第252話 √2-57 G.O.D.
なんか予定からどんどんスレてるような
毎日更新してると修正出来る暇もないね……でもそうでもしないと終わる気配がしない
正当防衛。殺されかけたから、俺は殺そうとした。実際に俺は今日だけで何十本もの矢を向けられ、数本は掠り、数本は突き刺さった。
慣れていなければ下手しなくてもショック死するであろう……そんな痛みをこらえて俺は鉈を振りかざした。
誰かを守るためには、誰であろうと傷つけなければならない――それは思えば思うほど理不尽だ。
「くぅっ……」
左腕は痛みで動かすことも苦痛で、脇腹もとにかく痛む。
無傷と言える箇所は丁度目と鼻の先で鉈を振りまわして盾となっていた左腕の肩から手まで――指などは度重なる鉈の回転に柄がいくら木製でも痛々しく腫れあがる様をみせていた。
俺は桐のおかげで戦えて、飛べるだけ……ホニさんともチートの使える桐とも違うベースは一般人なのだ。
そして今の今まで使っていた戦い方も所詮は付け焼刃の一週間の内に身に付けた浅く弱いもの。
桐が分析し、桐の言う事を信じ、一点だけを信じることで戦って来れたのだ。
だから今振りかざせたのも、全て俺の手柄でも力でも何でもなく――桐とホニさんを守るという決意から来るものだった。
『かはっ――』
目の前には同じ高校に通い、少し前まではすれ違うだけの同じ藍浜高校の生徒同士にしか過ぎなかった女子生徒である雨澄和。
それが今では血で血を洗うようなお互い……いや少なくとも俺は死の淵に立ちながらの闘いを繰り広げていた。
そんな彼女に一閃。俺は鉈を振りかざすことで彼女の体、胸辺りから腰辺りまでを切り裂き――鮮血が溢れる。
その白地の制定品である女子制服が血の色である黒く濁った赤色に染まって行く。その光景はあまりにも残酷であまりにも惨いものだった。
自分も似たような風体を晒しているとは言われればそれまでだが、やはり間近で。それも自分の手で行ったそれを見るのは衝撃が大きかった。
「俺は……」
そんな日常へと、非日常へと足を踏み入れてしまったのだと。改めて――いや、少しの希望も吹き飛んで理解する。
『がっ……くぅっ』
「っ!?」
空を飛ぶように空中に静止する俺と雨澄。かつては走るように自由に動き飛び交った空から雨澄は未だに止まることのない血を抑えて射ることのなかった弓と矢を落としてから両手で腹部を抱えながら――鳥が授かった羽を突然に失くし浮力を失くして真っ逆さまに落ちるように。
目の前から雨澄が一瞬にして消え、おそらくは鼻をつくであろう血の臭いを残しながら地上へと落ちて行く。
「まっ――」
俺は罪悪感か、善人気取りでもしたいのか。その落ちる雨澄を追っていた……痛みに目を瞑り、追いかける度に付着する雨澄の流れ続ける血を自分の血で塗れた顔や体にぶつかりながらも、俺は彼女の落ちる体を追う。
「間に合えっ……」
三階から二階ほどの屋根を伝ってもいた為に、もうすぐそこには地面が迫る。
俺はズキリと痛み動かすことを拒む足を動かして、その虚空に見えない踏み台をつくるかのように勢いをつけて下へ、下へと飛ぶ。
世界は元へと戻って行くその途上にもなり、不気味な色彩は自然な色合いの背景へと返って行く――
『――――』
「っ!」
寸前で廻り込むかのように固い固いアスファルトにしっかりと足を付けて、その鳥の羽のように軽い雨澄を受け止める。
その頃には完全にかつての雨澄の作りだした世界は消滅していた。
『――――何がしたい』
かつての日常に戻ったその世界で、こんなところを見られたら大惨事間違いなしなので人通りの少ない通りの、更に路地を奥へと入り誰も寄り付かない雑草生い茂る廃工場まで抱き抱えて連れてきた。
痛みにやっと思いに口を開く腕の中の雨澄はそんな疑問を漏らす。しかし俺は。
「知らん」
『――?』
その通りで、嘘もなにも付いていなかった。でもあるとすれば、そうだな。
「後味が悪過ぎる」
『後――味?』
「俺はお前の言い分を認めた訳でもないし、抗うつもりだが。何も聞けないまま消えて貰っても困る」
『何を――聞く』
「なんでお前はこんなことしてんだ?」
『私が――こんなこと?』
「……悪い、とりあえずは喋らせると傷に響くな」
『――なぜ考慮する』
「さあな、その理由をどうしてもあげるってなら――同学年?」
『???』
「これでいいか……コイツを適当に塗っておきゃ治るか」
桐から貰った謎ドリンクとは別に謎塗り薬も持っていたので、溢れる傷口をワイシャツを千切って悔し紛れの止血をした上で薬を塗っておく。
すると途端に血は引き始め――まったく、なんてチートな薬だ。
『消そうとして相手に――手当』
「まあ、俺は認めてねえけどな」
鉈を持って交戦する気があったのには違いないが、傷つけるつもりは少ししかなかった。
それもここまで入るとは……それでか鈍器である鉈の恐ろしさを再確認する。
『(お、お主! 今何が起ったのじゃ! 意図してテレパシーを切るなんぞ、教えてもおらぬのにそんなこと――)』
「(ああ、すまんすまん)」
『(お主と話せているということと”虚界”が消えた――もしやお主っ)』
「(一応倒したことに……なるのか?)」
『(なんで曖昧――お主今、怪我しておるな! 伝わる情報にノイズが入るから間違いないな)』
「(そんな判断基準だ……)」
『(薬を使わんか……って、今だれにそれを使っておる! まさかっ、和にか!?)』
「(まあ)」
『(……お主はとんでもないお人よしじゃな、待っておれ。今ワープするぞ――場所は理解した)』
「(えっ、来んの!?)」
そうテレパシー会話をしながら桐を話していると突然に受話器を下ろされたかのごとくブチリと切れた、ちなみに手は雨澄の体に薬を塗ったくっている。
『――私は今あなたを消すかもしれない』
「お前らは現実では活動しないんだろ?」
『な、なぜそれを――!?』
「それにお前、いや雨澄はもう結界張る力も残ってないだろ?」
『私の名を――! 結界を――! 知っている!?』
「俺の家族にはちょっとしたチートな妹がいるんだ……って、ぐっ」
話していることで紛れていた痛みが戻って来る。
おー、痛え。この薬雨澄の後だけど使っていいよな? あ、いいか。
「くぅっ~~~~~~かっ~~~~~~~~~」
唸るよ、俺は。正直すこぶる痛さだもんなあ……死ぬわ、これ。桐チートなかったら死ぬわ。
「ここにおったか……!?」
「ユウジさん……っ!」
「おお、二人とも来た……ってはええな、おい」
「ユウジ! 今治療するからの!」
「ユウジさん! ユウジさん!」
「大丈夫だってー……いや大丈夫じゃなさそうか、イテエ――」
「ユウジィィィィィィィィィィ」
「ユウジさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
『――――――――』
あ、イテエと言いかけて意識飛んだ。なんというか俺は肝心な時にダメダメだなあと思いつつも。
傷が少しは癒えたらしい雨澄が何か変な生物でもみるような目で俺を見つめる視線を感じながら俺の意識はフィードアウトしていった。