第238話 √2-43 G.O.D.
うつろうつろになりながら書いたせいで自信がない……要修正
五月一七日
休み明け。週始めである月曜の気だるさを押し殺して、欠伸をしながらも鞄を持っていつもより長く感じる通学路をとぼとぼと歩いて登校する。
時には友人やクラスメイトと合流して、話題をつくって先陣を切り歩きながら会話を繰り広げている光景もある。
しかし、今日は訳が違った。
まばらに歩く藍浜高校の生徒は、ある男がある女の子を連れていることで注目を一点に集めていた。
男はどこにでも居そうな平凡男子高校生、そして女の子は藍浜高校指定ではない紺色のセーラー服と地面に憑かんばかりの長くしなやかで真っ黒の髪。
その男は巷では噂になっている「アイドル独り占め野郎」であり、男子生徒群は「今度は小さい子もかよ」というような恨み妬み憎しみが籠ったどんよりとした視線を男に向かって浴びせている。
その女の子は異性からみても同姓からみてもすこぶる可愛いもので、人形のように整った顔と何か庇護欲を掻き立てられるその容姿のおかげで女子生徒群は好奇の視線を向けている。
その男はこう考えているだろう。
「通学路でこの様子じゃなあ……」
この先に来るであろう展開を想像してため息をつく。
下之ユウジ、彼は女子中学生の容姿をしたなんとも可愛らしい”神様”を連れて学校への道のりを進んでいく――
* *
「ホニさんも学校に?」
そう行うことが決まったのは、襲撃当日、週明け前日、学校前日。つまりは五月六日こと今日のこと。
桐の言うとおり、家にいることが必ずしも安全策とは言えないのは話を聞いていて分かる。
それならばどうすればいいのか。
「うむ、家にはホニしかいないからの。襲われた場合は対処が難しいじゃろう」
「それで学校にか?」
「アイツらが言っていたのをまた思い出せ。狙われているのは何度も言うがホニだけでなくお主もじゃ
「ああ、雨澄は”憑かれたものは消す”みたいなこと言ってたな」
ホニさんが言っていたことを思い出す。土地神になっていたせいで神石に拘束されていたけれど、俺の守護神になることで行動が出来るようになった……と言った感じのことを言っていたはずだ。
「我は一応、ユウジさんの守護霊になってるからね」
「憑かれた俺もホニさんと同様にコトナリと考えられてる……か」
そういう理由で俺も狙われているらしい……が、コトナリの定義が良く分からない。
今冷静に思えば勘違い――な訳ではないか、二回目にすれ違う際にかけられたのは『異の匂いがする』ということだった。
一回目は肝試し前で、ただただ彼女には違和感を感じた程度だったが。二回目からはホニさんと出会い、合わせるかのようにこれでも大人数いるであろう藍浜高校生徒との一人にすれ違い様にそんなことを言われた。
そして商店街で会った三回目は『匂いは間違っていなかった』と確認が終わったかのように結界を張って世界を壊れさせ……殺しにかかってきた。
つまりは俺をホニさんと出会ったその時から雨澄は目星をつけていたと考えることが出来、俺はホニさんを連れた時点で雨澄の発言を参考にするならばおれはコトナリと呼ばれるようになった。
アイツらにとっては俺もコトナリになり、ホニさんもコトナリと呼ばれた。アイツからすればコトナリを二つ消すのに手間取らないだろう。
「出来るだけ行動を共にした方が良いじゃろう」
「いやでも、こんな時になんだが学校が――」
行けたらいいなと思うのはダメなのだろうか?
命の危機とともに今後の将来を気にしてはいけないのだろうか。
「ううむ、そうなればホニも共に学校に通うのが良さそうじゃの」
家に居ても安全は保障出来ず、現代を知りうることが出来たばかりのホニさんが隠れ蓑に出来る場所は少ない。
「家に結界を張っているというが、それはわしが学校へいかずに維持する必要性が生じるからの非現実的じゃな」
「でも桐、雨澄は学校に――」
登校する女子生徒だ。
「うむ、賭けじゃな。結界を張るのには労力と精神力などが使われ、維持するのにも体力を削るじゃろう。昨日みた結界は少なくとも下級の”広範囲点繋式”じゃから、学校全体に結界を張るというのには時間も労力も異常に要するから無理じゃろう」
「でも学校よりも商店街から俺の家って結構な距離あるはずだぞ」
「うむ、しかし前もって行われていたことのようじゃ。準備に何日も費やしていると見える。そして実質稼働出来るのは十数分にも満たなかった。この結界は一度切りの使い捨てでもある」
そういえば桐が言っていたことを思い出す、アイツらは結界内でのみで力を発揮する、と。
「わしの展開したのは範囲を狭めた上で行った”狭範囲点繋式”に術無効化とアイツらに気付かれないような細工をし、展開期間は一週間ほどじゃ」
範囲を狭めることで必要以上の体力を使わないようにし、大幅に展開時間を増やしってことだよな、更には対雨澄ら用の装備をしている。
「……ん? 維持することで体力が削られるってことは、桐もそうなんだろ? 大丈夫か?」
「心配するでない、それに言ったであろう。わしはお主を全力でサポートすると」
そう言ったこと桐の強がりでないことを俺は望みたい……すまんな、桐。
「結界を張る意味とかは力の増幅だけなのか?」
「いや。結界を張り、中に対象を閉じ込めることによって現実にさほど影響を及さずにすむのじゃ」
考えてみればあの砕いたアスファルトの地面も、あとあと結界が解けた後も残っていたらニュースになりかねない。
「あとでみてくれば良いが、道路に目立つ破損個所などないはずじゃ。それがあくまでも結界内で行われたことじゃからの」
雨澄らはコトナリを消したいが、現実ではコトナリを消す為に力を振るって影響を与えることはしない。
ある種の境界というか、ポリシーのようなルールのようなものがアイツらにも存在するのだろう。
「じゃあ結界を張るのに時間がかかるってことで、学校が安全ならそこに立てこもればいいんじゃないか?」
「うむ、しかしわしは賭けと言ったはずじゃ。先程まで張られていた結界から想像したまでで、もっと力を有し学校なんて軽々と包み込めるほどの結界を展開し維持する力を持つアイツらの一部が居ないとも限らない、だからそれは完全な安全策ではないのじゃ」
……雨澄よりも強い奴が居る可能性か。
「行動を共にしつつも、お主は特訓基礎体力を付けて応戦とまでいかなくても身とホニを守れるほどにはなるのじゃ、戦うことを今は求めるのは酷じゃからの。ただ逃げ切れることだけを考えるが良い」
* *
ということで俺はホニさんと登校することになり、いつものメンバーを驚愕させつつ、周囲の歩く生徒達に衝撃を与えつつ……学校へと向かう。