚空を踏み台にしてそこまで一気に飛んですべてを弾く事ができた。
「おらぁおらぁおらぁあああああああああああああ」
鉈と矢の先端の金属部がぶつかる音が奏でられ、放たれた矢の数はゆうに今だけで百本を超える。
それを弾いた上で地上に流れ弾として当たらないように、それでいて雨澄に返すことがないように鉈の傾け方を工夫することで被害を無しにすることができる。
「――――っ!」
『(もう少しで地点を抜ける、カウント五……三……一。抜けたぞ、お主も離脱せい)』
「おーけい」
これで終わりと言わんばかりに放たれる矢を鉈を振りまわすことで生まれる衝撃で全て撃ち落とすと飛び退くように雨澄から離れて行く。
「――くっ」
なんとも”今回も駄目だった”ような悔しさと諦めが入り混じった表情をしならがも雨澄は職務をせめて全うするように矢を放つ――飛んでいく最中追いつく矢も左に一振り、右に一振りするだけで何もない地上へと軌道を変えて行った。
――そして桐の抜けた地点まで辿りつく。こうして俺は逃げ切ることができたのだ、そうこれは毎週に同じように。
戦いのパターンや動かし方は変われど、根本は何も変わらない――今日も戦いを終えて、見慣れた風景の場所へと帰還した。
六月二一日
「おい……桐、どうなってる」
「わからぬ、周期的にはまだ先のはずなのじゃが」
居るのは自室の部屋の中、俺と桐が鍛錬計画を立てていた放課後夕方のその時。
世界は変わった――しかし何かが違う。
「これはもしかして――」
「ああ、恐れていたことがついに来たか」
窓を見やると、そこには異なる色彩の世界――ただ。
「雨澄の”虚界”じゃ……ない!?」
その色はあまりに明るく、誰もが一度は絶対に見るであろうその色だとしても、それがこの状況ではひどく不気味だ。
赤と朱に染まる世界――夕焼けのようにグラーデションがかかっているわけでもない一色塗、いや二色塗のそれは明らかに今までの世界とは異なっていた。




