第253話 √2-58 G.O.D.
緊張の糸が切れた結果がこれだよ!
「はっ……ああ」
現状を一瞬で理解した。俺は雨澄との戦闘の末に倒れてかつてと同じように喧騒の無い教室の夢をみている。
……決して尺から来る駆け足展開とかではなく、前回以外にも以前にも何度もここへ訪れている気がしするのだ。理由はまったくもって分からないのだけども。
「また、いらっしゃいましたか」
そう、前に見た夢と同じように。深緑色の髪と野放しにされて瞳の隠れるほどに伸びた前髪を持った少なくともこの学校の制服を着た女子生徒。
「ああ、いらっしゃいました……そういえばなんでまた同じ夢なんだか」
人間の記憶整理も兼ねて睡眠中に見るのが夢……のはずなのだが、少なくとも記憶にこんな女子生徒はいない。
「それはー、私が意図的に見せているのですから」
「……じゃああなたは夢の精とかなんかなんですかい」
「んー、じゃあそれでいいと思います」
恐ろしくテキトーだな。というか受け流してくれ、なんでそんなファンタジックなこと肯定してしまうんだ、この人は。
「最近どうですか?」
「……ぼちぼち?」
「そうでなくてですね、現実はどうですか? 何か大変なことに巻き込まれたりしているんですか?」
「なぜわかったし」
「あのゲームの登場キャラの一部は仕様が変更されてちょっとした力が宿っていますからねー」
「ちょっとまて、お前はゲームの登場キャラって言ったよな? じゃあお前は――」
「少しばかりは理解しています。私も一種のチートキャラの一つですからね」
「……チートを連発するとゲームはつまらなくなるぞ」
「クソゲーですから」
…………なんとも不思議な会話をしているな、と思う。
そしてこうも気兼ねなく話せるのも相手の瞳こそ見えないが、色々と喋るたびに形を変える唇からは表情が実は豊かそうに見えるし。
更に……どうにもこの人、いやコイツとは面識がある気がするのだ。
「そろそろ目覚めの時間みたいですね」
「そうなのか?」
「はい。それではまた、今度は過ちを繰り返さないことを祈っておきます」
「過ち……?」
さりげに意味深なことを言われた気がする……過ち?
「はーい、おやすみ」
「ちょ、また首筋狙い!? なんかこれも何度もされている気が――」
* *
「……」
夢が覚めて意識が戻っていくと、周囲からは話し声が聞こえる。
桐とホニさん……そしてこの独特でなんとも間の空く喋り方――
「はっ、ここはっ!?」
そこはかつての草むらとは変わってあまりにも見慣れた場所だった。
至って普通の薄汚れた天井と壁、照明、窓にかかるカーテン、デスクに備え付けられたパソコン。
そうだ、ここは俺の部屋だ。
「ユウジさんっ!」
「起きたか」
「――――目覚め」
ベッドを背中に感じ、聞こえる声の方を向くとある三人が座り込んでいた。
一人はなんとも幼女な容姿に老婆喋りの桐と、長い黒髪を持った可愛い神様なホニさん、そして以外だったのが――
「雨澄!? どうしてここにっ」
確かに俺はお人よし万歳な自分の持ってる薬を塗ったりと申し訳程度の治療はしたが……まさか訪問してくるとは。
「幼女に連れられた――」
「幼女とはなんじゃ! これでもわしは幼……ん?」
「ユウジさん、ユウジさん!」
そこには俺が起き上がった直後に瞳に大粒の涙を浮かべるホニさんが――
「あああああ、どしたホニさん」
「どしたじゃないよ! ……あんなにまで傷ついて、本当に心配したんだから」
考えてみればホニさんに初めて怒られた気がした。そう思うとなんとも罪悪感というかなんというのか――
「あー、悪い」
謝った。色々気苦労もかけただろうし、自分が勝手に動いたことでかなり悪い事をした気がする。
「ユウジさんは悪くないよ……我が、我がもっとユウジさんのことを考えるべきだったんだよ」
「いやいやここまで気遣ってくれる時点で考えてくれてるぞ? ありがとな、ホニさん」
ホニさんは本当に優しいな。桐も間に挟むようにホニさんに向かって言う。
「そうじゃホニ、それにわしがお主に止めろと言ったのじゃからな」
それを聞いて桐には感謝せざるを得ない。神様の力はきっと凄いのだろうけど、どうにもホニさんに使って貰うのには気が進まなかったからだ。
なぜかはまったくもって分からないが……ちょっとした予感?
「ああ、桐は本当にありがとな。日々の鍛錬が少しは実を結べた気がする」
「うむ、もろに付け焼刃じゃったがな。まあよくやった」
大会で良い成績を残してコーチに褒められる部員の気持ちのような感じだろうか、そう少しでも認められると嬉しい。
そんな一方で疑問がふと過る。なぜに平然と桐とホニさんは分かるとして、治療をしてしまったとはいえ、敵である雨澄が何故ここにいるのか。
「それで桐、お前が雨澄を連れて来たって言うが……なぜに?」
「まあそれはの、何も聞かず逃げられる前にわしは拘束術を使って家まで運んだのじゃ」
……まあ、拘束術とかもなんだかんだで使えそうだよなあ。
「はぁ……ようするに情報収集の為ってことか」
「ぞうじゃな。予測の通り、雨澄は力を使い果たした後で傷は少しは癒えておるが疲弊などで動けないので非常に誘拐は容易じゃった」
「誘拐て……」
言い方が物騒にも犯罪的にもほどがある……ってまあ、あの空間内ならある種治外法権なのだろうけど。
「今も手足の拘束術を解かず、力も抑えつけておるから自決も逃げることも許さないつもりじゃ」
抜け目ないっすねー
「でも舌噛んだらどうすんだ?」
「――その手があった」
「いやいや乗らないでいいから!」
「もしそういうことをやると言うのならば、この”ギャグボール”を付けて貰うぞ」
「どっから持って来たし!」
「――――それは遠慮したい」
ですよねー……ってなんでこういきなりにコメディチックな展開に様変わりするんだか。
「でも場所知られていいのか? いや駄目だろ」
「――そういえばそうだった」
雨澄は見かけによらず抜けているのだろうか。
「気にせんで良い、ここを出るときは記憶操作をするからの」
「またチート乙」
本当になんでもできるな。どうせ空も自由に飛べれば、世界旅行にも行けるんだろう。
「――何を聞きたい」
「……スリーサイズとかどうかの?」
「エロ親父かっ! いや……エロババアか!」
「失礼な! 喋りだけで判断するとは言語道断じゃ! エロは好きじゃがババアではない……お姉さんと呼べ」
「あのー、いいすか。もうスルーしても」
「――構わない」
「我が思うになんかこの人も結構ノッてる気がするよ!?」
……あー、シリアスもバトル展開も台無しだあ。
まあ、いいか。ホニさんも桐も、一応雨澄も無事っぽいし。
「まあ冗談はここまでにして……ごほごほん、あー、マイクてす。ユウジ、どの声でやった方がいい?」
「いや冗談続いてるじゃんか、いい加減に本題に入ってくれ」
「……雨澄ズバリ聞こう、お主は何者じゃ」
「――答える義務がない」
「でもどうせお主の記憶消されるのじゃから、変わらないじゃろう」
「――確かに」
「いや理屈おかしいから、説得されちゃだめだろに」
「――――じゃあ話す
……いいのか、それで。
「私は――神から授かりし力で地上の調和を乱す異を消す為の存在”ALLONTSU”の一人」