第244話 √2-49 G.O.D.
Q.俺のタンメンまだー? A.まだですー
そんな訳で学食へとやってきた。
地上一階に位置し一年二組の教室を出て昇降口との反対方向に直進すれば藍浜高校学生食堂である。
冷暖房完備の上で高速道路のサービスエリアのフードコーナーになる給湯・給水・給茶の三機能を持った機械が四つ用意されコップはエコを考えたか使い捨て紙コップではなく透明のプラスチック製コップが使用されている。
注文方法は食券式で、学食のおばさん達デザインの料理が描かれた食券ボタンが些細なこととはいえ温かみを感じる。
食券で購入した券を「汁物」「丼もの」「その他」の三つにに分けられたコーナーへと向かい、そこで受け付けているおばさんに渡してその場で待てば頼んだものの受け渡しがされる方式だ。
その他にもフライドポテトや唐揚げなどのものを扱うスナックコーナーも設けられていて、更にはパンおにぎり、弁当なども扱って購買とはまた違ったラインナップのものが買える。
まあ、来てみればいつも通りのそれなりの混雑とカレーやらラーメンなどの濃厚な味の空腹を促進し財布を紐を緩めること確実な匂いが漂っている。
「ユウジさんっ!」
もうカメラで撮ったらホニさんのその瞳のキラキラさにフラッシュは夜でも不要なんだろうな、ってなほどに輝いていた。
初めて遊園地に来て、初めて縦横無尽にレールを走り抜けるジェットコースターを見て、期待に胸を躍らせる子供のようにも見えてくる。
ようするに、可愛い。
「こ、これってショッケンキって機械だよね!?」
「ホニさん知ってたんだ?」
「うんっ! チュウガクセイって人が読んでたマンガに載ってたんだよ!」
なる、中学生の野郎はいつか変な知識を叩きこんだことでいつかシメてやろうかとも思っていたが、今回ばかしは感謝しておこう。
いや、マンガに感謝すべきなのか? そんな風に知識を入手する手段の一つであるから俺は規制すべきではないと思うね! ……って、話題が逸れまくった気がする。
「ホニさんは何食べたい?」
「えっと……じゃあ、これ!」
ホニさんは食券のあるボタンを数秒悩むことも無く指差して言った。
「きつねうどん?」
「そうだよ! 我はうどんの”きつね”と言われるお揚げが大好きだもん!」
そう言えばそうだ。こうしてホニさんと出会えたのもお揚げのおかげだったことが思い出される。
あの時はお稲荷さんで余ったお揚げを姉貴に頼み込んで貰って持っていったことも覚えている。
「ホニさんはお揚げ、好きだもんな」
更に最近だと、姉貴が「今日はきつねうどんにしようかなー」なんて呟いた途端に「わ、我も手伝っていい!?」と必死さを感じられるほどに食いついていた。
その晩のホニさんはともかくご機嫌で度々「お揚げ美味しかったな~」なんて言っていたことも回想する。
まあ俺が言いたいのは、すっごい可愛い。
「でもいいのか? もっと他のものでもいいんじゃないか?」
値段は二五〇円と高校生には手頃かつ、思いのほか麺の量が多くお揚げも分厚いので納得の一品だ。
それでも、ホニさんに姉貴が渡した学食費ならばうどんが二つ来てもお釣りがくるほどだ。
「ううん、我はこれがいいの。お揚げもそうだけど、うどんには少し思入れがあるんだ」
その時したホニさんの横顔はなにかを途端に思いだしてじんわりと懐かしむかのようなもので、少し俺は考えてしまう。
「(ホニさんのことを、俺は殆ど知らないんだよな……)」
ホニさんに話された「何百年も生きてる」という途方もないことだけで、あとは殆どを知らない。
ホニさんは何百年もその容姿をしているのか、どういう思いで神石の近くで過ごして来たのか、なんでホニさんはそこまでお揚げが好きなのかも――
何も俺は知らなかった。
「(まあ……)」
でも俺はホニさんから話してくれるまでは聞かないつもりで、それに無理強いしてまでも俺は聞きたいとは思えない。
……だけども、もしそれを話さないことでホニさんが窮地に立たされたり、病んでしまう結果が見えているならば俺は踏み込むつもりでいる。
なによりホニさんは俺は大切な存在だからで、まだ踏み込まないことでホニさんとのこの日々を楽しめるようにしたい。
「ユウジさん、後ろがつかえてるよ?」
「おおっと、すんません!」
急いで俺は小銭を入れてホニさんと同じ麺類の味噌ラーメンを注文する。
ここの味噌ラーメンは地味に美味しいのでラーメンを頼む時は味噌ラーメンか坦々麺の二択だ。
値段も三〇〇円と育ち盛りの高校生のお財布には結構に優しい。食券を取ってホニさんの後を追って汁物コーナーへと足を向ける――
まあ、そのあとは。お揚げを追加トッピングで三枚へと増強してほくほく顔のホニさんは異常な可愛らしさがあり。
なんとも丁寧でおしとやかな箸遣いで食べている光景はその周辺どころか学食全域で「なにこれかわええ」世界が展開されていた。
異論なんて滅相も無く、俺がホニさんラバー一号だぜと妙な高揚感を感じつつも後ろからは背中を貫かんばかりの鋭い視線があった。
そうしてほかのメンバーと揃って駄弁ったり、ラーメンをずるずるとすすったりしながらなんとも幸せなお昼時は過ぎて行った。